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第9回・2007年の活動

サル班 − 感想文

受講者の感想

佐伯美幸

「スゴイ!!」
 これが、屋久島で過ごした一週間、私が毎日感じたことです。
 ゴールデンウィークが明けて少したった5月11日、私は偶然大学のインフォメーションで「屋久島フィールドワーク講座参加者募集」の貼り紙を目にしました。「屋久島…って島だよなぁ…講座は夏休み中だし、一週間も島で過ごせるし、野生のサルを追うってすっごく楽しそう!!申し込みしてみよ~。行けるといいな…。」私には、専門知識なんてものは全くなく、本当に好奇心しかありませんでした。しかし、申し込みのためのレポートを書くために図鑑を見たり、サル学の本を読んだりしているうちに、どんどんサルに会いたくなりました。
 屋久島に着いた次の日、実習初日は足慣らしのために森の中を歩きました。私は小学校から高校までスポーツ漬けだったので、体力にはある程度自信がありました。でも、そんなの通用しませんでした。道がない森の中を歩くのは、かなりキツかったです。初めてサルを見た瞬間の感想は、正直覚えていません。私はサルに出会う前に、空港、バス、道路、星(天の川)、ムカデ、初めて見る植物、色んな物に対して「スゴイ!!」と感じていたからです。何を見ても、ひたすら「スゴイ!!」と言っていました。しかし、途中で鈴木先生に「何がどうスゴイの?」と聞かれ、「あ~、私、“スゴイ”しか言ってないや。」と思いました。そして、鈴木先生は、「“スゴイ”という言葉だけだと、そこで思考が止まるから、何がスゴイのか言うといいよ」とおっしゃいました。きっと、鈴木先生に出会わなかったら、私は何を見ても「スゴイ!!」しか言えなかったのかな、と思うと恐ろしいです。鈴木先生、ありがとうございます。
 サルを追って一番感じたのは、「人間と似ている」ということです。赤ん坊が母親に甘えるところ、喧嘩をするところ、昼寝をするところ…。毛づくろいや採食の時間が長くて眠くなったこともあったけど、野生のサルを追って観察するという貴重な経験をすることができ、この講座に参加できて本当に良かったと心から思います。また、サルのことだけでなく屋久島の植物やシカ、人々の暮らしなども知る機会があり、本当に充実した一週間を送ることができたと思います。ありがとうございました。
 「いつかまた絶対屋久島に行こ~♪」…家に着いて家族に言った最初の言葉です。(笑)

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林 恵理子

 私の夢は、野生生物の生態を調査して、環境破壊が野生生物に与える影響を解明することだ。今大学では生物学を学んでいる。しかしそれは、遺伝学などのミクロな生物学で、生態学などのマクロな生物学については詳しくは学んでいない。もっとマクロな生物学について深く学んでみたかったので、今回フィールドワーク講座に参加しようと思った。

写真 人づけされたサルは観察者のことを無視して、人のそばでも平静な行動をする。だいたい5mから10mぐらいの距離で個体追跡をする。  この1週間は、とても充実していたと思う。朝から夕方までずっとサルを追跡して山に入っていた。山を歩くことは予想以上に大変だったが、実際に自分でデータを取ることはとても楽しかった。大学では頭で仮説などを考えるという作業が中心なので、実際に目で見て観察するという作業はとても刺激的だった。また、この1週間で自然に対する考え方も大きく変わった。私は今まで「自然=人の手の入っていない深い森」であると思っていた。屋久島にはそのような自然が多く残っているのだと思っていた。しかし、実際には屋久島西部の半山・川原地域などの森は、ほぼ全面的に伐採を経験している。つまり人の手が入っていたわけだ。この事実を知って、「自然っていったい何なのだろう?」という疑問が私の中で生じた。今もまだ明確な答えは出せていないが、手付かずの森を守ることが重要なのではなく、今残っている森と人が共生していくことが重要なのだということに気がついた。
 今回、フィールドワーク講座に参加して、さまざまな人たちと出会って、たくさん刺激を受けた。自分に足りないものも分かった。そして、夢を実現させたいという気持ちがよりいっそう強くなった。いつか必ず夢を実現させて、地球の未来に貢献できる学者になりたいと思う。
 最後になりましたが、フィールドワーク講座を主催してくださった方々、講師の先生方、チューターの方々、そして参加者のみなさん、貴重な体験をどうもありがとうございました。


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小路田 俊子

 屋久島フィールドワークの感想といえば、出会った人、だろうか。寝袋を担いで旅をした話をしてくれた人や、先生と話したことなど。さすが屋久島フィールドワークとあってアウトドア派な人がたくさんいて、私には経験のない話をたくさん聞いた。同い年なのに自分よりはるかにたくましい人ばかりで、かっこいいなと思ったり、焦ったりした。だから人のことをよく覚えている。その影響あってか、フィールドワークからしばらくたって私は一人旅をした。おそらく寝袋のお姉さんの影響だと思う。さすがに寝袋デビューは果たせなかったけれども。その旅先でも、これまた自給自足をしているという大学生に出会った。お年寄りしかいない集落に乗り込んでいって農業をしているらしい。今度その人を訪ねていくつもりをしている。このように屋久島の経験は自分にとても影響している。
 私はサル班で、四日間サルについてまわって行動をいちいち記録した。フィールドワークとはもちろん人間がコントロールできないもので、実験のように調べたい状況を設定することができない。あるのは観察データがたくさんあるだけ。しかしたくさんあったデータもGPSの信頼性を考慮すると、とても少なくなってしまった。そのデータをもとにこの四日間の屋久島のサルを分析する。こちらの意図でデータを選別してはいけない。データから何か言えないかを探していく。予想をしてもいいけれど固執してはいけない。当たり前だけど難しかった。自然だから私たちの見ていない原因があるかもしれないという疑いは払えないから、理屈をつけるのにも自信をもって断言できない。それが結果をまとめるのに苦労したところだ。また、サルの行動を単純化しなくてはいけないから4つに分類する。それも割り切りが難しい。そもそも何を観察するかということは用意されていたけど、観察項目をきめること自体難しそうだ。なんだかんだ言ってないでやってみるしかないのだろう。実は実験であっても理由をつきつめれば、あやふやなのかもしれない。それにこだわりすぎて何も言えないのは面白くない。
 私はどちらかといえば何だかんだ考えて行動は少ししかしない。だから一人でスタスタと旅に出る寝袋のお姉さんが印象深かった。そしてその後お姉さんは私の行動に少なからず影響を与えている。

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綿引 和巳

 僕が屋久島フィールドワーク講座に参加した動機は、自分がフィールドワークに向いているのか、これが本当に自分のしたいことなのかということを確かめたかったからです。屋久島を出る時には、その目的以上のものを学んだのだと感じました。
 まず、屋久島に来た時は、目の前の大きな山と透き通った青い海に屋久島の迫力に圧倒されました。あの荘厳な山は穂高岳を、青い海はハワイを思い起こさせました。そこで、僕は買ったばかりのデジカメを取り出し、パシャパシャと撮りました。講座に参加する前に屋久杉ランドに行き、抱きしめられないくらい大きな屋久杉や人懐っこい鹿に驚き、そこでもパシャパシャと。
 フィールドワーク講座が始まっても、初めて見るサルに興奮して、「あ、サルだ、サルだ」といった感じで写真をパシャパシャと撮っていきました。自分が思っていた以上にサルは人に慣れていて、5メートルくらい近づいても気にしないようで、仲良く毛づくろいしている手先の器用さやエサを食べている様子をじっくり観察できました。野生のサルが、人の存在を気にせずに行動していることがとても新鮮でした。僕達は、一匹のサルを一日中追跡して、そのサルの一日の行動をじっくり観察しました。4匹のサルの観察をしたので、育児放棄気味のお母さんザルやすぐ寝るタイプの年寄りザルなど、色んな性格のサルがいることも分かりました。
 この屋久島フィールドワーク講座を通して、自然との接し方や物事の見方を学びました。ずばり、「飽きるくらい時間をかけて楽しむ」ことです。普段の生活では時間はとても慌しく動いてしまうためか、効率よく結果が出る方法を考えてしまうことも多く、ゆっくり何かを味わう時間さえも惜しんでしまいます。観光地に行った時も、こうやって自然と接している時も、そういう感覚が抜けずに面白そうなものを探して、デジカメを取り出してパシャリで終わってしまいます。そんな態度では、これから起こるかもしれない面白い現象も見逃してしまいますし、そもそもどうしてその対象が面白いかさえも分からないのではないでしょうか。陳腐な例ですが、街中で好みの異性がいてちょっと目を向けるだけでは何もその人のことを何も分かっていないわけで、一緒に遊んでみたり、話したりしてみて初めてその人の魅力に分かるといったことに似ています。もし自然が自分の彼女だったらどうやって接するだろうかなんて事も考えながら、森を歩いてみるのもいいものだなと実感しました。そういう態度は、自然について知りたいという気持ちだけでなく、この豊かな自然をいつまでも守っていきたいという気持ちも生み出してくれます。また、研究をする際にも、結果を出すことに急ぎすぎずに、まずはよく観察してみることが重要だという事を実感しました。実際、最初は気にならなかったサルの個性的な癖や細かな仕草にだんだん気がつくようになったし、どうしてこんな行動をするのだろうという疑問もじわじわと浮かんできました。
 そんな経験を経て、また改めて屋久杉を見に行ったら、屋久杉は僕にまた違う顔を見せてくれるのではないかと思います。フィールドワーク講座でのもう一つの収穫は、屋久島のファンになったことです。まるで、実家に帰りたいと思うような感覚で、ときどき屋久島のことを思い出します。最後に、鈴木滋さんと西川真理さんは、植物の名前からデータの分析の仕方まで丁寧に教えてくれました。色んなスタッフの方々のおかげで、快適な一週間を過ごせました。他にも、飲み会の席で個性的な人生経験を語ってくれた講師の方もいました。本当にありがとうございました。

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講師から

鈴木滋
 今回は天気にめぐまれ、サルも難なく見つかったので、たっぷり観察できました。群れも追跡の難しいところへいかず、例年よりも追跡しやすかったのではないかと思います。今回の学生の皆さんも、みな粘りづよい観察をしてくれました。はじめは、追跡できるかどうか足下の危うい学生さんもいましたが、実際に追跡してみるととくに問題なく、後半はサルの追跡を楽しむ余裕もあったように思います。
 講師の鈴木は今年でサル班の担当は3回目で、手順などにはずいぶん慣れてきました。調査のテーマや方法などをこちらであらかじめだいたい決めてあるので、学生さんには森に慣れて、サルの観察に専念してもらうことができました。フィールドワークのもっとも肝心なことのひとつは、実際に見たことからテーマや謎を自分で見つけるところにあるので、そこのところを十分に体験してもらえなかったのは残念ですが、実際に観察したデータをつかって、自分たちの考えを検討するということはそれなりに体験してもらえたことと思います。
 今回は、こうした経験の蓄積から、わりと計画的にデータがとれたので、予想以上に面白い分析結果を手に入れることができました。群れ間の関係はこれまでもいろいろな観察や報告がありますが、システマティックにデータをとるには、人手がいることもあってなかなかできないので、学生さんの手を借りて同時追跡をできるのは助かりました。この結果から確定的な主張をするのは、データ数が少ないために無理ですが、今後、どのようなことをすれば群れ間関係の実態を明らかにできるのか、有意義な前進がえられたように思います。 写真 

西川真理(チューター)
 天候に恵まれ、サルを4日間追跡することができました。4日間は短かったでしょうか、それとも長かったでしょうか? 暑い中、汗だくになりながら、沢や険しい地形をなんとか越え、道なき森の中、サルの姿を追って歩く。4日間のこうした体験でフィールドワークの面白いところも大変なところも実感することができたのではないでしょうか。私自身、5年前に受講生としてFW講座のサル班に参加しました。その時は、野生のサルを見るのはもちろん初めてでしたし、森の中をサルについて歩けるということ自体に驚いたのを今でも覚えています。FW講座期間中に抱いた疑問が今の私の研究テーマの底辺になっています。受講生の皆さんは何が一番印象に残りましたか。屋久島までの交通手段を考える、サルを森の中で観察する、取ったデータの解析、全国各地から集まった同年代の仲間や講師陣とのコミュニケーション、地元の人との出会いなど、美味しいシカ肉料理、このFW講座は様々な経験ができる濃い場です。このような場にみなさんと共に参加できたことを感謝いたします。
      
沢の中の岩上はサルがよく休憩する場所 人づけされたサル 大川の滝にて 半山川河口の大岩の上にて

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このページの問い合わせ先:京都大学野生動物研究センター 杉浦秀樹