京都大学野生動物研究センター屋久島フィールドワーク講座 >第9回・2007年の活動−スタッフより

第9回・2007年の活動

スタッフより

屋久島フィールドワーク講座の開催にあたって

屋久島町環境政策課長 塚田 英和
 屋久島フィールドワーク講座は、オープンフィールドミュージアム構想によりスタートしたことになっている。もとより異論を唱えるつもりはないが、屋久島側の事情として、屋久島に関わってきた研究者と連携した事業が必要との認識が当時あった。これは「あこんき塾」という島人の活動と研究者との接点があったこと、行政側の政策が開発志向から環境保全へと大きくシフトしたこと等の事情による。またこの政策転換は、よく世界遺産に登録されたためと勘違いされやすいが、そうではなく屋久島の場合は、やはり島からのうねりみたいなところが大きな要因だったような気がしている。
 その大きなうねりが、原生林保護運動であり、瀬切川流域の森を残す運動だった。この経緯を踏まえ、上屋久町の林地活用計画がスタートし、最終的な到達点として屋久島の自然資源を島民の財産と位置づけ、その資産価値を劣化させることなく活用し、新たな産業の創出や島民の所得の向上に役立てるというものであった。
 この考え方に立つとき、島の資産である自然環境の経年変化をモニタリングする必要があるし、その学術的価値を評価するシステムが不可欠となる。その手立てとして、これまで屋久島に関わってきた研究者の裾野を広げる必要があると考えた次第である。FW講座開設の行政側の意図はここにあった。
 一方、島側の取り組むべき姿勢として、資産価値を目減りさせないため、人や動物の干渉による生態系の弱体化や死滅を防ぐ方策が、屋久島に住むすべての人々の共有の認識とならなければならないが、残念ながら現実はそううまく行ってるとは言えない。ゆえにこれまで島民向けの講座やシンポジウムを機会あるごとに実施してきたつもりである。
 何はともあれ、第9回(実質10回目?)を数える講座が無事終了したことが、まず喜ばしい。思えば、第1回目の講座を開講するに当たり、関係者一同京都に集結し、喧々諤々の議論があってこの講座は産声を上げた。そしてわれわれ地元行政担当者の力量不足から、厳しい予算の中GCOE等の助成によりここまで回を重ねることができた次第である。山極・丸橋・池田・湯本・安渓氏をはじめ、これまで携わってこられた多くの研究者の皆様のご協力に心から感謝申し上げたい。
 そしてこの講座が今後も継続して開催できるよう努力を続けたいし、将来的にはもっと発展し、環境学習の拠点施設が島内に立地できるようささやかながら願っている一人である。

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屋久島町環境政策課 泊征一郎
 はじめに今回の講座開催にあたって多大なご協力をいただきました研究者の方々を始め関係者の皆様に対し、町担当者として心より感謝申し上げます。
 今回は、人と自然、シカ班、植物班、サル班の4コースに計15名の大学生が集い、残暑の厳しい中、無事7泊8日の講座を開催する事ができました。
 この屋久島フィールドワーク講座は、屋久島を研究の舞台としてきた研究者の方々の長年にわたる屋久島での取り組みから、貴重な資源を保存しつつ、自ら蓄積してきた知識や成果を島へ還元したいという熱い思いと、屋久島の持つ資源の持続的効果的な活用を目指した本町の「林地活用計画」とが結びついて打ち出された、「屋久島オープンフィールド博物館構想」を具体化するものとして開催されています。
 皆さんは、本講座を通して、通常の屋久島観光では踏み入れることのない森や林道に入って、素の屋久島の自然に触れ合ったり、あるいは、地元の人たちの話を聞き、触れ合いを通じて島の文化、気質を肌で感じたりすることで、それまで持っていた屋久島のイメージとはまた異なった屋久島像を抱いたのではないでしょうか。この稀有な体験が、皆さんの貴重な青春時代の良き思い出となれば幸いです。
 私が担当となって3回目のフィールドワーク講座でしたが、残念ながら屋久島高校からの参加が得られず地元高校生との交流の場を提供できなかったり、また応募数が減少し倍率も2倍を大きく割ってしまうなど、事業を継続して実施するために対処しなければならない課題も見えてきました。この場を借りて、実際に講座に参加した皆さんからも、特に応募する立場から、より効果的な募集について(とは言っても予算は・・・)ご意見等ありましたら気軽にお寄せいただきたいと思います。また、ぜひ友人や後輩にも紹介していただき、フィールドワーク講座の認知度向上にご協力いただきたいと思います。
 皆さんのハードな野外実習のサポート役として至らぬところも多々あったかとは思いますが、「第9回屋久島フィールドワーク講座」の成功を喜びつつ、記念すべき第10回の開催に向けて講座の更なる充実を図っていきたいと思います。

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校長先生を担当して

鈴木滋
 1999年にはじまったフィールドワーク講座も今回で9年目です。私は3年目、4年目、7年目に講師として参加し、今回は4回目の参加でした。発案者の湯本貴和さん(地球環境学総合研究所教授)が、かつて4年目のときだったと思いますが、「10年続けよう」といっていたその10年目まであと一息のところまできました。9年のあいだには、いろいろな状況の変化もありましたが、このフィールドワーク講座は、当初からの雰囲気をうまく受け継いで、熱心な講師やチューターと、全国の意気盛んな学生のみなさんの参加をえられ、例年のように充実した期間を無事に終えることができました。また、上屋久町のスタッフの皆さんには宿舎や車の手配などさまざまな援助をしていただきました。さらに、第7回のOGである久保 奈都紀さん(鹿児島大教育学部)にボランティアスタッフとして仕事してもらいました。ご協力いただいた皆様には、深くお礼もうしあげたいと思います。
 今回の校長先生は、事務局の京都大学霊長類研究所の杉浦秀樹さんからのご指名でつとめさせていただきました。校長先生といってもとくになにか特別な準備などをしたわけではなくて、事務方全般はすべて杉浦さんと上屋久町の泊さんをはじめとするスタッフの皆さんにおまかせしっぱなしでした。全体のプログラムは、ほぼ例年通りで、順調にものごとはすすみ、開講式から公開講座や閉講式にいたるまで、ほとんど私の出る幕はなく、町長さんや仕出し食堂のなっちゃんに挨拶したり、食事や発表の号令をかけるぐらいしか出番はありませんでした。歴代の校長先生のなかでももっとも楽な校長先生役ではなかったかと思います。なんにつけ、事故もケガもなく、緊急事態での出番がなかったのはよいことでした。
 今年はなんといっても天候に恵まれました。下のほうではとうとう一日も雨が降らず、晴れの多い快適な天気が続きました。おかげで、サル班はこれまでになく、よくサルがみられた年でした。山の上では大雨に降られた班もあったようですが、どの班もおおむね予定通りのフィールドワークをこなせたようです。観察しやすかったのみならず、どの班も時間や体力の消耗が少なくてすんだのではないかと思います。
 じつは今年度は計画当初の段階で予算がまるで足りない状態で、講師は手弁当で集まってもらうという話もでていました。植物班の講師の村上先生は東京から「手弁当でもなんでも参加する」との熱いメールを送ってこられ、講師陣は元気づけられたものでした。そんなこんなで今回は昨年より少ない4班構成で計画はスタートしました。結局は、杉浦さんのご尽力もあり、京大のお金を都合してもらうことになり、しかるべきお金を使えたので、講座そのものを順調に進めることができたのでした。
 しいてピンチといえば、従来つかってきた冷蔵庫が動かないことが開講式当日にわかったことです。しかし、これも会計をにぎっていた杉浦さんの一存で新品を買うことになって、またたくまにピカピカの冷蔵庫が宮之浦のベスト電器から届けられました。冷蔵庫がなかったら、食品関係の衛生管理がきわめて面倒になるところでしたので、即決していただき助かりました。
 残念であったのは、屋久島高校の生徒さんの参加がえられなかったことです。後日、高校に挨拶にいったおりに事情を伺いましたが、例年、環境コースの2年生から参加者を募っていたのですが、今年はコースの2年生が4名しかおらず、また大学への進学希望者も少ないとのことで、参加が不可能であったとのことでした。また、この時期は、例年8月上旬にある高校環境サミットに参加したあとのまとめがあるので時期的にも難しいとのことでした。こちらとしては環境コースや進学希望者に限らず、来年度以降また高校からの参加者を受入れたいところです。
 学生のみなさんには、例年のようにひとまわり大きくなって卒業をしていただいたようで、スタッフとしてはそれがもっともうれしいことのひとつです。屋久島は懐が深い島なので、その奥行きを体感してほしいと開講式でみなさんには申しましたが、どの班の学生さんも生き生きと活動をされ、なにか新しい感覚を手に入れたことと思います。ただ、かつてのフィールドワーク講座にあった地元の方たちとのつながりが、今年はとくに屋久島高校生の参加もなかったために薄くなったようで気がかりです。屋久島の奥行きのひとつは、キャラクターの濃い屋久島の人たち自身にあるので、来年度はそこをなんとかしようという意見が反省会でもかわされました。
 次回はこの講座も10年目の節目の年になります。町も2007年10月にこれまでの上屋久町と屋久町が合併して屋久島町となりました。上屋久町による西部地域のワイズユースのモデル事業としてはじまったこの講座の内容もそうですが、講師やチューターの布陣も当初からずいぶん入れ替わり、今年度のチューターには、この講座の出身者の大学院生1名も参加しました。時代は移り、屋久島のみならず、大学を含めたさまざまな社会状況も少しずつ変わっているようです。こうした変化をふまえたうえで、多くの関係者のみなさんとともに、この講座の将来を考えていきたいと思います。

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ボランティアスタッフをとして感じたこと

久保 奈都紀

 このFWに再び参加して感じた事は、ここには学びたい・知りたいという欲求を持つ学生が集まり、その学生に対してきちんと向き合っている先生方がいるという『学びの場』として、とても良い場がここにはあるということでした。屋久島という大自然の中で協同生活をし、活動は少人数のグループ制ということもあり先生と学生の距離が近いというのも、このFWの魅力だと思います。
 みなさんが学ぶ事に集中できるようにサポートをできたらいいなと思って、ボランティアとして参加させていただきましたが、私の手際の悪さ故に多くの迷惑をかけてしまい申し訳なく思っています。受講生の頃には気付かなかった、様々な支えによってこのFWは支えられていると言うことをヒシヒシと感じた一週間になりました。
 同じ関心を持った人との素晴らしい出会いの場でもあるので、このFW講座が続いていくといいなと願っています。ありがとうございました。

集合写真

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このページの問い合わせ先:京都大学野生動物研究センター 杉浦秀樹