京都大学野生動物研究センター > 屋久島フィールドワーク講座>第8回・2006年の活動−概要 |
概要 | 人と自然班 | サル班 | シカ班 | ヤモリ班 | 植物班 | 公開講座 | スタッフ |
概 要 |
京都大学大学院理学研究科生物科学専攻・教授 山極寿一
鹿児島県上屋久町と京都大学21世紀COEプログラム「生物多様性研究の統合のための拠点形成」との共催、屋久町と(財)屋久島環境文化財団の後援で、2006年8月22日(火)〜8月29日(火)に第8回屋久島フィールドワーク講座を開催した。その概要を以下に述べる。
5〜6月に上屋久町環境政策課により全国の大学へ向けて参加者を募集し、32名の応募者の中から20名の大学生を選抜した。地元の屋久島高校からも3名の高校生が参加した。実習はそれぞれのテーマにしたがって5班に分かれ、これまで屋久島でフィールド研究に携わってきた研究者が講師を努めた。 8月22日に上屋久町青少年研修センターで開講式が行われ、寺田巽上屋久町助役、新山義行屋久島環境文化財団事務局長の挨拶があった後、研究グループを代表して山極寿一が講師の紹介をした。参加者は高校生3名を加えて21名で、23日より各班に分かれて実習を行った。各班のメンバーと実習の内容は以下の通りである。
参加者は上屋久町青少年研修センターに泊まり込み、班ごとに調査地へ車で出か
けた。食事は地元の食堂に毎日届けてもらったが、各班で活動時間帯が異なっていたので、
班ごとに別々にとった。サル・シカ班は朝が早く、ヤモリ班は主として夜に調査地に出かけた。
シカ班も夜に調査することが多かった。実習からもどると、毎日調査の結果をまとめ、まと
め方や疑問点について協議した。新しい仲間と日々の生活を共にしながら、朝から晩まで一つ
のテーマに熱中することがフィールドワークの醍醐味であり、参加者はそれを十分に味わって
いたと思う。日に日に討論が熱を帯びていくのが目に見えてわかった。昨年参加した村山恵理
さんに、今年はボランティアとして参加してもらい、生活全般にわたって助言してもらったお
かげで、支障なく過ごすことができたことは幸いだった。
8月24日には、屋久島離島開発総合センターで一般向けの公開講座を開催し、戸田守が
「カラスヘビとストライプ型のシマヘビの違いについて〜ヘビにも性格があるのか?」、
丸橋珠樹が「屋久島のサル今昔〜アジアの中のニホンザル」と題する講演を行った。
8月29日にはそれぞれの班が研究発表を行い、参加者全員で質疑応答や討論をした。活発な
意見が出て、他班の活動に興味を持ち自分の班の活動に関連づけて討論していた。フィールド
ワークの「自ら発想し、企画し、発見し、考え、討論する」という目標が実現できたように思
う。
発表会に続けて閉校式を行い、寺田巽上屋久町助役より各参加者に修了証書が授与された。
8月29日には実習の反省会やレポートのまとめ方などの連絡があった後、無事解散となっ
た。上屋久町環境政策課の宮田弘課長をはじめ、泉正二、計屋正人、内田康法、泊征一郎の各
氏には車や調査機器の配備、調査許可証の取得など、最初から最後まで大変お世話になった。
また人と自然班は永田地区の住民の方々に昔の話を聞き、さまざまなご好意を受けた。本講座
を有意義に、無事に終えることができたのはこれら多くの地元の方々の協力の賜である。ここ
に記して心より感謝したい。
2006年8月22日から29日にかけて、第8回屋久島フィールドワーク講座が開催さ
れました。
屋久島の各地において5つの班に分かれて実習を行いました。5つの班はそれぞ
れ、以下の通りです。なお各班の活動の様子は、それぞれのページに詳しく載っています。
講師:丸橋珠樹(武蔵大学教授)
参加者:徳永真実(神戸大学発達科学部2年)、
高田直子(岡山大学文学部人文学科行動科学専修コース3年)、望月永理(帝京大学法学部法
律学科3年)
内容:上屋久町永田の集落の歴史と生活の流れを知り、何世代もの子
どもが生きた永田集落、ひいては屋久島を考えることが目的であった。永田に産まれ生きて
きた人々との対話によるフィールドワークを重視した。こどものあそびは、自然環境や社会経
済環境の影響を深く受けているだけでなく、こどもの喜びの源でもあり、島の人々の心を知る
窓であると位置づけられる。集落からは山岳信仰の永田岳が望まれ、広い民有林・豊かな海・
田を作れる低地など、恵まれた好条件のもと、地区ごとにバラエティー豊かな生活がなされて
きたことが理解できた。その上、ここ10年間は「かめんこ留学」制度により、永田の子は島外
の子どもとの継続的交流が盛んであり、過疎地の子どもが生きる社会環境としては異例である。
短期間のフィールドワークではあったが、島の子の印象的な言葉「屋久島はきれいだけど、
きたない」の意味を参加学生たちは知ることができたと思う。(文責:丸橋)
講師:中川尚史(京都大学助教授)、松原幹(京都大学霊長類研究所非常勤研究員)
参加者:小澤友理子(京都大学農学部3年)、下中麻奈美(広島大学生物生産学部2年)、
増山遙(九州東海大学農学部応用動物学科2年)、住栄貴恵(新潟大学農学部生産環境学科3
年)、野村知代(屋久島高校環境コース2年)
内容:西部林道域では近年ヤクシカの
生息密度が高まったことにより、同所的に生息するヤクシマザルとの出会いが増え、両種
の関係がより緊密になってきていると予想された。そこでサル班は、両種の種間関係を詳らか
にすることを目的に調査を行った。手法は群れ識別したサル(E群)小班と個体識別したシカ
(ダニー)小班の2つに分かれ同時追跡して行動観察することを柱に、実験的手法も取り入れ
た。その結果、E群のサルがシカの嗜好性が高い品目の樹上採食を開始すると、ダニーほか複
数のシカが集まってその落葉を採食し、サルが木から離れるとシカも離れることが明らかにな
った。なかでもダニーは600mもの距離をE群に追随した。また、サルの集合採食時に発せられ
た“クー音”をシカに再生したところ、音源を注視するしなどの反応が認められた。さらに、
サルが林道上に排泄した10個の糞のうち4個は5時間以内にシカに採食され消失することが
分かった。(文責:中川)
講師:立澤史郎(北海道大学助手)、高橋裕史(森林総合研究所主任研究員)、川村貴志
(ナチュラリスト)
参加者:真津達巳(九州大学理学部3年)、民法紗希(広島大学生
物生産学部2年)、矢野瞳(創価大学工学部生命情報学科2年)、寺本舞(屋久島高校環境コ
ース2年)、山根晶子(九州東海大学農学部応用動物学科2年)
内容:初日は、ヤク
シカの生息状況、屋久島の植生、シカと植生をめぐる問題について解説を行い、ヤクシカ
のスポットライトカウント調査を基本課題とした。調査地は、結果を比較できるようヤクシカ
の密度が異なる3地点(最高密度を維持し続ける西部、近年の利用密度が高い牧場、中密度の
愛子岳山麓)とした。2-3日目は、昼間は植生観察、夜はカウント調査を実施した。この時点で、
植物がシカから受ける影響も直接「測りたい」という積極的意見が生まれ、4-5日目は自ら
考案した調査(トランゼクト内の林床草本の種類・サイズ・株密度を比較する)を昼に、カ
ウント調査を夜に行うというハードスケジュールをこなした。6日目は、補足調査の後、まとめ
で苦戦したが、嗜好植物が消失して不嗜好植物が採食されている西部と、まだ嗜好植物が採
食されている(不嗜好植物は採食されていない)愛子岳との違いなどが示せた。自分たちで現
状を見て調査法を考え、まとめることができたことは、大きな成果だった。また、8人中3名が
屋久島在住(または出身)ということもあり、ステレオタイプ化しがちなシカと植生保全の
問題について多様な意見が交換できたことも収穫であった。(文責:立澤)
講師:疋田努(京都大学助教授)、戸田守(京都大学助手)
参加者:後藤田綾(東
京農業大学農学部4年)、青山正志(創価大学工学部環境共生工学科3年)、木場成未(屋久
島高校環境コース2年)、栗田和紀(北海道大学理学部3年)
内容:ヤモリ班は昨
年にひき続き,1)屋久島内におけるヤクヤモリとミナミヤモリの分布を詳しく調べること,
2)これら2種の交雑個体の出現状況を明らかにすることをテーマとして調査を行った。主
に夜間に,島内各地の神社,公衆トイレ,電柱などヤモリの好みそうな環境を探索して,ヤモ
リ類が発見された場合は一時的に捕獲して同定し,場所を地図上にプロットした。また,後の
研究に役立てるため,一部のヤモリは解剖してDNA分析用の凍結組織サンプルを摘出するとと
もに,標本にして京都大学総合博物館の爬虫類コレクションに登録した。調査の結果,ヤクヤ
モリは屋久島の低地の広い範囲に分布するのに対し,ミナミヤモリの分布は港のある少数の集
落に限定されており,後者が人為的な移入によって同島に定着したことが強く示唆された。ま
た同時に,ミナミヤモリが分布するいずれの地域においてもヤクヤモリとの交雑が進行してい
ることも明らかになった。(文責:戸田)
講師:野間直彦(滋賀県立大学講師)、相場慎一郎(鹿児島大学助手)、大塚一紀(滋賀
県立大学大学院生)
参加者:城戸薫(京都大学農学部資源生物学科3年)、横川昌史(滋
賀県立大学環境科学部環境生態学3年)、小板橋さゆり(山形大学農学部生物環境学科3年)
、下村明希子(創価大学工学部環境共生工学科)
内容:森林利用が植物の多様性
に与える影響を考える目的で、低地のスギ植林と照葉樹原生林の植生を比較した。調査地は
島の西部(地質は花崗岩、降水量は2600mm、シカの数が多い)と東部(堆積岩、4600mm、
シカが少ない)にそれぞれ設けた。10m×100mの調査区を作りその中の樹木調査(胸高周囲長
15cm以上の全ての木の周囲長と、最も高い木の樹高を測定)と、林床植生調査(調査区の2
本の長辺に沿って5mおきに置いた一辺1mの方形区の中の植物各種の被度と高さを測定)を
行なった。結果は西部と東部で同様の傾向であった。樹木のバイオマスは植林と原生林との間
で差はないが種数は原生林のほうが圧倒的に多かった。一方、林床植生は植林の方が種数もバ
イオマスも多かった。調査した植林は林床が比較的明るく攪乱後に侵入する植物が多いためこ
うなると考えられた。また西部原生林の林床植生はシカの摂食により減少していると考えられ
た。
(文責:野間、相場)
主催:上屋久町、京都大学21世紀COEプログラム「生物多様性研究の統合のための
拠点形成」
後援:屋久町、(財)屋久島環境文化財団
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