京都大学野生動物研究センター屋久島フィールドワーク講座>第7回・2005年の活動−概要

第7回・2005年の活動

概  要

第7回フィールドワーク講座の概要

京都大学大学院理学研究科
生物科学専攻植物学教室 村上哲明

 2005年8月17日(水)〜8月24日(水)に京都大学21世紀COEプログラム「生物多様性研究の統合のための拠点形成」と上屋久町の共主催で行なわれた第7回屋久島フィールドワーク講座の内容をご紹介したい。
 4月末?6月10日に全国の大学から参加者を公募し、定員を大幅に超える44名の応募をいただいた。課題として応募者に課した作文などを参考に、所属大学も専攻分野も学年も様々な20名の大学生が受講生として選ばれた(一人、急な理由で参加できなくなったので、実際の参加受講者は19名であった)。また、地元の屋久島高校からも2名の生徒が受講生として参加した。
 実習の指導は、自身の研究でフィールドワーク経験の豊富な12名の研究者(チューター役のポスドク、大学院生も含まれる)が行った。さらに、地元屋久島の方々や、屋久島で研究をされている講師以外の研究者の皆さんからも様々なご指導・ご協力をいただいた。そして、この屋久島フィールドワーク講座OGの竹内佑紀さん(現北海道大学・院生)には、ボランティア・スタッフとして食事の準備や後かたづけ、お茶の準備、受講生の健康相談など、受講生のお世話をしていただいた。受講者は女性の方が多数派なのに対して、講師は全員男性という状況の中、唯一の女性スタッフとして活躍してくださってとても感謝している。ここにお礼を申し上げたい。
 この屋久島フィールドワーク講座では、1つのコースは受講者3?5名、講師およびチューター2?3名で構成されている。全部で5つのコースに分かれ、それぞれ異なる生物材料とテーマで、フィールドワークを行った。今年、開講したのは、「人と自然の関わり」班、「ヤモリ」班、「シダ」班、「植物と昆虫の関係」班、「サル」班の5コースであった。期間中は屋久島ならでの激しい雨に遭うこともあったが、屋久島の自然の中で存分にフィールドワークを行うことができた。それぞれのコースの概要は後述する。
  受講生の日々の生活スケジュールは、毎朝6時半ごろに起床してすぐ朝食、8時ごろまでにはコースごとにレンタカーを利用してフィールドワークへ出発、夕方17時ごろに宿舎に帰ってきて入浴、あるいは帰ってくる途中に島内の温泉などで入浴、宿舎に戻ってからはサンプル解析やデータ整理、18時半ごろから夕食、さらに夕食後も毎夜24時を過ぎるころまでサンプル解析、データ整理を行なっていた。さらに、ヤモリ班は、調査対象が夜行性で夜間でないと多くのサンプルが採れないということで、生活のパターンを他の班とは少しずらし、夕食も早々に夜間のフィールドワークに出かけていくことが多かった。
 一方、大学生に混じってこのフィールドワーク講座に参加した屋久島高校の生徒2人は、環境コースの生徒だと伺っている。このような講座に参加することで、改めて地元屋久島の自然や文化について勉強し、大学の先生や学生とも直接触れあうことで、彼ら彼女ら自身、そして屋久島の将来についてじっくり考える上でのヒントがつかめれば幸いだと考えている。
 いずれにしても、この屋久島フィールドワーク講座は、単なる自然観察会ではなく、受講生自身が実際にプロの研究者が行っているのと同じフィールド調査、すなわち本物のフィールドワークを体験してみることで、フィールドワークの方法の基礎を学ぶとともに、フィールドワークとは本来どのようなものかを知ってもらうことを目的としている。受講生の中に自身のフィールド系の生物学に対する適性にめざめて、京都大学の大学院でフィールド研究者をめざすような人が現れることも講師達は少なくとも部分的には期待しているからである。そのため、コースによっては、かなりハードな調査も行うこととなった。
 このフィールドワーク講座のもう一つの特徴は、生物学的なコースだけではなくて、特に屋久島の地元の人々を聞き取りなどの調査対象とした文系的なフィールドワークのコースも1つ含まれていることである。これのようなコースもあることで、屋久島でヒトと自然がどのように絡み合って存在しているかを実感できると共に、屋久島の自然のかけがえのなさ、そしてそれを地元の人々の生活と両立する形で保全する難しさ、問題点を受講生がじっくり考えるきっかけにもなっている。
 さらに、フィールドで得たデータを整理・分析し、他人に伝えられる形にまとめるということも、フィールドワークにおける重要な作業の1つである。毎日、宿舎に戻ってからも野外で採集してきたサンプルの分析、データ整理、そしてそれらに関する講師と受講生、そして受講生同士の議論が連日、夜遅くまで続けられた。自分とは別のコースに参加している受講生が何をしているかを知ってもらうために、毎晩の夕食時にはコースごとにその日の活動報告を行い、コース間で情報交換をすることも実施した。日を追うごとに受講生の発表の仕方も上達し、質疑応答も活発になっていったことは、1週間という短い期間ながら、このような作業を通じて受講生が成長していったことを如実に物語っている。
 そして最後には各班で調査結果をまとめ、パワーポイントを使った20分間の本格的な発表会も行った。集合日の8月17日の開講式に始まり、23日の最終発表会後の閉講式では、上屋久町町長から講座修了証を受講生ひとりずつに手渡ししていただいた。上屋久町と京都大学がまさに半分半分の力を持ち寄り、それに全国からの熱意に満ちた若い大学生、そして地元の高校生が集まって今年の屋久島フィールドワーク講座も大成功に終わることができた。

 屋久島フィールドワークそのものに含まれるではないが、期間中の8月22日(月)には、地域の方々に屋久島での研究成果や研究による情報を還元することを目的とした公開講座も開催した。今年は、少々マニアックな視点から屋久島の自然の奥深さを味わっていただくことを狙って、屋久島の「シダ」および「ヤモリ」について後述するような講演を、これらの材料について研究を重ねてきた今回の屋久島フィールドワーク講座講師の村上哲明と疋田努(ともに京都大学理学研究科助教授)が、それぞれ行った。月曜日の夜ながら多数の一般参加者があり、非常に盛況であった。さらに、活発に質疑も行われました。学校の先生方、屋久島でネイチャーガイドをしている方々もたくさん参加してくださったのが、今年の公開講座の特徴であった。来年も同様の公開講座を開催したいと考えている。

△このページのトップへ戻る

<実習日程>

<実習コースとメンバー>

「人と自然のかかわり 〜屋久島の森林伐採と災害の関係〜」

講師:黒田末寿(滋賀県立大学), 鈴木 滋(龍谷大学)
受講者:渡辺詩音(麻布大学環境保健学部),石坂奈々(帝京科学大学理工学部),伊藤聡史(筑波大学生物資源学類),徳田恭子(愛媛大学農学部),東 英果(屋久島高校環境コース)
内容:現在の屋久島は、島の外の人達から自然の豊かな恵まれた環境であると受け取られているが、島の人たちと自然のかかわりには厳しい側面もある。屋久島では昭和期に大規模な伐採が行われたが、それによって引き起こされた災害には、どのようなものがどれだけあったのだろうか?また、それらについて地元の人たちは、どう認識しているのだろうか?地元の人たちに災害と伐採についての聞き取りをし、伐採地や非伐採地の現地調査、文献や航空写真などの分析によって、これらの問題に迫ることを試みた。

「ヤクヤモリとミナミヤモリの分布接触域の調査」

講師:疋田 努, 戸田 守(京都大学理学研究科)
受講者:村山恵理(東京農業大学農学部),橋詰舞衣(高知女子大学生活科学部),高木 俊(東京大学農学部),夏池真史(京都大学農学部),荒田琢己(屋久島高校環境コース)
内容:屋久島にはヤクヤモリが主に分布している。しかし、一部に近縁種のミナミヤモリが侵入し、同所的分布をしていると思われる。この2種のヤモリの屋久島における詳細な分布を調べ、交雑個体の有無を調べた。

「無配生殖をするシダ植物」

講師:村上哲明,篠原 渉(京都大学理学研究科),石川 寛(東京大学総合文化研究科)
受講者:高木菜穂子(京都府立大学農学部),秀島瑠満子(佐賀大学農学部),浜 一朗(東京大学農学部)
内容:シダ植物には、ちゃんと胞子で増えるものの、セイヨウタンポポなどと同じように二次的に性を失った種(無配生殖種)が多数知られている。日本産シダ植物の17%もの種がこのような無配生殖種である。興味深いことに、屋久島にはベニシダ類など、そのような無配生殖種と、そのもとになったと考えられる有性生殖種の両方が共存して生えているものがある。これらがどのように共存しているかを調べた。

「屋久島における葉形の特殊化および植物と昆虫の関係」

講師:塚谷裕一(基礎生物学研究所),荒木 崇(京都大学理学研究科),辻野 亮(京都大学生態学研究センター)
受講者:一色美孝(京都大学農学部),河野まりゑ(東京大学教養学部),池内桃子(東京大学理学部),竹内智絵(名古屋大学農学部)
内容:屋久島では様々な植物が特殊化していることが知られている。屋久島で最も注目されてきたのは、その中でも小型化である。日本に広く分布するキッコウハグマ(キク科)は、屋久島では小型化だけでなく、葉形が様々に変異していて、その点でもかなり特殊である。そこで、このコースでは、その葉の形の多様性をどのように数値として表現するか模索しながら、屋久島のキッコウハグマの特殊性を明らかにすることを試みた。比較のために、本州産のキッコウハグマの葉形の資料の解析もあわせて行った。さらにこれらとは別に、植物と昆虫の関係において、何か発見がないか、各受講生ごとにアンテナを張りながら行動・調査した。

「屋久島の古道を歩きサルを見る」

講師:杉浦秀樹(京都大学霊長類研究所),田中俊明(梅光学院大学)
受講者:久保奈都紀(九州東海大学農学部),関 加奈子(東京大学理学部),若松裕紀(広島大学工学部),長谷川大也(弘前大学農学生命科学部)
内容:屋久島西部海岸域はニホンザルが高密度で生息している。現在、この地域には人が住んでいないが、昭和40年代までは人が住んでいて、その生活の跡がそこかしこに見られる。本コースでは、森の中にある古い道をできるだけ辿り、どこに道が通っているかをまず明らかにした。次にその道を使ってサルに密度調査などを試みた。

主催・後援

主催:上屋久町、京都大学21世紀COEプログラム「生物多様性研究の統合のための 拠点形成」
後援:屋久町、(財)屋久島環境文化財団

△このページのトップへ戻る

京都大学野生動物研究センター屋久島フィールドワーク講座 > 第7回・2005年の活動−概要

このページの問い合わせ先:京都大学野生動物研究センター 杉浦秀樹