学生集会

「野生動物の現場〜学生はどう関わっていけばよいか〜」

主催:日本野生動物医学会 学生部会

日時:2013年8月31日(土)15:00〜18:00

会場: 法経第6講義室

コーディネーター:
・後藤拓弥(北里大学獣医学部獣医学科4年)  
・吉泉実華(北里大学獣医学部生物環境科学科4年)
・井上杏菜(東京農工大学農学部獣医学科4年) 
・木村 塁(日本大学生物資源科学部獣医学科3年)
・藤野愛美(日本大学生物資源科学部動物資源科学科3年)
・吉野綾夏(北里大学獣医学部獣医学科3年)

開催趣旨:

私たちは普段、野生動物を意識することなく生活をしており、 見える人しかその存在に気づくことはありません。また、野生動物に興味はあっても 彼らとどう関わっていけばいいか知る機会は多くないと思います。野生動物の存在を もっと身近に感じ、彼らを取り巻く現状をしっかりと認識することを目標として今回、 このテーマを選びました。当日は学生と年齢層が近い4人の講師による4つの異なった 切り口からの野生動物の現場について講演して頂きます。講演の後は講師の方も交えて 学生集会後も参加者が応用できるような知識の集め方、視野の広げ方を中心に議論を 展開する予定です。
野生動物に興味を持つ学生の皆さん、私たちと一緒に学生集会ならではの熱い議論を してみませんか? もちろん、社会人の方々のご参加も心よりお待ちしております!


演者・演題
講演1.【動物園】 『動物園獣医師の仕事紹介』
松本郁実(みさき公園)

講演2.【外来生物】『外来種問題-9年間の関わり-』
加藤卓也(日本獣医生命科学大学 獣医学部)

講演3.【絶滅危惧種】『絶滅の恐れのある種の保全活動 −日本野鳥の会タンチョウ保護の取り組み−』
伊藤加奈(公益財団法人 日本野鳥の会)

講演4.【鳥獣管理】『鳥獣管理について』
山崎翔気(一般財団法人 自然環境研究センター)

グループディスカッション
「野生動物とどう関わってきたか、どう関わっていきたいか」

全体討論





講演1.【動物園】『動物園獣医師の仕事紹介』

松本郁実(みさき公園)

[要旨]

私は大学入学後に日本野生動物医学会に入会し、野生動物との共生について学ぶため、 フィールド調査に参加したり、鳥取支部の支部長として活動してきました。卒業後は、 小動物臨床を経験した後に動物園へ就職することを考え、傷病野生鳥獣の保護・治療を 行っている病院で働きました。

動物園獣医師を選んだ理由は、「野生動物」というより「動物園動物」との関わりが 主なものですが、本来は野生でしか見られない種の動物の健康を守り、生き生きとした姿 をお客さんに見てもらうことで、今後も守っていかなければいけない命として動物を身近 に捉えてもらったり、繁殖や治療を通して野生動物の研究に貢献することができるのでは ないかと考えたからです。

私がみさき公園の獣医師の仕事として行っているものは大きく分けて、動物の健康管理、 研究会への参加、動物移動の管理、「獣医体験」などのイベントの実施、環境省や自治体 への届け出などの事務仕事があります。動物の健康管理としては、病気の予防(ワクチンや フィラリア予防薬の投与、および採血などの健康診断)、病気や怪我の治療があります。 飼育動物の健康を守るには、飼育員の観察も非常に重要なので、飼育員とのコミュニケーション も大切にしています。

研究会への参加は、他園における治療についての発表から得たものを活かし、自分の園の 治療レベルを向上させる点、また、自分の園での治療実績を発表することで、未知の領域の 多い野生動物の治療に貢献するという点で重要です。動物移動の管理は、動物を繁殖させる ために欠かせないものであり、BL(ブリーディング・ローン)という、繁殖を目的として 動物園・水族館同士が動物を貸出・借入する制度も利用しています。

イベントの中でも力を入れているものとしては、「獣医体験」があり、座学の他、 吹き矢・縫合・採血・調剤体験など、時期により子供や大人を対象として、動物園で行って いる治療の意味を理解してもらったうえで、その方法を体験してもらっています。

動物園獣医師としての日々は、色んな動物に触れ、考え、その健康を守るために様々な ことを実践できるという意味で充実しており、臨床家として、飼育員と協力し合い、治療を 重ねていくことで得られる喜びは何物にも代えがたいものがあります。また、お客さんの 反応を見ていると、ささやかながら、動物の生態や命の大切さを伝えられているのでは、 と思っています。今後は大学などと研究を行い、より野生動物の保護管理に貢献できれば と考えています。





講演2.【外来生物】『外来種問題-9年間の関わり-』

加藤卓也(日本獣医生命科学大学 獣医学部)

[要旨]

アライグマは、1980年代に各地で野生化の報告が相次いだ外来種である。現在、本種による 問題はますます深刻化しているため、対策への取り組みは全国的に拡がりつつある。 今回の現場の一つである神奈川県は、1990年に鎌倉市で野生化個体の繁殖が確認されており、 比較的早い段階から対策を開始した地域である。

今回の発表では、まず自分なりに野生動物に抱いていた思いと、卒業論文研究のテーマ として、鎌倉市のアライグマのメスの繁殖実態を対象とした経緯について触れる。次に、 大学院に進学を決めた背景や、博士論文研究のテーマなどを口述する。

「教育」を外来種問題の普及啓発に役立てるため、また、自らの「研究」をさらに推し進めて いくため、大学教員を目指した。現職に就き、教育と研究の両立が求められるなか、 どのようにして野生動物の現場に関わっているかについて紹介する。





講演3.【絶滅危惧種】
『絶滅の恐れのある種の保全活動 −日本野鳥の会タンチョウ保護の取り組み−』

伊藤加奈(公益財団法人 日本野鳥の会)

[要旨]

自己紹介…
日本大学入学後、野生動物に関する活動がしたい!と思い、野生動物医学会の学生部会に 所属しました。フィールド調査のお手伝いやサマーショートコースetc…
色々な体験と共通の関心をもつ友人と出会うことが出来ました。卒業後、転職を経て 日本野鳥の会に入社しました。

(公財)日本野鳥の会について…
野鳥を通じて自然に親しみ、自然を守る活動を進めているNGOです。絶滅の恐れのある種の 保全、国内IBA(重要野鳥生息地)の選定など法制度の充実や改善、サンクチュアリ(※) での普及教育活動など、多岐にわたって活動しています。運営は、会費や寄付、事業収益 など自主財源で行っています。当会会員がボランティアで運営している連携団体 (日本野鳥の会支部)が各都道府県にあり、ネットワークの広さを生かして活動を進めています。

※日本野鳥の会では、「人と自然の触れ合いの場」と定義。自然環境とネイチャーセンターが設置されている。

タンチョウ保護の取り組みについて…
タンチョウは、北海道東部の湿原に生息するツルの仲間で、江戸時代までは本州でもその姿が 見られていました。明治以降の乱獲や生息地である湿原の開拓により絶滅寸前まで個体数が 減少してしまったため、住民を中心とした冬期の給餌活動等が行われ、現在は約1500羽にまで 回復しています。しかし、個体数が増える一方で分布が拡大せず、繁殖環境の不足、給餌場の 過密化により感染症発生時に大量死のおそれがあるなど、問題を抱えています。

日本野鳥の会では1987年にタンチョウの越冬地である北海道鶴居村に「鶴居・伊藤タンチョウ サンクチュアリ」を開設し、保護事業に取り組みはじめました。開発の危険にさらされている 民有地の繁殖地を買い取りや協定を結ぶことによって野鳥保護区として保護しています。 その面積は現在合計2583.8haにまでのぼり、24つがいが繁殖地として利用しています。
冬期、道東は低温により湿地が凍結してしまうため、自然環境での採餌が困難な地域です。 約300羽が集まるサンクチュアリ内の給餌場で適正な給餌を行うと同時に、給餌への依存を 和らげるため、湧水のある河川や畑の排水路を自然採食地として整備しています。また、 飼料用トウモロコシの食害の防除方法の確立やケガをしたタンチョウの救護など、地域住民と 行政をつなぐ役割も担っています。今後は、道東以外への生息地の拡大を目指し、分散候補地 の発掘や地域づくりなども視野にいれて活動していきます。





【鳥獣管理】『鳥獣管理について』

山ア翔気(一般財団法人 自然環境研究センター)

[要旨]

 近年、鳥獣管理(野生動物管理;Wildlife Management)という言葉をよく耳にするようになりました。
 みなさんは、鳥獣管理という言葉を聞いて、どのようなことを頭に浮かべますか?

サルやイノシシといった"対象種"や、農作物被害対策や個体数調整といった"管理手法"など具体的な例が いくつか思い浮かんだと思います。今回は、一歩引いた視点で考えてみましょう。

Q1."鳥獣"とは、どのような種が対象となるでしょうか?
Q2."管理"には、どのような手法があるのでしょうか?
Q3."鳥獣管理"とは何のために実施するのでしょうか?

これらを突き詰めて考えていくと、"鳥獣管理"という1つの言葉の中には、多種多様な動物種や 取り組み方が存在していることがわかると思います。そして、それらは共通して人の生活に直接的 または間接的に結びついています。つまり、鳥獣管理は人の生活には欠かせない重要な役割をもっています。


<鳥獣管理が人の生活に果たす役割>

私の所属する(一財)自然環境研究センターでは主に国や地方自治体から鳥獣管理に関する仕事を扱っています。
今回の発表では、それらの中で実際に私が携わっている事業についていくつか紹介します。

自然環境研究センターHP(http://www.jwrc.or.jp/) E-mail:syamazaki@jwrc.or.jp