日本野生動物医学会・(公社)日本動物園水族館協会 共同主催 市民公開講座

いのちの博物館の実現に向けて

・・・消えていいのか動物園・水族館・・・


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主催
日本野生動物医学会・(公社)日本動物園水族館協会

 

共催
京都大学野生動物研究センター,京都市動物園,京都水族館

後援
環境省近畿地方環境事務所,京都府,京都府教育委員会,京都市教育委員会
(公財)日本博物館協会,(公社)日本植物園協会,(公社)日本獣医師会
(社)京都府獣医師会,(公社)京都市獣医師会,文化資源学会,(公社)日本獣医学会


問い合わせ先

第19回日本野生動物医学会 大会事務局
〒606-8333 京都市左京区岡崎法勝寺町 岡崎公園内 京都市動物園
電話:075-771-0210(代) FAX:075-752-1974
E-mail:19th_jsozwm@freeml.com



 動物園や水族館の最大の魅力は、生きた本物の動物に向かい合い、体感できることです。  しかし、近年、動物園・水族館をとりまく環境は厳しく、新たな未来像が求められています。  このシンポジウムでは,まず遠藤先生に「いのちの博物館」構想についての講演していただきます。  また,日本野生動物医学会との共同開催企画として,動物園の生息域外保全の役割に対して,  海外と国内の2つの生息域内保全の取り組みについて話題提供をしていただきます。  これらの話題を合わせて,動物園・水族館の果たすべき役割、課題などについて考えます。



プログラム

12:30- 会場

13:00- 趣旨説明

「消えていいのか、日本の動物園・水族館」

山本茂行(JAZA会長、富山市ファミリーパー ク園長)

13:10- 基調講演

(1)「人と知と命と学と、その穏やかな交差点を求めて」

遠藤 秀紀(JAZA広報戦略会議 委員、東京大学 教授)

(2)「新世代の動植物園・水族館「フィールドミュージアム」−地域の自然を知り・守り・楽しむ−」

幸島 司郎(京都大学野生動物研究センター 教授)

(3)「(仮)鴨川流域の生物多様性保全活動について」

竹門 康弘(京都大学防災研究所 准教授)


14:25- 動物園・水族館からの話題提供

(1)「ゴリラの繁殖って難しいの!?」 長尾 充徳(京都市動物園 飼育員)

(2)「ケープペンギンを増やそう!」 大島 由子(京都水族館 獣医師)


15:10- パネルディスカッション

コーディネーター:木下直之(JAZA広報戦略会議 委員・東京大学 教授)
パネリスト:
伊谷 原一(第19回日本野生動物医学会京都大会 大会長・京都大学野生動物研究センター 教授)
遠藤 秀紀(JAZA広報戦略会議 委員・東京大学 教授)
幸島 司郎(京都大学野生動物研究センター センター長,教授)
坪田 敏男(日本野生動物医学会会長・北海道大学大学院 教授)
小菅 正夫(JAZA広報戦略会議 委員・元旭川市旭山動物園 園長)
山本 茂行(JAZA 会長・富山市ファミリーパーク 園長)
西田 清徳(JAZA教育普及委員会 委員長・大阪 海遊館 館長)

17:00- 閉会


基調講演(1)
「人と知と命と学と、その穏やかな交差点を求めて」

遠藤秀紀(作家、東京大学総合研究博物館)

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 たくさんの動物を飼っているとか、富を極めるキリスト教絶対君主の生けるコレクションの場だったとか、 頼まないのに多くの幼稚園児がやってくるとか、行革になると公務員の斬首場に化けるとか、高度成長期だと 採算とは無関係の遊興場に堕ちるとか、戦争になると動物を殺して忠誠心の権化に果てるとか、時々大学教授が 現れて自分勝手な研究プランの手足に使うとか、昭和のドラマだと一家心中前日の家族の最後の憩いの場になって いるとか、ネタがなければそこへ行って日曜の社会面の雨傘記事を書けと新米記者が教わるとか、起業家が経営に 手を出してきっとすぐ飽きて居なくなりそうな場所だとか、管理職の目を盗めばひょっとして研究ができる所では ないかと若い世代が勘ぐるとか、これほど話題に事欠かない楽しい存在は世の中にないだろう。

話の主人公は、もちろん、動物園である。

動物園も生涯教育・社会教育も、日本人と日本社会が一定に苦手とする概念だろう。これらはそれぞれの時代に 施策の辺縁に追いやられ、利益誘導、学術不在、誘客地域振興に振り回されて、挙句の果てには拝金行革の肥しにされた。 さらには、種の保存・環境保全、グローバリゼーション、市場原理主義が容赦なく押し寄せてくる。古くは官製教育の 補完装置とされ、伝統的にはアカデミズムから無視された敷地が、ある日突然地球規模の域外保全に責任をもてとか、 小難しい研究をやってみろとか、隣の遊園地より多くの客を集めろとか、訳の分らぬ注文を次々と突きつけられて、 動物園は行動の軸をどう設え、存在意義をどう構築するのか、さっぱり分からなくなるここ十年と少しだったといえる。 この時代に、あえて私もJAZAも、命、心、人間、そして博物館といった言葉で、動物園の未来を語りたくなった。 なぜならば、ざっと五千年は続いてきた文明文化学問教育の、とある正しさ、真面目さ、誠実さの具現を、動物園には 背負う力があると確信されるからである。





基調講演(2)
「新世代の動植物園・水族館「フィールドミュージアム」−地域の自然を知り・守り・楽しむ−」

幸島司郎(京都大学野生動物研究センター センター長, 教授)

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京都大学野生動物研究センターは、絶滅が危惧されている大型動物の保全研究を主な目的として設立されました。 現在、30名以上の大学院生や若手研究者が在籍し、アジアやアフリカ、南米など世界各地で、ゾウやバク、イルカ、 アザラシなど様々な野生動物を研究しています。

また、多くの動物園や水族館と連携して、飼育されている貴重な野生動物に関する共同研究も進めています。 我々は、野生動物保全のために、今、最も必要なことは、多くの絶滅危惧種が生息するアマゾンやボルネオ、アフリカなどに、 野生動物を飼育、半飼育(半野生)、野生下で観察・研究できる施設と保護区を整備することだと考えています。

例えばオランウータンの野生復帰事業には、救護個体を収容する飼育施設と野生復帰トレーニングのための半飼育施設、 復帰後の行動モニタリングが可能な保護区をボルネオに整備し、それらを一元的に管理・運営することが必要です。 このような施設は、理想の動物園・水族館とも言えます。本来の生息環境に近いので、動物福祉の観点から理想的である他、 本来の姿や振る舞いを簡単に観察できるので、研究や教育にも役立ち、エコツーリズムを通じて地域経済にも貢献できます。 現地専門家や地域住民が活躍できる職場ともなるでしょう。さらに、他の多くの生物や生息環境そのものの観察や研究・保全 にも役立ちます。つまり、地域の生態系保全・環境教育・エコツーリズムの拠点となる可能性をもっています。

我々は、これらをまとめて「フィールドミュージアム」と呼ぶことにしました。我々がアマゾンで進めつつある 「フィールドミュージアム構想によるアマゾンの生物多様性保全」プロジェクトについてご紹介します。





基調講演(3)
「鴨川流域の生物多様性保全活動について」

竹門康弘(京都大学防災研究所附属水資源環境センター 准教授)

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北山から京都市内を経て桂川へ流れ出る鴨川は,護岸や堰堤などで人為改変された都市河川でありながら, 京都を代表する「自然と触れ合える場」として高い価値を有している.上流の賀茂川は,可児藤吉が河川地形の 生態学的分類を行った記念すべき川でもあり,いわば地形分類の模式産地といえる.また,賀茂川は,今西錦司が カゲロウの棲み分けを発見した川でもある.1930年代には,下鴨付近でヒラタカゲロウ科5種が早瀬から淵にかけて 棲み分ける様子を観察できたという.1960-70年代にはカゲロウが棲めないほど水質が汚濁したが,現在は下水道 整備によって4種のヒラタカゲロウが生息できるところまで回復した.鴨川のように都市河川でありながら清流の 生活者であるヒラタカゲロウの棲み分けを観察できる河川はきわめて珍しく,京都の誇るべき自然といえる.

さらに,鴨川流域には,世界的にも驚異的な生物多様性を保持し生物群集全体が国の天然記念物に指定された 深泥池がある.深泥池は,面積9haほどの小さな池だが,その自然誌的価値には底知れぬものがある.1929年に 行われた三木茂の学術調査以来,絶滅危惧種や希少種の数は調査の度に増加してきた.浮島には元来寒冷地に成立 するはずのミズゴケ泥炭の湿原があり,氷河期の遺存種といわれるホロムイソウ,ミツガシワ,ミズグモなどの 北方系の希少種がみられる一方,ヤギマルケシゲンゴロウやオオマルケシゲンゴロウのような南方系の希少種も 共存しており,日本産トンボ類の約3割に当る60種が記録されている.

生息種数が多く絶滅危惧種が集中して生息する地域は,生物多様性保全のための要であり,一般に生物多様性の ホットスポットと呼ばれている.鴨川流域は.人口100万の都市にありながら,世界的なレベルの生物多様性ホット スポットでありえるのは何故だろうか.「歴史的にも人為インパクトを受け続けてきた鴨川流域に貴重な生物多様性が 存続できた理由」には,1000年以上に渡り都として培われた自然と社会の持続的なつき合い方が関わっていると 考えられる.京都における「都市と自然の共存の仕組み」を追究することは,人類が生物多様性を保全しつつ持続的に 資源利用していくためのヒントやお手本を知ることにつながると期待される.





話題提供(1)
「ゴリラの繁殖って難しいの!?」

長尾充徳(京都市動物園 飼育員)

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現在,国内で飼育中のゴリラは9施設25頭となっており,1990年の50頭をピークに半減している。 また,国内での繁殖状況は15例(死産も含む)に留まっている。京都市動物園では,1960年に ゴリラのペアを導入し,10年後に日本で初めて繁殖(マック雄)に成功し,これまでに4例の 繁殖を経験している。一方,欧米の動物園では,ゴリラの繁殖例は多く,繁殖の制限をしている動物園も出てきている。

京都市動物園では,ゴリラの飼育環境を世界基準に近づけるため様々な取組を行っている。 まずは神経質とされるゴリラの性格を考慮し,屋外グラウンドへの植樹を継続して行っている。 これは,ディスプレイ時に枝を折る,枝を投げるなどの行動を引き出したり, 個体間のトラブル時の干渉帯となったり,来園者の過度の視線を遮るなどの効果がある。 ただ,これまで管理通路には最少人数しか入らず,刺激を最小限に抑えてきたことを改善し, 複数の人間が動物と関わって作業を行ったり,色々な音や新しいものを経験させたりと, 神経質になり過ぎないような管理に変更した。

次に健康チェックを無麻酔で行えるようにハズバンダリー・トレーニングを実施し, 死亡原因の多くになっている心臓疾患の早期発見を目指して聴診データの蓄積や体温測定, 虫歯のチェック,外傷のチェックを行えるまでとなった。飼料の改善にも積極的に着手し, 現在では果物類をほとんど無くし,牧草,木の葉,葉物野菜中心の飼料とした。

他の動物園でも同じような取組を積極的に取り入れるようになってきており, 最近の国内での繁殖例数を見ると,5年間で5頭が誕生しており,以前に比べると例数が増加傾向にある。 これらの飼育環境改善の取組は,ゴリラの繁殖に深く関わっていると考えられる。 京都市動物園では,来春新しいゴリラの飼育施設をオープンする予定である。この施設でも繁殖ができるように努めていきたい。




話題提供(2)
「ケープペンギンを増やそう!」

大島由子(京都水族館 獣医師)

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 ケープペンギンは、アフリカ南部の沿岸に生息しており、現在、絶滅危惧U類ICUNレッドリストVU「危急」に分類されています。国内では、35施設、約500羽が飼育されており、今後の繁殖・血統管理が課題の一つに挙げられています。

 京都水族館では、現在47羽のケープペンギンが生活をしています。 野生下のケープペンギンは大きな集団で生活をしており、京都水族館では野生に近い形で、集団で暮らすペンギンをお客様に見ていただきたいと考えています。そのため、ペンギンの血統図やカップリングシートを作成しながら、他の園館から成鳥や亜成鳥を計12羽と発生途中の卵10個の導入を行い、隔離してペアになるよう促したり、人の手で雛を育てるなど、個体数を増やすことと血統を管理することを目的とした様々な試みを行ってきました。

 鳥類という利点を生かして孵化前の卵の状態で移動するということは、個体移動の輸送費を削減し、その環境に適応した新しい血統を導入することもできます。しかし、輸送の際に卵の発生が止まってしまうこともある為、京都水族館では、孵化予定日から4〜13日前という比較的後期での移動を行い、光を通さないほど発生の進んだ卵の生存確認にはデジタル検卵器buddy Mk2(AVITRONICS社製)を使用しました。 その結果、開業から約16ヶ月間で親や托卵(代理親)による自然育雛9羽、人工育雛6羽の計15 羽が育っています。

 良好な繁殖を継続していく為には、年齢構成や雌雄比を考えた個体数の確保が重要であり、他園館とのブリーディングローンや交換を今後も検討していく必要があります。