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最終更新日:2019年5月24日

2019年度 京都大学霊長類研究所 共同利用研究会

ニホンザルの「暮らし」を俯瞰する
―遺伝子・行動・生態・人との関わり―

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講演要旨

ニホンザルにおける社会的遊びの終了時のコミュニケーションについて―取っ組み合い遊びの事例より―
清家多慧
動物の遊びの中で交わされるコミュニケーションについて、開始、維持に関しては多くの研究がなされてきたが、一方で終了時のやり取りに関してはほとんど議論されてこなかった。そこで本研究では金華山島のニホンザルについて、取っ組み合い遊びを起点に、遊び終了時に現れる行動について調べた。結果、相手から「歩いて離れる」という行動が高い確率で遊びの終了につながっていた。一方、同じ「離れる」という行動でも、「走って離れる」場合には追いかけっこ遊びへの移行になり遊びが終了しにくいという傾向があった。また、威嚇や悲鳴などは必ずしも遊びの終了にはつながっていなかった。このことは、「歩いて離れる」という行動はありふれた行動だが、それが取っ組み合い遊びの最中に急に出現することで、遊び終了のシグナルとして機能する可能性を示唆している。

 

ニホンザルの瞬きに見る毛づくろい中の集中力について
疋田研一郎
宮城県金華山島の野生ニホンザルA群を対象に、ヒトにおいて集中力の指標になるとされている瞬きの頻度がニホンザルでも同様の指標になるのか検討した。そのうえで毛づくろいに関して、継続時間に加え、単位時間当たりの作業量や集中力を含めて総合的に分析した。その結果、劣位個体は優位個体への毛づくろいにおいて、特に集中するわけではないが、体毛をかき分ける頻度を高くすることで自らの熱心さをアピールする戦術を用いる可能性が示唆された。

 

ニホンザルの闘争遊びインタラクションにおける行動協調メカニズム
壹岐朔巳(総研大)
ヒト同士の日常的なインタラクションはFace-to-Faceの開始フェーズ(opening phase)を介して共同的に開始される。Face-to-Faceの開始フェーズは、非敵対的な個体間関係を明示し、個体の積極的な参加を促すことで、後に続くインタラクションを適切に維持する機能をもつと考えられている。本研究ではニホンザルの闘争遊びを対象に、Face-to-faceの開始フェーズを伴う遊びのセッションと、それを伴わないセッションを比較した。分析の結果、Face-to-faceの開始フェーズを伴うセッションでは、そうでない場合より、遊びが長く持続し、双方の個体が精力的に相手を攻撃していたことが明らかになった。本研究の結果から、Face-to-Faceの開始フェーズはヒトと非ヒト霊長類で同様の機能をもっている可能性が示唆された。

 

里山におけるニホンザルの環境利用
寺山佳奈(高知大)
ニホンザル(Macaca fuscata)による農作物被害は全国的に広まっており,森林と農地がモザイク状に分布する里山において,人間との共存のためにはニホンザルの環境利用を明らかにする必要がある.本研究では,高知県中土佐町にある常緑広葉樹林帯の里山において,ニホンザルが集中的に利用しているコアエリア内の4つの群落(放棄果樹園,竹林,シイ・カシ二次林,スギ(Cryptomeria japonica)・ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)植林)に自動撮影装置を設置し,ニホンザルによる各群落の利用状況を調べた.採食行動が多く撮影された群落は放棄果樹園であり,次いで竹林であった.放棄果樹園では午前中にニホンザルが多く撮影され,葉や果実といった植物質を採食している様子が写っていた.午後には放棄果樹園に比べると空間開放度が低い竹林で撮影されることが多く,放棄果樹園から持ってきた果実や,竹林内に沢が流れていることからカニやカエルなどの動物を採食している様子も写っていた.放棄果樹園と竹林では群れの中心を構成する成熟した個体が多く撮影され,それらの周辺にあるシイ・カシ二次林とスギ・ヒノキ植林では未成熟の個体が多く撮影された.里山のようにモザイク状に群落が存在する場所では,ニホンザルの環境利用は空間構造の影響を受けていることが示唆された.

 

Gut Microbe Shift of Japanese Macaques as a Result of Human Encroachment
Wanyi Lee
In recent decades, human-wildlife conflict has been increasing and becoming more severe due to fast population growth and urban development. Noting the role of the gut microbiome in host physiology like nutrition and immune system response, it is thus essential to understand how human-wildlife conflict can affect an animal’s gut microbiome. This study therefore set out to assess the influence of human activities on the gut microbiome of Japanese macaques (Macaca fuscata) and the possibility of using gut microbiome as indicator for human disturbance level. Using 16S rRNA gene sequencing, we described the microbiome composition of Japanese macaques experiencing different types of human disturbance ? captive, provisioned, crop-raiding and wild. Our result shows that captive populations harbored the most distinctive gut microbiome composition, and had the greatest difference compared to wild populations. Whereas for provisioned and crop-raiding groups, the macaques exhibited intermediate microbiome between wild and captive. Bacterial taxa from phyla Firmicutes, Bacteroidetes and Cyanobacteria demonstrated shift in abundance along the disturbance level. Specifically, we found the Firmicutes to Bacteroidetes ratio and Cyanobacteria abundance were elevated in wild macaques.

Salivary alpha-amylase enzyme is a biomarker of acute stress in Japanese macaques (Macaca fuscata)
Nelson Broche
Salivary alpha-amylase (sAA) enzyme functions as a digestive enzyme in many species which consume starch in their diet. However, over the last several decades human studies have revealed sAA enzyme activity levels are positively correlated with the release of the fight-or-flight stress hormone norepinephrine, allowing sAA to act as a biomarker for sympathetic nervous system (SNS) activity. The SNS is a separate but parallel stress response system to the hypothalamic-pituitary-adrenal (HPA) axis. Recent non-human primate studies have begun including sAA as a physiological stress marker in rhesus macaques, chimpanzees, bonobos, and gorillas. However, to date, there are no published reports investigating the time course of sAA from a stressful event to return to baseline levels in non-human primates. Furthermore, no validation of sAA as a stress biomarker has been reported for Japanese macaques. Validation of sAA enzyme as an acute stress biomarker in M. fuscata could provide a useful tool for stress-related research questions as well as practical uses in animal welfare. This study had two primary aims: [1] develop a systematic method for non-invasive saliva collection and [2] investigate sAA as a biomarker of acute stress in M. fuscata in order to better understand its acute stress-related characteristics. We developed a non-invasive method for cooperative saliva collection using positive reinforcement training (PRT) and tracked individual progress over 595 trials in 10 individually housed Japanese macaques. Then, we confirmed that M. fuscata possess sAA enzyme via kinetic reaction assay. Finally, we performed 22 acute stress tests to verify when sAA activity returns to baseline after an acute stressor. Our report reveals for the first time the temporal dynamics of sAA when applying acute stress to a non-human primate.

 

嵐山集団における未成体から超高齢個体の社会関係
石川大輝(大阪大) 
高齢個体が特異的に多く生存する嵐山ニホンザル集団を対象として、0歳から36歳までの集団内全個体の毛づくろいと近接関係を調べた。未成体期 (0-4歳)から成体期 (5-19歳) になると、毛づくろいを行う頻度は増加するが、高齢期 (20-25歳)、超高齢期 (26歳以上)となるにつれて減少した。他個体との近接頻度は成体期と高齢期の間に差はなく、超高齢期になって減少した。高齢期の個体は同年代個体が多く生存しているため、従来確認されている社会的孤立化が生じなかったと考えられた。

 

ヤクシマザルの抱擁行動-成熟個体と未成熟個体の比較-
田伏良幸
屋久島のヤクシマザルUmi-A群を対象に、抱擁行動の向きの発達と緊張緩和機能について調査した。その結果、ヤクシマザルは、先行研究よりも多様なパターンで抱擁行動をしており、成熟個体は未成熟個体よりもパターンが多様であった。また、成熟個体は、未成熟個体よりも抱擁行動直前に自己指向性行動で表される緊張する場合が高かった。一方で、直後の親和的な行動に差は見られなかった。よってヤクシマザルの抱擁行動は、成長に伴ってパターンが多様になり、緊張緩和機能は未成熟個体ですでにみられることが示唆された。

 

ニホンザル野生群におけるinfant handling:そのパターンと頻度の決定要因
関澤麻伊沙(総研大)
群れで生活する霊長類では、infant handling(以下IH)が頻繁に観察される。本研究では、ニホンザル野生群においてIHの頻度やパターンに影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした。金華山において2014年~2016年に収集した、計24母子ペアを対象とした行動データから、IHのパターンや頻度は、ハンドラーにとっての母子への近づきやすさに影響を受けていることが示唆された。

 

P1 ニホンザルの交尾期におけるオスの性的威圧への対抗戦略
山口飛翔
休息時のメスの凝集性に着目してオスからメスへの攻撃がオスの繁殖成功度を上昇させるとき,そのような攻撃を「性的威圧」と呼ぶ。こうした攻撃はメスにとってコストとなるため,メスは性的威圧に対する対抗戦略を進化させてきたと考えられる。本研究は,金華山島のニホンザルにおいて,交尾期に休息中の凝集性が高まることに着目し,メスが凝集することでオスの性的威圧に対抗している可能性を検討した。分析の結果,メスはオスから攻撃されるリスクが高い日ほど休息中に凝集する傾向があることが分かった。また,交尾期にはメスがオスからの攻撃を回避するために高順位オスの周囲に集まった結果,休息中の凝集性が高まることが示唆された。

 

P2 野生ニホンザル の糞に集まる糞食性コガネムシ:種子散布への影響
辻大和・松原幹・白石俊明・澤田研太
野生ニホンザル (Macaca fuscata)の糞に飛来する食糞性コガネムシ(以下糞虫)を、宮城県金華山島と鹿児島県屋久島で調査した。金華山で採集された糞虫類は11種(tunneller 9種、dweller 2種)で、特にオオセンチコガネ (Phelotrups auratus) 、フトカドエンマコガネ (Onthophagus fodiens)、クロマルエンマコガネ (O. ater) が多かった。いっぽう屋久島で採集された糞虫類は8種(tunneller 7種、dweller 1種)で、カドマルエンマコガネ (O. lenzii)、ヒメコエンマコガネ (Caccobius brevis)、コツヤマグソコガネ(Aphodius maderi)が多かった。金華山で糞虫類の季節的な消長を調べたところ、10種は春から秋にかけて出現したが1種(トゲクロツヤマグソコガネ, A.superatratus)は春のみ出現が確認された。ニホンザルによる飲み込み型の種子散布は、夏と秋に頻繁に行われる。したがって、この時期に活発に活動する糞虫類によるサル糞の二次処理(移動・埋土)は、植物の発芽やその後の生育に影響する可能性がある。

 

P3 ニホンザルにおける他群個体との距離に応じた行動変化:接近および回避について
半沢 真帆
多くの霊長類では、隣接群とエンカウンターしないよう事前に回避していると考えられるが、実際はどの時点で隣接群の存在に気づき、回避または接近しているのかは分かっていない。そこで本研究は、屋久島に隣接して生息するニホンザル2群にGPSを装着し、隣接群個体との距離と両群れの移動方向を経時的に把握した。結果、隣接群の個体と410m以下まで接近した直後に、それよりも長い距離の場合と比べて、より隣接群との距離が離れることが分かった。よって、410m以下の時点で隣接群の存在に気づき、回避している可能性がある。また、410m以下まで接近した個体の組み合わせが異性同士またはオス同士の場合は、メス同士と比べて、その直後は回避する割合が高かった。しかし、一般的にみられる群れサイズと優劣の関係とは異なり、小さい群れの個体が大きい群れの個体の方向へ移動し、大きい群れの個体が回避することが多かった。この理由として、小さい群れでは、群内のGPS個体間の距離が短いほど、隣接群に接近する割合が高くなったことから、接近時の群内の凝集性が高いことが、隣接群に接近する傾向に影響していた可能性がある。

 

P4 Sympatric home range use in autumn with regard to forest productivity and Japanese monkey troop size along Yokoyugawa valley in Shiga Heights, Japan
Wada k, Tokida E, Ichiki Y
We studied the home range use of two troops of Japanese macaques, B2 troop during 1967 and 1975, and C troop during 1973 and 1976. In autumn, B2 and C troops sympatrically inhabited the same lower area along Yokoyugawa valley in the cool temperate forest . Carrying capacity of the home ranges of both troops were determined with the view of 8 forest types, described from 44 vegetation plot quadrates and nut production of monkey foods by 5 plots of seed traps during a 10 year period. Both troops sympatrically used 5 forest types excluding birch and 2 kinds conifer forests, in the lower area of the valley in autumn, obtaining enough food, mainly Fagus and Quercus nuts of the cool temperate forest. Other times, B2 troop mainly used A area from Jigokudani to the dam, and C troop used B area from Ochiai to Kurofu-sawa. It seems that both troops concentrated on different home range areas avoiding feeding competition between both troops with their diet concisting of 16.9 % and 18.8 % of nuts, respectively. Each troop needs enough space and diverse forest for their subsistence. Ample nut production and a diversity of forest types are necessary elements of sympatric home range use in the lower area of Yokoyugawa valley.

 

 

 


ニホンザルの「暮らし」を俯瞰する―遺伝子・行動・生態・人との関わり―

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このページの問い合わせ先:京都大学霊長類研究所 辻大和