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京都大学霊長類研究所 > 2007年度 シンポジウム・研究会 > 第8回ニホンザル研究セミナー・要旨 最終更新日:2007年5月2日

第8回ニホンザル研究セミナー

発表予稿

菅谷 和沙(神戸学院大学大学院 人間文化学研究科 人間行動論専攻)

野生ニホンザルの毛づくろい前の音声に関する地域間比較

ニホンザルは毛づくろいの前に、相手に対して声を出すことがある。この音声は、普段近づかない個体に近づく際に生じる緊張を緩和し、毛づくろいの生起に役立つ音声であると考えられている(Mori, 1975)。餌付け群の場合、毛づくろい前の発声率は、血縁のメスよりも非血縁のメス、高順位のメスよりも低順位のメスの方が高い(Mori, 1975ほか)。一方、野生群の場合は調査がなされておらず、毛づくろい前の発声率は明らかになっていない。そのため、本発表では野生群の毛づくろいの頻度、毛づくろい前の発声率を調べて比較し、野生群における毛づくろい前の音声の機能を検証する。

調査地は宮城県金華山島と鹿児島県屋久島である。2006年7月から9月に金華山島のA群とB1群、2007年1月から3月に屋久島のKawahara-Z群とNina-A-1群をそれぞれ調査した。金華山の2群は、屋久島の2群よりも個体密度が低く、採食パッチ間の距離が長い(Yamagiwa et al, 1998)。つまり金華山の方が屋久島よりも凝集性が低い。各群れから高順位、中順位、低順位のオトナメスを2頭ずつ選び、1個体につき10時間ずつ、個体追跡をした。記録にはデジタルビデオカメラを用いた。特に2m以上離れていた個体が接近後に始めた毛づくろいに注目し、交代して行われた場合には、2回目以降の毛づくろいは分析から除外した。

調査の結果、毛づくろいの頻度は、金華山では約0.6回/時、屋久島では約1.1回/時で、屋久島の方が高いことが明らかになった。毛づくろい前の発声率は、金華山では約56%、屋久島では約30%で、金華山の方が高かった。屋久島よりも金華山での発声率が高い傾向は、血縁関係の有無に関わらず、すべての毛づくろいにおいてみられた。

金華山と屋久島の間で毛づくろい頻度と毛づくろい前の発声率が異なるのには、個体の凝集性が関係していると考えられる。凝集性が低い金華山では、毛づくろい相手が近くにいることが比較的少なく、発声によって相手を呼び寄せたり、相手に近づくことを知らせたりする必要があるだろう。一方、屋久島は金華山よりも凝集性が高いため、発声によって相手を呼び寄せたり、相手に近づくことを知らせたりする必要がないだろう。このように、ニホンザルは毛づくろい前に声を出すことによって、毛づくろいの依頼や許容を伝えている可能性があると考えられる。今後は、どのような個体間で発声がみられたか、発声の有無によって毛づくろいの拒否の割合が異なるかについて分析を進め、毛づくろい前の発声の機能を明らかにしたい。

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神田 恵(京都大学霊長類研究所)

ニホンザルのグルーミングにおけるパートナー選択について

グルーミングは霊長類において一般に広く見られる個体間交渉のひとつであり、集団内の他個体との社会関係を形成、または維持する機能を持つ。これまでのグルーミング交渉に関する研究の多くでは、個体は交渉相手を選択しており、個体間で交わされたグルーミングの分布パターンに選択の結果が反映されている、という前提で行われていた。しかし、この前提の妥当性は十分に示されてはいない。本研究では、霊長類研究所第5放飼場で飼育されていた若桜-B群を対象として、交渉相手が選択可能な場面、選択の余地がない場面でのグルーミングの分布を比較し、交渉相手の選択に差があるのかを調べた。分析では、個体が交渉相手の属性を選べるのは、複数の近接個体がいて、それぞれの個体の属性が異なる場合とし、“観察個体がグルーミング交渉相手を選択した”という場面を次のように定義した。グルーミングバウトが始まったときに複数のオトナメスがいて、それらを2つの属性に分類できるとき(例:血縁個体が1個体、非血縁個体が2個体いるとき)であるとした。交渉相手からグルーミングの催促を受けた後や個体間で攻撃交渉が生じた後のグルーミングは、交渉相手を選択した場面とはみなさなかった。

その結果、選択可能な場面と選択不可能場面ではグルーミングの分布が異なり、選択可能な場面では、血縁個体、高順位個体、親和的な個体への指向性が明確に現れた。特に交渉相手が高順位個体の場合、全体のグルーミングは高順位個体に偏っていなかったにもかかわらず、交渉相手が選択可能な場面では有意に高い割合で高順位個体を選んでいた。 これまでの先行研究では、交渉相手の選択肢が非常に狭く、望ましい相手と交渉がもてなくなっている可能性がある。しかし、選択が可能な場面では、個体の交渉相手の選択に際しての意思決定の結果がより明確に示されているということが、本研究により明らかになった。

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大西 賢治(大阪大学大学院 人間科学研究科 比較発達心理学研究分野)

勝山ニホンザル集団におけるマターナル・モニタリング行動
Maternal visual monitoring of the infant in a free-ranging group of Japanese monkeys at Katsuyama

サル類を対象とした母子関係の研究において、母子が離れた場面はほとんど注目されてこなかった。しかし、母ザルが自分から離れたところにいる子ザルに対してどのように関わるのかは、母子関係を考える上で重要である。本研究では、母ザルが子ザルを見る行動であるマターナル・モニタリング行動 (Maternal visual monitoring of the infant) に注目 し、母子が離れた場面における、母ザルの子ザルへの関わり方を明らかにするために、以下の2点について検討する。

第1に、子ザルの週齢、母子間の距離、母子それぞれが何をしているのかが、マターナル・モニタリング行動の生起頻度にどのように影響しているのかを検討する。そして、母子が離れた場面で母ザルがどのように注意を配分しているのかについて考察する。

第2に、母ザルの子育てスタイルが、母子が接触した場面と離れた場面で一貫しているのかを検討する。母子の接触場面における子育てスタイルやそれを規定する要因は、多くの先行研究によって示されてきた。しかし、母子が接触した場面と母子が離れた場面での母ザルの子育てスタイルの一貫性について検討した研究は少ない。先行研究によって、母ザルの子育てスタイルが保護的であるほど子ザルへのマターナル・モニタリング行動が多くなることが報告されている。本研究では、先行研究では検討されていない行動も含めて、子育てスタイルの指標とされてきた母子相互交渉に関する種々の行動とマターナル・モニタリング行動の関係を探索的に調べる。

勝山ニホンザル集団において、0歳齢の子ザルとその母ザル10組を対象として行った。観察期間は2005年7-10月と2006年5-8月までの間の100日間であった。子ザルの7-8週齢から13-14週齢までを観察し、観察期間を2週齢ごとに4期間に分けた。1セッション20分間の連続観察を、子ザルの週齢区分ごとに2時間、各母子ペアにつき8時間行った。  マターナル・モニタリング行動の生起頻度に影響を与える要因を検討した。子ザルが手の届く範囲にいるときのマターナル・モニタリング行動の生起頻度は、低い値のままで、子ザルの週齢によって変化しなかった。しかし、子ザルが手の届く範囲よりも離れたところにいるときには、マターナル・モニタリング行動の生起頻度は子ザルの週齢が上がるにつれて減少した。

母ザルは、子ザルが移動しているときには他の行動を行っているときよりも頻繁にマターナル・モニタリング行動を行っていた。マターナル・モニタリング行動の生起頻度は、「毛づくろい」と「移動・採食」を行っているときに低下し、「休息」と「スクラッチ」を行っているときに上昇した。母ザルは、子ザルがより危険であると考えられる状況において子ザルをよく見ていたが、自分がマターナル・モニタリング行動を行うことのできない行動を行っているときには子ザルに注意を向けていなかった。

母子が接触した場面と母子が離れた場面において、母ザルの子育てスタイルが一貫しているのかを検討した。ほとんどの保護性の行動指標 (母子の接触率、母子の近接率、母ザルから子ザルへの 毛づくろいの生起率等) とマターナル・モニタリング行動の間に関連性は見られなかった。また、子ザルを抱いている時間が長い母ザルほど、子ザルが母ザルの手の届く範囲よりも離れたときにマターナル・モニタリング行動の生起頻度が低かった。これらの結果は、先行研究とは異なった傾向であった。母子が接触した場面と離れた場面で母ザルの子育てスタイルに違いがある可能性が示唆された。

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山田 一憲(大阪大学大学院 人間科学研究科 比較発達心理学研究分野)
Kazunori YAMADA Department of Comparative and Developmental Psychology, Graduate School of Human Sciences, Osaka University

勝山ニホンザル集団における母子相互交渉と子の社会的発達

生後初期のニホンザルの母子は、身体接触や授乳を通じて極めて密接な関係にある。しかし離乳期には、授乳を求める子ザルと、離乳を求める母ザルとの間に、葛藤が生じる。この離乳期において、子ザルは初めて、他個体との激しい利害の対立を経験する。前半では、乳首接触をめぐる母子の相互交渉を縦断的に調べることによって、子ザルが他個体(母ザル)との利害の対立に対処する能力をどのように獲得していくのかを検討した。後半では、青年期メスの毛づくろい交渉について調べた。一般に、ニホンザルの毛づくろい交渉は、母ザルとその娘の間でもっとも頻繁に生起する。メスのみなしごが行う毛づくろい交渉を、母ザルがいる個体の毛づくろい交渉と比較することによって、母ザルの不在がメスの社会的発達に与える影響を検討した。本発表を通して、子ザルの社会的発達には、母ザルとの関係性の中で展開される側面があることを示したい。

Mother-offspring interactions and social development of offspring in a free-ranging group of Japanese macaques at Katsuyama.

Japanese macaque infants are not always allowed to contact their mothers’ nipple during the weaning period. Mothers often actively reject nipple contact attempts (NCA) made by their infants in order to prevent them from suckling. In the first study, data from fifteen mother-infant (yearling) pairs in a free-ranging group of Japanese macaques were collected and used to examine the relationship between maternal activities and NCA by infants. A mother was more likely to allow her infant to put her nipple in the mouth when the mother was grooming her infant (i.e. taking care of her infant) and when the mother was being groomed by other group members (i.e. receiving hygienic and hedonistic benefits from conspecifics). A mother’s movement to reject NCA by her infant tended to interrupt grooming being received from conspecifics. Thus, mothers generally seemed to tolerate NCA by her infant to maintain grooming by conspecifics. Mothers rejected almost all NCA when the mothers were feeding. However, infants tried to put their mother’s nipple in the mouth when the mother was grooming her infant and when she was being groomed by other members more frequently than would be expected by chance. Infants seldom tried to make nipple contact when mothers were feeding. These findings indicated that the infant could attempt nipple contact in the appropriate context by monitoring maternal activities. By seeking compromise in the weaning conflict with its mother, the infant may construct a developmental base for dealing with social challenges.

In the second study, I examined grooming relationships of adolescent females in a free-ranging group of Japanese macaques. To assess whether the loss of the mother influenced the grooming relationships of 26 adolescent females, we compared the time spent in grooming interactions and the number of grooming partners among the following three groups: 6 adolescent orphans with sisters, 9 adolescent orphans without sisters, and 11 adolescent non-orphans with surviving mothers. In Japanese macaques, grooming most frequently occurs between mothers and their daughters. Therefore, it is expected that if the mother is lost, orphans will devote less time to grooming interactions than non-orphans. However, the time spent in overall grooming interactions did not differ among the three groups. While non-orphans maintained grooming relationships with their mothers, orphans acquired alternative grooming relationships with other group members. Orphans adopted two kinds of tactics to compensate for the loss of the mother. First, adolescent orphans with sisters developed more affiliative grooming relationships with their sisters than non-orphans with sisters. Secondly, adolescent orphans without sisters spent more time in grooming interactions with same-aged females and non-related adult females. Moreover, orphans without sisters had a larger number of grooming partners than non-orphans. These results indicated that adolescent females have enough flexibility to develop their grooming network after the loss of their mothers, and that the lack of the mother and sisters might accelerate socialization of adolescent females and enable them to be integrated in reciprocal adult grooming relationships.

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西川 真理(京都大学大学院 理学研究科 人類進化論研究室)

ニホンザルの採食樹に関する空間知識 ~移動距離と移動速度の観点から~

さまざまな生き物を対象とした多くの実験で、生き物は採食問題を解決するために空間知識を持ち、利用していることが示されている。空間知識の存在を示す指標として、移動の直接性と速度の観点からこれまで研究がなされてきた。ニホンザルにおける空間知識に関する研究は少ないが、同一樹種の中でも特定の樹木個体を繰り返し利用することが指摘されており、このことが主要採食樹の分布についての空間知識持っていることの傍証とされてきた。しかし、これまで、ニホンザルが繰り返し採食に利用する樹木個体についての定量的な研究は行われておらず、どのくらいの頻度で繰り返し利用が行われているのかはっきりしていない。また採食樹への移動距離や速度に関しての情報も限られている。そこで本研究では、採食樹への移動距離、速度の観点からニホンザルの空間知識の存在の検証を行った。

屋久島西部域低地に生息するE群のオトナメス5個体を調査対象とした。追跡対象個体の中から1日に1個体を選び、終日個体追跡をおこなった。個体追跡中は、GPSで遊動ルートを記録した。また、採食に使われた樹木にはナンバーテープを付け、種名と採食部位を記録した。

サルが4回以上繰り返して利用した樹木個体は全体の5%を占めていた。この中には10回以上にわたって繰り返して利用した樹木個体が含まれていた。これは、サルが選択的に繰り返して利用する樹木個体の存在を示している。また、採食樹として利用した樹木個体への移動距離は、繰り返し利用した樹木個体へのほうが長く、移動速度は速かった。採食バウト長は、繰返し利用した樹木個体での方が長かった。このことから、サルは価値の高い採食パッチになることが見込める、すなわち「あの木に行けば必ず一定量の食物を得られるはずだ」という先見性が持てる特定の樹木個体を選好して繰り返し利用していると考えられる。このようにサルの採食樹への移動は、採食効率の観点からみると効率的におこなわれていると考えられる。このことから、ニホンザルは彼らの遊動域内の食物パッチの空間的な位置関係を把握していることが示唆された。

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辻 大和(東京大学大学院 農学生命科学研究科)

結実状態の年次変化が競合を介してニホンザルの個体群パラメータに及ぼす影響

「動物の個体群動態はいかなる要因に影響されているのか」という問題は生態学者の古典的な関心のひとつであった。従来の個体群生態学は個体群を構成する個体の属性についての理解が不十分であったため、各種の要因と個体群サイズの関係だけを調べることが多かった。しかし近年、各種の要因から受ける採食成功ならびに死亡率・出産率などの個体群パラメータへの影響が、個体の属するクラス(順位、性など)によって異なることが明らかになってきた。社会性の強い動物では、食物が限られる場合にしばしばそれを巡る競合が生じる。競合の強さは食物の分布状態に大きく影響され、食物パッチが一様に分布したりパッチサイズが大きい場合は穏やかだが、局在していたりサイズが小さいときは熾烈になる。その結果、順位関係は採食成功や個体群パラメータに影響する。食物の分布様式やサイズといった特性は食物となる生物種ごとに異なり、また年次変動がある。そのため、競合の程度は利用可能な食物の特性に応じて年次的に変化すると予想される。このような背景から本研究は宮城県金華山島に生息するニホンザル(サル)を対象に、食物供給の年次変動がサルの競合を介して各順位個体の個体群パラメータに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

まず、結実の年次変化が食性に与える影響を明らかにするために、金華山島のサルの食性と堅果類の結実状況の関係を調べた。まずサルの食性の季節変化を記述した。秋と冬の主要食物である堅果類の供給状態、エネルギー生産量、結実樹種の組み合わせは年ごとに大きく変化した。食性は年次的に変化したが、その程度は夏から冬にかけて大きかった。これまでの研究では、サルの食物環境は夏と冬に悪いと考えられてきたが、金華山島のサルはこれらの時期に堅果類を利用できる年もあった。短期間の調査に基づく一般化は危険であること、食物環境が大きく変動する温帯では食物の供給状態と動物の食性を同時に調べることが重要であることを指摘した。

次に、食物の消化率を考慮した上でサルのエネルギーバランスおよびタンパク質バランスの季節変化を明らかにした。食物の栄養価、消化率、行動観察のデータから一日当たりのエネルギー摂取量、タンパク質摂取量を求め、同時に一日当たりのエネルギー要求量、タンパク質要求量を推定し、両者の差からエネルギーバランス、タンパク質バランスを評価した。その結果、先行研究とは異なり、ニホンザルのエネルギーバランスは早春と秋に良好で春と冬に悪く、タンパク質バランスは早春のみ良好で、他の季節は悪かった。また、エネルギーバランスには堅果類、キノコ類、花が、そしてタンパク質バランスには花が貢献しており、その貢献の高さはこれらの食物タイプの栄養価の高さだけではなく、摂取効率の良さにも由来することを示した。そして、栄養状態の評価において食物の消化率を考慮することの重要性を指摘した。

これらの結果に基づき、食物環境の年次変動がもたらすサルの競合の程度が各順位個体の個体群パラメータに与える影響を調べた。交尾期である9月から11月を中心に、2004年から2005年にかけての2年間、1) 食物環境、2) 食物を巡る競合および採食成功、3) 個体群パラメータへの影響を調べた。2004年にはカヤのみが、そして2005年にはすべての樹種が結実した。サルはブナに対する嗜好性がもっとも高かった。カヤは生育本数が少なく、樹冠面積が小さいため潜在的にサル同士の競合が発生しやすい樹種であるのに対し、ブナは生育本数が多く、また樹冠面積が大きいため潜在的にサル同士の競合が発生しにくいと予測した。2004年の交尾期は高順位個体が平均を大幅に上回るエネルギーを獲得したのとは対照的に、低順位個体は交尾期でさえ要求量ぎりぎりのエネルギーしか獲得できなかった。2004年の秋から2005年の春にかけて死亡した3頭のうち2頭は中順位個体、1頭は低順位個体であり、また2005年の春には高順位のみが出産した。これと対照的に、2005年の交尾期には攻撃的な交渉は少なく、順位に関わらず要求量を上回るエネルギーを獲得し、死亡個体はおらず、またほとんどすべての個体が出産した。過去25年分の個体群パラメータと結実状況のデータを解析したところ、今回の結果と同様の結果が得られた。こうして食物環境の年次変動が競合を介して個体群パラメータに違いをもたらすことを示した。

本研究の結果は、ニホンザルの採食成功が交尾期の堅果の種と量の年次変動に影響される競合の程度に強い影響を受け、それが栄養状態を通じて個体群パラメータに影響する可能性を強く示唆した。そして、このことに基づいてニホンザルの個体群動態は食物環境の年次変動が競合を介して順位に基づく個体群パラメータの違いによってもたらされると結論した。

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ポスター発表

吉田 洋(山梨県環境科学研究所)

Crop damage by a wild Japanese macaque troop and damage management in the northern area of Mt. Fuji, Japan

We examined current crop damage by Japanese macaques and evaluated the control methods that are employed. The frequency of crop damage was highest in winter, followed by summer, autumn, and spring. Wild Japanese macaques primarily consumed leafy and stem vegetables in winter and spring, fruit vegetables in summer, and fruits in autumn. In winter, the distance between the forest edge and farmland areas receiving crop damage increased, and the maximum distance recorded was 180 m. Japanese macaques also fed on crop residue and waste in winter. These observations suggest low food availability in the forest habitat; thus, to reduce crop damage in winter, food availability in the forest habitat should be augmented. Moreover, to reduce crop damage in farmland, it is necessary to properly dispose of raw crop waste and crop residue, and it is critical to educate the local communities. There was no management strategy to limit crop damage in most areas in which damage occurred. Damage prevention, by constructing net walls to exclude macaques, was exercised at only eight sites (2.9%). However, of the 81 days when wild Japanese macaques were observed in residential areas or surrounding farmland, residents chased them off on only 28 days (34.6%), and the average number of people who participated in this artificial exclusion management procedure was only 1.6 per event. Therefore, it is necessary to establish a cooperative management system that includes the participation of women from local communities to reduce crop damage.

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川本芳・川合静・齊藤梓・川本咲江(京都大学霊長類研究所 集団遺伝分野)
Kawamoto Y, Kawai S, Saito A, Kawamoto S (Population Genetics Section, Primate Research Institute, Kyoto University)

ニホンザル研究へのY染色体マイクロサテライト多型の応用性

Y染色体上のマイクロサテライトDNAでニホンザルに個体変異があることが明らか になってきた。野生ニホンザルを対象とする研究にこの新しい遺伝子標識をどう利用できるか、その可能性を検討している。今回の発表では、1)個体群の孤立化や成立過程に関する研究への応用、2)ニホンザルと外来種の交雑に関する研究への応用、3)繁殖の経時変動に関する研究への応用、について紹介し、今後の利用の可能性について参加者と議論を深めたい。話題として1)については下北半島や幸島とそれらの周辺地域の比較、2)については房総半島のアカゲザル交雑の判定、3)については高崎山におけるオスの繁殖成功の推移、の分析経過を紹介する。

On the applicability of Y chromosomal microsatellite polymorphism to the studies of Japanese macaques (Macaca fuscata)

Variations of the microsatellite DNAs have been revealed on the Y chromosome of Japanese macaques. We have explored the applicability of those new genetic markers to the study of wild populations. In this poster presentation, we will introduce tentative results of studies for 1) quantification of the degree of isolation and qualification of historical background of a local population, 2) evaluation of hybridization with an introduced foreign species and 3) assessment of temporal change in reproductive performance, in order to discuss with attendants for the use of this approach in future. We will present those tentative results of 1) comparison of Shimokita or Koshima population with its surrounding populations, 2) assessment of hybridization for a rhesus population at Boso peninsula, and 3) evaluation of male reproductive dynamics in the groups at Takasakiyama.

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杉浦秀樹(京都大・霊長研)・ 田中俊明(梅光学院大・子ども)・ 揚妻直樹(北海道大・北方フィールド科学センター)・ 早川 祥子(京都大・霊長研)・ 香田 啓貴(京都大・霊長研)・ 早石 周平(琉球大学・大学教育センター)・ 柳原 芳美(総合地球環境研究所)・ 半谷吾郎(京都大・霊長研)・ 藤田志歩(山口大・農)・ 松原幹(京都大・霊長研)・ 宇野壮春(宮城のサル調査会)・ 清野未恵子(京都大・動物)・ 鈴木真理子(京都大・霊長研)・ 西川真理(京都大・動物)・ 室山泰之(京都大・霊長研)

屋久島における野生ニホンザルの個体数変動
Population dynamics of Japanese macaques in Yakushima Island

屋久島西部海岸域では、1998年の秋~1999年冬にかけて、ニホンザルの大量死が観察された。大量死からの回復過程を明らかにし、大量死がその後の個体群動態に与えた影響を探る。

毎年7-8月にニホンザルの頭数調査を行い、個体数やアカンボウの数を数えた。また、定期的に道路を歩いてサルを探し、その構成を数えることでも、個体群パラメータの推定をした。さらに集中的な調査の行われている群れでは、個体識別に基づいて、出産、消失などを随時記録した。

大量死の後2年は頭数が急速に密度が上昇し、その後は頭打ちになってきている。また、大量死の際にアカンボウの数が極端に少なくなったことが原因で、出産率の高い年と低い年が交互に現れた。

大量死によって、一時的に密度が下がり、急速に増加した。これは、出産による個体数の回復だけでなく、周りからの個体の流入もあったようだ。大量死後は出産率が大きく変動し続けており、大量死前の比較的安定した状態には戻っていないようだ。大量死後は出産率の変動が大きいが、今後収束していくかどうかは、その原因の追及を含めて、未解決である。分析を進めると共に、今後もモニタリングが必要である。

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