京都市との連携に際しての挨拶 (2008年4月18日)

尾池 和夫

  京都大学は、1897年に創立され、本年、創立111周年を迎えました。本郷の東京大学に次いで2番目の国立大学です。京都市動物園は本郷の隣の上野に次いで第2番目の動物園で1903年に開園しました。京都大学の学生たちもずっとこの動物園に通ってきたことでしょう。

京都大学の設立が、当初は大阪を予定していたそうです。それが、京都府・京都市の強い要請があって、京都帝国大学になったそうです。この百余年のあいだ、京都大学はつねに新しい学問を創ってきました。この一年間を振り返ると、こころの未来研究センター、iPS細胞研究センターを立ち上げました。そして4月1日には、野生動物研究センターと文化財総合研究センターが発足しました。こころの未来、iPS細胞、野生動物、埋蔵文化財、一見つながりがないように見えますが、いずれも他の大学には類例のないユニークな研究センターです。これらの新しい学問の芽が、今後、急速に成長していくでしょう。

野生動物研究センターは、野生動物に関する教育研究を通じて、京都大学の理念である「地球社会の調和ある共存に貢献する」ことを設置目的としています。野生動物のなかでも、絶滅の危機に瀕した大型の野生動物を対象としています。京都大学には、チンパンジーやゴリラやオランウータンをアフリカやボルネオの森で研究してきたフィールドワークの伝統があります。今西錦司さんと伊谷純一郎さんが初めてアフリカ探検にでかけたのは1958年でした。今年は、その50周年になります。伊谷さんの著書「ゴリラとピグミーの森」の発刊は1961年です。わたしは理学部の学生でした。もしこの本が数年早く出版されていたら、わたしは地震学ではなくて、京都大学へ行って霊長類のフィールドワークを志していたかもしれません。

京都は世界文化遺産の町ですが、野生動物研究センターは、世界自然遺産の屋久島に観察所をもっています。先日、屋久島観察所を訪問し、全国から集まってきた若い研究者たちのフィールドワークの日々の一端を見てきました。そして、屋久島の海岸に沿ってぐるりと島を一周しました。たくさんのヤクザルとヤクシカを間近に見ることができました。サルやシカが自然のままに暮らしています。そっと歩けば、近寄っても逃げません。また、近寄ってきて人間に何かをねだったり、悪さをするわけでもありません。ヒトとサルとシカとが共存している。不思議な感覚をおぼえました。

京都大学の野生動物研究センターは、野生動物の研究をしますが、まずヒト科4属のうちのヒト以外、つまりチンパンジー・ゴリラ・オランウータンの3属を、最初の主な研究対象にすることになるでしょう。アフリカや日本での研究の蓄積があるからです。日本の動物園は現在90以上あるが、チンパンジーもゴリラもオランウータンもいるのは、全国で現在5園しかないそうです。チンパンジー舎が改修されてチンパンジーが導入されると、日本で6つしかない動物園のひとつとして京都市動物園が復活します。

京都市動物園は、1960年にニシローランドゴリラが来園し、1970年にはその子供が生まれ、さらに1982年にはその子供が生まれ、というようにゴリラを3世代で育てた経験を持っています。たいへん繁殖に熱心な動物園です。少子高齢化の進む、ヒト科4属のことを研究しながらその福祉を考える絶好の場所になると思います。

背の高いキリン、大きなゴリラ、そうした野生動物をまぢかに見ることで強い感動があります。わたしもじつは孫をつれて時々来るのですが、そうした実感をもった環境教育の場として、動物園はきわめて貴重だと思います。じっさいにアフリカにはいけないが、彼らの姿を通して、アフリカの自然の生息地に思いをはせることができます。

野生動物研究センターを中核とした大学と動物園の連携により、新たな環境教育が進むことを期待します。この協定を機会に野生動物に関する教育、研究が進み、社会貢献が進むことを大いに期待してご挨拶といたします。この協定ができるまでに門川市長はじめ多くの方々にお世話になりました。本当にありがとうございました。

(当日の挨拶をもとにまとめました。)

京都大学と京都市が野生動物保全に関する教育及び研究の連携協定を締結