野生動物研究センター 共同利用研究会 2018

はじめに

京都大学野生動物研究センターは、野生動物や動物園や水族館館の飼育下の動物を主な対象として、基礎研究や保全研究を推進しています。このような活動をより広範に進めるため、共同利用・共同研究として、当センター以外の方の研究をサポートし、共同研究を行っています。
 この研究会では、これまでの共同利用研究の成果を中心に様々な研究成果や、調査・研究の取り組みを発表していただきます。また、これまでの活動を踏まえて、よりよい共同利用研究のあり方を考えて行きたいと思います。共同利用研究に外部から参加する方、共同利用研究の計画や審査をする方、共同利用を受け入れる内部のスタッフなど、様々な立場の相互理解が進むことで、よりよいものにしていけると期待しています。
 これまでの共同利用用研への参加の有無にかかわらず、どなたでもご参加いただけます。野生動物や、動物園や水族館の動物を対象とした、調査・研究に関心のある方のご参加も歓迎します。

お礼

沢山の方にご参加いただき充実した研究会となりました。今回は若手の研究者の方も多く、交流の場にもなったのではないかと思います。また、共同利用研究制度についてのご意見も伺うことができ、たいへん参考になりました。これからも共同利用研究の充実、改善をはかっていきたいと思います。

参加者
他大学 15名
京都大学・他部局 7名
一般 1名
京都大学・当センター所属 10名
計 33名

日時・場所

日時 2019年3月8日(金) 10:00-17:00
   研究会終了後 懇親会を行います
場所 京都大学 野生動物研究センター セミナー室(地下1階) アクセス
会場への行き方は こちら

プログラム

10:00~10:05 村山美穂(京都大・野生動物研究センター・センター長)
        開会の挨拶

座長 杉浦秀樹(京都大・野生動物研究センター)
10:05~10:35 鶴谷未知(名古屋大・環境学・大学院生)
        蕪島で繁殖するウミネコの採餌行動の変化
10:35~11:05 大門純平(北海道大・水産科学・海洋生物資源科学・大学院生)
        北海道北部日本海の近接した海鳥繁殖地間で繁殖成績の差が生まれる理由
11:05~11:35 谷 日向子(名城大・大学院生)
        野生下ウミネコにおける水銀汚染の影響
11:35~12:05 佐藤 悠(京都大・野生動物研究センター・大学院生)
        絶滅危惧種ニホンイヌワシは本当に絶滅危惧か
12:05~13:15 休憩

座長 森村成樹(京都大・野生動物研究センター)
13:15~13:45 境桃子(京都大学農学研究科・大学院生)
        飼育下におけるカマイルカのテロメア長測定手法の確立とテロメア動態の解明
13:45~14:15 荒木真帆(東京農業大・バイオセラピー学・野生動物学研究室・大学院生)
        イロワケイルカの睡眠行動特性に関する研究
14:15~14:45 榎津晨子(三重大・生物資源学・生物圏生命科学・海洋生物学講座・大学院生)
        ハクジラ類のあくび様行動に関する研究
14:45~15:05 休憩

座長 平田聡(京都大学野生動物研究センター)
15:05~15:35 森村成樹(京都大・野生動物研究センター・准教授)
        三角西港におけるスナメリの船舶に対する回避行動
15:35~16:05 木村里子(京都大・国際高等教育院附属 データ科学イノベーション教育研究センター・特定講師)
        音響観察手法を用いた伊勢湾・三河湾におけるスナメリの生態調査

16:05~16:20 休憩
16:20~17:00 意見交換・共同利用研究への要望など
17:30~  懇親会(くれしま にて)

参加申込

申込なしでご参加いただけます。が、事前にご連絡いただけると、準備がしやすくなって助かります。
なお、懇親会に参加される方は、事前にお知らせください。人数が多くなりそうなので、入れる会場を予約しないといけません。ご協力をお願いします。


申込・問い合わせ先
(終了しました)

発表要旨

鶴谷未知、水谷友一、鈴木宏和、依田憲
(名古屋大学 大学院環境学研究科)

蕪島で繁殖するウミネコの採餌行動の変化

 動物は様々な環境の変化に対応しながら繁殖を成功させる。鳥類の場合、育雛期になると、獲得した餌を自身だけでなく雛へも配分しなくてはならず、それに伴って行動を調節する必要がある。本研究では、繁殖期のウミネコにGPSデータロガーを装着し、移動経路を記録することで、繁殖ステージに応じた採餌行動の変化を調べた。また、そのために長期間の装着を目的とした、ウミネコへのハーネス装着法の検討、および、装着物重量がウミネコの行動に与える影響評価を行なった。本調査で得られた結果から、育雛期になると親鳥が採餌行動をどのように変化させるのかを紹介する。








大門純平 1・2、伊藤元裕 3、長谷部 真 4、庄子晶子 1・2、林 はるか 1、佐藤信彦 5、越野陽介 6、島袋羽衣 7、高橋晃周 7、渡辺謙太 8、桑江 朝比呂 8、綿貫 豊 31
1 北大院水産、2 大黒自然研究会、3 東洋大生命科学、4 北海道海鳥保全研究会、5 東大大気海洋研、6 道さけます内水試、7 極地研、8 港空研)

北海道北部日本海の近接した海鳥繁殖地間で繁殖成績の差が生まれる理由

 海鳥の繁殖成績は、繁殖地周辺の環境によって変動すると考えられているが、近接した繁殖地間で繁殖成績の差が生まれる要因を調べた研究は少ない。近年、北海道北部日本海のトド島と天売島で繁殖するウトウでは、トド島個体群の方が、安定して繁殖成績が高い。本研究では、この繁殖地間でなぜ繁殖成績の差が生まれるのかを明らかにするため、2016–2017年に繁殖地周辺の海表面水温、雛の肥満度と餌、親鳥の採餌行動の違いを比較した。繁殖地間で、雛に与えられた餌種の組成(ホッケ稚魚やイカナゴ類)は大きく違わなかったが、1回あたり給餌量および給餌頻度はトド島の方が重く、その結果、雛の肥満度はトド島で高かった。トド島周辺は、育雛期中の水温(9–16 °C)が天売島(11–18 °C)より低いため、冷水性のホッケやイカナゴ類の豊度が高かったのかもしれない。海水温のわずかな違いが、餌の分布に影響し、繁殖成績の差を生むことが示唆された。



ヒナのための餌(ホッケ稚魚)をくわえたウトウ


谷日向子、新妻靖章
(名城大学 環境動物学研究室)

野生下ウミネコにおける水銀汚染の影響

 水銀の生態系への排出は天然由来と人為由来があり、近年人為的な排出量が増加している。排出された水銀が有機化されると毒性が高まる。海鳥類は海洋生態系の高次消費動物であるため生物濃縮による水銀の影響を受けやすい。日本近海では日本海側よりも太平洋側で水銀濃度が高いことが分かっており、太平洋側で繁殖する沿岸性のウミネコ(Larus crassirostris)への影響が考えられる。青森県八戸市蕪島繁殖地にて2018年にウミネコの野外調査を実施した。ウミネコ親鳥の血中水銀濃度は外洋性の海鳥よりは低かったが、ミツユビカモメ(Rissa tridactyla)で繁殖に影響のあった血中水銀濃度と同じ範囲であった。ウミネコの繁殖行動の観察から抱卵行動に水銀の影響は見られなかったが、血中水銀濃度の高い個体ほど給餌回数が有意に少なかった。





佐藤 悠 1、前田 琢 2、Rob Ogden 3、岸田拓士 1、村山美穂 1
1 京都大学野生動物研究センター、2 岩手県環境保健研究センター、3 The University of Edinburgh)

絶滅危惧種ニホンイヌワシは本当に絶滅危惧か

ニホンイヌワシは朝鮮半島の一部と日本に生息する大型猛禽類であり、その個体数は約500羽と推定されている。繁殖成功率が年々減少していることもあり、環境省のレッドリストでは絶滅危惧ⅠBに分類され、近い将来の絶滅が危惧されている。本研究ではニホンイヌワシは本当に絶滅危惧なのか、危機的な状況にあるのかを明らかにすることを目的に、野生および飼育のニホンイヌワシの遺伝的多様性の解析や存続可能性分析、集団ゲノミクス解析を行ったので、その研究成果を紹介する。





境桃子 1、木村里子 2、水谷友一 3、 石川恵 4、伊東隆臣 4、新妻靖章 5、 荒井修亮 6
1 京都大学大学院農学研究科、2 京都大学国際高等教育院附属データ科学イノベーション教育研究センター、3 名古屋大学大学院環境学研究科、4 大阪市海遊館、5 名城大学農学部、6 京都大学フィールド科学教育研究センター)

飼育下におけるカマイルカのテロメア長測定手法の確立とテロメア動態の解明

 脊椎動物の染色体末端にはテロメアと呼ばれる部位が存在する。このテロメアは加齢やストレスの影響を受けてその長さが変化することが知られ、近年では野生動物の中長期的なストレス指標として注目されつつある。本研究では、テロメアを飼育下イルカ類のストレス指標として活用するための第一歩として、テロメア長測定手法を確立し、その長さがどう変化するか明らかにすることを目的とした。海遊館(大阪市)の協力を得て、2017年5月から2018年10月までの1年半に渡り、カマイルカ 6個体のテロメア長を測定した。この結果より、カマイルカにおいては、繁殖や飼育環境から被るストレスの影響を受けてテロメアの長さが変化する可能性が示唆された。本発表ではこの研究結果について詳しく紹介する。



海遊館展示水槽における採血時の様子


荒木真帆(東京農大・野生動物)、吉田弥生(東海大・海洋)、神宮潤一、田中悠介、寺沢真琴(仙台うみの杜水族館)、関口雄祐(千葉商科大)

イロワケイルカの睡眠行動特性に関する研究

 鯨類がどのように睡眠を取っているのかは未だ謎が多く、種類や体サイズによっても様々である。したがって、鯨種ごとに睡眠行動を把握することが重要であり、特に観光産業の対象となっている種に関しては喫緊の課題である。卒業研究において、イロワケイルカが24時間ほぼ泳ぎ続け、静止型睡眠はほとんど行わない事が判明した。そこで本研究においては、目の開閉以外の遊泳型睡眠時と覚醒時の差異を明らかにすることを目的とし、鳴音解析と行動観察を行った。イロワケイルカ3頭(♀1頭、♂2頭)の遊泳睡眠データ1721回分を分析した結果、覚醒時と睡眠時の違いは、遊泳ルートと平均発声回数にある事が示唆された。本発表ではその研究結果を紹介する。





榎津晨子 1、森阪匡通 1、村上勝志 2,櫻井夏子 2、植田奈穂子 3,若林郁夫 4,小木万布 5、吉岡基 1
1 三重大院・生物資源、2 南知多ビーチランド、 3 (株)堀場製作所、4 鳥羽水族館、5 御蔵島観光協会

ハクジラ類のあくび様行動に関する研究

 あくびは,口をゆっくり大きく開けて空気を吸い,それを短く吐き出す行動と定義されているが,水中で呼吸をしないハクジラ類においても,あくびのような行動(以下「あくび様行動」)が観察されている.本研究では,この行動がヒトや他の哺乳類のあくびと同様の行動であるか行動観察により調べた.ハンドウイルカ(飼育下)では,あくび様行動は5例あり,それらは休息時に発生し,口をゆっくり開け,極大を保ち,すばやく閉じるというヒトと同様の形式であった.さらにミナミハンドウイルカ(野生下:5例)や系統が大きく異なるスナメリ(飼育下:13例)でもあくび様行動が見られたため,ハクジラ類に一般的な行動である可能性が考えられた.また,あくびの持続時間が脳重量,ニューロン数と相関することは陸生哺乳類で知られているが,ハクジラ類は相関から外れた.このことから,あくび様行動はあくびの機能の一部が失われた行動であることが考えられた.





森村成樹、森裕介
(京都大学 野生動物研究センター 熊本サンクチュアリ)

三角西港におけるスナメリの船舶に対する回避行動

 スナメリは日本近海に生息するが、背びれがないために観察が難しく、行動や生態はよく分かっていない。近年ドローンの普及は、任意の高度/角度でこうした動物の観察を可能にした。本研究は、三角西港(熊本県宇城市)で、船舶と離合するスナメリの行動をドローンで記録したものである。その結果、船舶とすれ違った後でも集団の高い凝集性が認められ、スナメリの社会が少しずつ分かってきた。



スナメリ11頭の遊泳


スナメリと船舶の離合


木村里子
(京都大学国際高等教育院附属データ科学イノベーション教育研究センター)

音響観察手法を用いた伊勢湾・三河湾におけるスナメリの生態調査

 スナメリは、主にアジアの沿岸域、河川域にのみ生息する小型鯨類です。大きな回遊をせず一生を沿岸域のみですごすため、人為的な影響が及びやすく、継続的なモニタリングが必要です。しかし、本種は目視観察による発見が難しく、野生下における行動や生態はあまり明らかになっていませんでした。一方、鯨類の発する音を受信して存在位置や行動を割り出す、受動的音響観察と呼ばれる手法が広く用いられるようになってきました。私は、この手法をスナメリの生息地で適用し、行動や生態を明らかにしようと研究をおこなってきました。特に近年では、伊勢湾・三河湾に生息するスナメリ個体群に着目し、様々な共同研究者らと一緒に、分布や来遊パターンの調査を行っています。本セミナーでは、スナメリの発する超音波を捉えることで見えてきた、彼らの生態について紹介させていただきたいと思います。


三河湾のスナメリ(撮影 木村里子)

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