京都大学野生動物研究センター 共同利用・共同研究

野生動物研究センター 共同利用研究会 2017

日時 2017年12月2日(土) 10:00-17:30頃
   研究会終了後 懇親会を行います
場所 京都大学 理学部セミナーハウス (吉田キャンパス・北部構内)
   京都大学・キャンパスマップ のページへ
京都駅から会場への行き方は こちら

はじめに

京都大学野生動物研究センターは、野生動物や動物園や水族館館の飼育下の動物を主な対象として、基礎研究や保全研究を推進しています。このような活動をより広範に進めるため、共同利用・共同研究として、当センター以外の方の研究をサポートし、共同研究を行っています。
 この研究会では、これまでの共同利用研究の成果を中心に様々な研究成果や、調査・研究の取り組みを発表していただきます。また、これまでの活動を踏まえて、よりよい共同利用研究のあり方を考えて行きたいと思います。共同利用研究に外部から参加する方、共同利用研究の計画や審査をする方、共同利用を受け入れる内部のスタッフなど、様々な立場の相互理解が進むことで、よりよいものにしていけると期待しています。
 これまでの共同利用用研への参加の有無にかかわらず、どなたでもご参加いただけます。野生動物や、動物園や水族館の動物を対象とした、調査・研究に関心のある方のご参加も歓迎します。

おかげさまで、無事、終了しました。
 いずれの発表も興味深く、議論も活発に行われたました。意見交換では、動物園、水族館での研究における課題や、情報交換のためのネットワークの重要性、研究機関に所属する若手研究者への支援、などについて、活発な意見交換を行うことができました。もっと多くの参加があってもおかしくないと思いましたが、これは主催者側の力不足です。ご参加いただいた皆様に、感謝いたします。

参加人数 43名 (学外の方 31名、当センター所属 12名)

プログラム

10:00~10:05 研究会開催にあたって
        村山美穂(京都大学野生動物研究センター)

座長 杉浦秀樹(京都大学野生動物研究センター)
10:05~10:35 豊田 有(京都大学霊長類研究所)
        ベニガオザルの“性”の進化は進化的軍拡競争の帰結か? - 行動観察と父子判定から見えてきた野生ベニガオザルの繁殖生態 -
10:35~11:00 森 智基(信州大学・総合工学系研究科)
        堅果類の豊凶がツキノワグマの出没に与える影響~実際の採食行動と照らし合わせて~

11:10~11:35 鈴木真理子(鹿児島大学・国際島嶼教育研究センター)
        奄美大島におけるアマミノクロウサギの巣穴利用について
11:35~12:00 柏木伸幸(かごしま水族館)
        錦江湾における鯨類の生態研究について

12:05~13:15 (昼食)

座長 平田聡(京都大学野生動物研究センター)
13:15~13:40 三島由夏(東京海洋大)
        飼育下カマイルカのコンタクトコール
13:40~14:05 小原未咲(静岡大学・理学部)
        ハンドウイルカの遺伝子多型と性格の関連
14:05~14:30 中村千晶(チアキデンタルクリニック)
        オランウータンの歯科健診?!始めました

座長 森村成樹(京都大学野生動物研究センター)
14:50~15:15 吉田志緒美(NHO近畿中央胸部疾患センター)
        動物園飼育アジアゾウを対象とした結核罹患時における適正な診断・治療及びフォローについての Prospective Study
15:15~15:40 石田郁貴(千葉市動物公園)
        マレーバクにおける心電図を用いた穿刺ストレスの評価
15:40~16:05 岡部 光太(京都市動物園 種の保存展示課)
        レッサーパンダ(Ailurus fulgens)の繁殖関連行動の観察(同居時の行動・人工保育個体の社会化)

16:25~17:30 意見交換
        (共同利用研究についてのご意見、ご要望などもお聞かせいただければと思います)

18:00~ 懇親会 樽八 にて

参加申込

申込なしでご参加いただけます。が、事前にご連絡いただけると、準備がしやすくなって助かります。
なお、懇親会に参加される方は、なるべく事前にお知らせください。人数が多くなりそうなので、入れる会場を予約しないといけません。ご協力をお願いします。


申込・問い合わせ先
杉浦 e-mail: sugiura.hideki.7s@kyoto-u.ac.jp (終了いたしました)

発表要旨

豊田 有1、丸橋珠樹2、濱田穣1、Suchinda Malaivijitnond3
(1 京都大学霊長類研究所、2 武蔵大学、3 チュラロンコン大学、タイ王立霊長類研究センター)

ベニガオザルの“性”の特殊化は進化的軍拡競争の帰結か? - 行動観察と父子判定から見えてきた野生ベニガオザルの繁殖生態 -

 ベニガオザルはアジアに広く生息するオナガザル科マカク属の1種であり、個体間の社会的順位関係が比較的緩やかな平等的社会をもつ種としてよく知られている。一方で、近縁種内でも本種にしかみられない種特異的な形態の生殖器を持ち、性行動様式や社会行動にも珍しい行動が多いなど、その独自性は際立っている。しかし、これまでベニガオザルを野外で研究した例は非常に少ないため、野生での生態はいまだに解明されていない点が多い。
 私たちは、このベニガオザルの進化、とりわけ、生殖器の形態や交尾行動パタンといった繁殖に関連する特徴の著しい特殊化がいかにして起きてきたのかを探るべく、2015年9月から2017年6月まで、タイ王国カオクラプック・カオタオモー保護区に生息する野生のベニガオザルを対象に、長期野外観察による性行動の記録と、遺伝解析を用いた父子判定を並行して進めてきた。この研究の結果、社会状況に応じて柔軟に繁殖戦略を変えるオスと、それを巧妙にかわしながら配偶者選択を守ろうとするメスの駆け引きが明らかになった。本発表では、こうした結果からベニガオザルの“性”の進化の考察を試みるとともに、タイ王国における長期野外ベニガオザル研究の話題を紹介する。
(採択:平成27年度共同利用・共同研究、自由研究)



森 智基1、杉浦里奈2、加藤真2、加藤春喜3、新妻靖章2、泉山茂之4
(1 信州大学総合工学系研究科、2 名城大学、3 NPO法人白川郷自然共生フォーラム、4 山岳科学研究所)

堅果類の豊凶がツキノワグマの出没に与える影響~実際の採食行動と照らし合わせて~

 ツキノワグマの人里への大量出没は,餌資源量,狩猟者の減少,中山間地域の環境変化など複数の要因が合わさっていると考えられるが,なかでも採食行動との関係が大きい。これまで餌資源量と出没数との関係を扱った事例は複数知られるが,実際の採食物と照らし合わせた事例は限られる。本研究では,岐阜県白川村において2008年から2016年にかけてクマの食性調査と資源量調査を行い,それらと秋季の出没数との関係について明らかにした。出没が少ない年には,ブナ科堅果,ミズキ,ウワミズザクラを多く採食した一方で,出没が多い年にはそれらの食物の採食率は少なかった。ブナ科(ブナ,ミズナラ,コナラ)の豊凶と出没数との関係性を一般化線形モデルによって解析したところ,いずれの樹種も出没に影響を与えていた。しかし,堅果の採食時期と出没の増加時期は完全に一致しないことから,ミズキとウワミズザクラも出没に影響を与えていることが示唆された。


鈴木真理子1、大海昌平2
(1 鹿児島大学国際島嶼教育研究センター、2 奄美両生類研究会)

奄美大島におけるアマミノクロウサギの巣穴利用について

アマミノクロウサギは奄美大島と徳之島にのみ生息する遺存固有種である。繁殖様式はアナウサギ類と似ており、生活用の巣穴とは別の繁殖穴を利用して子育てをおこなう。2015年秋より自動撮影カメラによって観察を行ってきたアマミノクロウサギの養育行動と、周辺の森林部の調査によるアマミノクロウサギの巣穴利用に関する研究の途中経過を報告する。


繁殖穴から出てきたばかりのアマミノクロウサギ幼獣(中央2頭)と母獣(左下)
柏木伸幸1、中村政之1、山本知里2、宮崎亘1、広瀬純1、久保信隆1
(1 かごしま水族館、2 京都大学霊長類研究所、日本学術振興会)

錦江湾における鯨類の生態研究について

錦江湾(鹿児島湾)ではミナミハンドウイルカ、ハセイルカ、ハンドウイルカの3種が見られ、特にミナミハンドウイルカは湾奥に定住していることが示唆されている。本研究では錦江湾に生息する鯨類の基礎生態の解明を目的に、セスナ機や船舶、車両を用いた個体数調査や個体識別調査を2008年から2017年9月まで計83回行った。調査で鯨類を発見した場合、位置、個体数、仔獣の有無、水温、水深などを記録し個体の記録写真を撮影した。ミナミハンドウイルカについては記録写真を用いてナチュラルマークによる個体識別を行った。その結果、ミナミハンドウイルカの識別個体は85頭になった。今回は錦江湾の鯨類、ミナミハンドウイルカの繁殖期などの基礎生態や生息地利用に関する知見を中心に紹介する。


三島由夏2、森阪匡通2、石川恵3、唐澤勇4
(1 東京海洋大、2 三重大、3 海遊館、4 伊豆・三津シーパラダイス)

飼育下カマイルカのコンタクトコール

コンタクトコールとは群れの結束を維持するために鳴き交わす音であり、孤立した個体は頻繁にコンタクトコールを出す。カマイルカにおけるコンタクトコールを明らかにするため、海遊館と伊豆・三津シーパラダイスにおいて、通常のグループ遊泳時と隔離させた時の鳴音収録・行動観察を行った。研究会ではカマイルカのリズミカルなコンタクトコールについて紹介する。


小原未咲1、今野晃嗣2、村山美穂3、竹内浩昭1
(1 静岡大学理学部、2 帝京科学大学生命環境学部、3 京都大学野生動物研究センター)

ハンドウイルカの遺伝子多型と性格の関連

ハンドウイルカは、水族館などで多く飼育されている海棲哺乳類であり、多様な個性や複雑な社会行動、個体間同士のコミュニケーションを行うことが知られている。ヒトやチンパンジー、イヌなどの様々な哺乳類で性格は神経伝達物質関連遺伝子やホルモン関連遺伝子における多型と関連することが報告されている。たとえば、バソプレシン受容体AVPR1aとオキシトシン受容体OXTRが社会性や親和性といった特性と関連することが示されてきた。今回の研究では、ハンドウイルカ86個体でバソプレシン受容体遺伝子AVPR1aの上流部位のマイクロサテライト配列の多型を探索し、アンケート調査で得られた性格スコアとの関連を調べた。その結果、15種類のアリルが見いだされ、遺伝子型と性格特性因子の「誠実性」や「知性」との関連が示された。本発表では、この研究結果について詳しく紹介する。
中村千晶1、清水美香2、下重法子2、佐橋智弘3、久世濃子4, 5
(1 チアキデンタルクリニック、2 多摩動物公園、3 旭川市旭山動物園、4 国立科学博物館、5 日本学術振興会)

オランウータンの歯科健診?!始めました

飼育下の動物も、ヒトと同じように口腔疾患の予防や早期発見は重要である。今回、ヒトの歯科医療で使用されている検査キット「RDテスト昭和」と「ペリオスクリーンサンスター」を用いオランウータンの口腔内状況を評価した。
 検査キットの多くは唾液を使用するが、オランウータンの唾液を採取することは、ヒトの唾液採取より困難である。今までに多摩動物公園と旭川市旭山動物園での非侵襲的な唾液採取を行ない評価した結果を報告する。
 また、歯科用検査キットは、ここ数年でヒトの歯科医療が治療中心から予防重視にシフトしてきたことに伴い、メーカーによる開発が進んでいる。それらの検査キットについても紹介したい。
 今後、非侵襲的な唾液採取の方法が確立できれば、唾液中の細菌叢の分析や唾液を用いる他の検査方法にも利用できるようになり、長期的な健康管理に役立てられるのではないかと期待している。


オランウータンが吐き出した唾液の飛沫を下敷きで採取


オランウータンの唾液を紙コップで採取
吉田志緒美1, 2、菅里美3、石川智史3、向井康彦3、和田崇之4、山本太郎4
(1 NHO近畿中央胸部疾患センター、2 長崎大学医歯薬学総合研究科国際保健学分野、3 福山市立動物園、4 長崎大学熱帯医学研究所国際保健学分野)

動物園飼育アジアゾウを対象とした結核罹患時における適正な診断・治療及びフォローについての Prospective Study

結核菌をはじめとする抗酸菌種はヒト及びそれ以外の脊椎動物に感染・寄生するZoonotic な病原体であり、動物への感染事例は少なからず報告されている。しかし、抗酸菌症に感染した飼育動物の多くは斃死もしくは剖検後の発見に留まり、個体に対する前向きな診断及び治療の検討は少ない。今回われわれは、アジアゾウの結核症例を対象に、飼育動物の結核治療に適切な治療期間の検討と効果的な治療薬の評価を行った。さらに、治療経過の時系列と連動して、結核初期強化期と維持期における副作用の検討や、栄養状態の改善を含むnon-pharmacologicalな要因の見直しにも着手した。その結果、診断・治療効果判定に必要な検査及びモニタリングの強化の重要性が示され、臨床データと治療効果との相関性が得られた。将来的には、本データを基にして診断基準、治療判定項目を作成し、全国のアジアゾウ飼育園へ情報を共有することでゾウ結核・抗酸菌症の診断・治療の適正化を確立する予定である。


治療中 (C)福山市立動物園


ご機嫌で挨拶 (C)福山市立動物園


プールに入る (C)福山市立動物園

石田郁貴1, 3、山梨裕美2、堀泰洋1、小針大助3、矢用健一4
(1 千葉市動物公園、2 京都市動物園、3 茨城大学農学部、4 農研機構畜産研究部門)

マレーバクにおける心電図を用いた穿刺ストレスの評価

近年国内外の動物園でハズバンダリートレーニングが盛んに実施されている。獣医学的措置に対する受診動作などに馴らすことで、動物が自発的に参加するようになるため処置時のストレス緩和、動物とヒト双方に対しての安全確保が可能と考えられている。このように、動物の飼育管理において利点が大きいと考えられるものの、トレーニング手法が動物に与える影響についての研究は少ない。  そこで本研究では、マレーバク(Tapirus indicus)の健康管理、性ホルモン動態調査を目的とした無保定採血時での自律神経系の働きに着目し、 穿刺時のストレスに関して評価を行う。心拍変動を指標とした自律神経系の働きの評価は過去短期的なストレス評価指標として多くの研究で有効性が確認されている。 国内外含めマレーバクの採血事例は多くないため、本研究において穿刺ストレスを定量的に評価し、よりストレスの少ない採血体制を検討していくことによって、健康管理技術の向上、ホルモン動態調査の実施による繁殖率の向上が期待できる。これまでに、3個体のマレーバクの心拍の測定に成功した。本発表ではこれまでの研究経過について発表する。



岡部 光太
(京都市動物園 種の保存展示課)

レッサーパンダ(Ailurus fulgens)の繁殖関連行動の観察(同居時の行動・人工保育個体の社会化)

 レッサーパンダは,IUCNのRed List(2017)において,Endangeredに分類される絶滅危惧種である。遺伝的多様性を保つ繁殖計画を立てるが,「相性」が障壁となることがあり,今後特に同居時の交渉を解明する必要がある。また飼育下では,人工保育になる事例が見られる。人工保育個体は一般に社会性形成獲得が問題となるが,早期の社会的な経験により,将来の繁殖や個体福祉の改善につながる可能性がある。そこで以下の2点に着目し観察を行った。(1)同居時にどんな交渉があるか。関係性の経年変化はあるか。(2)若年の人工保育個体と同種成熟他個体の同居は,社会行動を促せるか。(1)の結果,ペアの相性は悪かったが,交尾ができ,オスの回避行動により,闘争が減少した。(2)の結果,同居により,人工保育個体の親和的な社会行動が増加した。今回は当園の個体の結果のみのであるため,他のペアで更なる観察が必要である。






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