共同利用・共同研究

2023年度報告書

2023-A-01
代表者 渡邉彩音
屋久島と種子島におけるヤマモモの分布様式の比較  ―ニホンザル絶滅の影響―

渡邉彩音、戸丸信弘(名大院生命農)、半谷吾郎(京大生態研)、中川弥智子(名大院生命農)

これまでの調査から、ニホンザルが生息する屋久島と、ニホンザルが絶滅した種子島の間で、ヤマモモの見た目の分布パターンに差がないことがわかった。そこで本研究では、2つの調査地間で種子散布距離や空間遺伝構造を比較し、森林の空洞化の影響を考察することを目的とした。
種子島と屋久島の各調査地で2021年から2023年に採取したヤマモモの葉からDNAを抽出し、マイクロサテライトマーカー7座を用いて遺伝子型を決定した。花の観察による個体の雌雄判別の結果から、各調査地の個体を母樹候補集団(種子島:145個体、屋久島:129個体)、父樹候補集団(種子島:136個体、屋久島:186個体)、子集団(種子島:111個体、屋久島:232個体)に分け、最尤推定に基づく両親解析を行ったのち、種子散布距離を算出した。また、個体間親縁係数(Fij)と個体間距離について回帰分析を行い、ヤマモモの空間遺伝構造を解析した。平均種子散布距離は種子島の調査地で129.2±9.7 m(平均±SE)、屋久島の調査地で249.4±14.1 mと屋久島の方が長く、見た目の分布パターンが同様な両調査地で、森林の空洞化の影響が種子散布距離の違いとして検出された。推定された種子散布距離から、先行研究と同様に種子島では鳥類がヤマモモの中心的な種子散布者であると予想され、種子島での種子散布量は屋久島と比較して少ないと考えられる。また、種子散布距離が20 m以下だった個体は、種子島の調査地で全体の22.8 %、屋久島の調査地で全体の9.1 %であった。さらに、種子島の子集団では他の集団に比べて強い遺伝構造が見られ、特に0~50 mの範囲で近縁個体が集中していた。短距離散布による近縁個体の集中は、実生更新の過程で競争や病虫害などによる集中枯死を引き起こすと言われている。そのため、種子島の調査地では、ニホンザルの絶滅がヤマモモの実生の生残に負の影響を与えている可能性がある。

2023-A-02
代表者 青田幸大
鯨類の睡眠戦略に熱損失が及ぼす影響

青田幸大(東京農大・農)、関口雄祐(千葉商科大・商経)、金野征記(鴨川シーワールド)、稲森大樹(太地くじら博)、平松春香(太地くじら博)、菊地デイル万次郎(東京農大・農)

 鯨類ではこれまでに多様な睡眠行動が報告されており、それらは筋運動による熱産生を伴う“遊泳型睡眠”と運動を伴わない“静止型睡眠”に大別される。多くの種はこの2タイプの行動を組み合わせて眠り、その使用頻度は種や個体により異なる。そのため、鯨類は戦略的にそれらを使い分けると示唆されているが、これらの睡眠行動を定量的に比較した研究は極めて少なく、睡眠タイプの決定要因は未だ明らかでない。
 そこで我々は体温保持に着目し、鯨類は相対的な熱損失量に応じて睡眠タイプを調節するという仮説を立て、水中環境下における熱損失が鯨類の睡眠戦略に及ぼす影響を検証した。本研究では、体サイズの異なる6種12頭(体重60–10,000 kg)の飼育下鯨類を対象とした観察データを基に、静止型睡眠の継続時間を定量化した。また、低温期および高温期(水温差約8℃、気温差約20℃)に、飼育下ハンドウイルカ9頭(体重180–310 kg)の行動を1分毎の瞬間サンプリングで記録し、体サイズと環境温度の違いが各睡眠タイプに及ぼす影響を評価した。
 その結果、体サイズが大きい種ほど静止型睡眠の最大継続時間は有意に増加した。また、種内で各睡眠タイプの量を比較すると、体重の増加に伴い静止型睡眠は有意に増加し、遊泳型睡眠は有意に減少した。さらに、静止型睡眠は低温期に減少し、高温期に増加する傾向が確認された。一方で、遊泳型睡眠では環境温度が有意な効果を示し、低温期に増加し、高温期に減少した。
 体外へ失われる熱量は体サイズが大きくなるほど相対的に小さくなり、動物と周辺環境の温度差が大きくなるほど増加する。このことから本結果は、鯨類が体温保持のために体サイズおよび環境温度に由来する熱損失量に応じて睡眠行動を戦略的に調節している可能性を示す。今後は、鯨類を含む海生肺呼吸動物の睡眠行動が野生下でどのように変化するかを解明すべく、自由遊泳個体を用いた行動モニタリングを実施する予定である。

2023-A-03
代表者 吉村恒熙
アカギツネの行動と遺伝子による自己家畜化仮説の検討

吉村恒熙(京都大学)

本研究では、北きつね牧場(北海道北見市)という観光施設のアカギツネ(Vulpes vulpes、以下キツネ)に自己家畜化の兆候が見られるかを検討するため、以下のような調査を実施した。なお、北きつね牧場では、約50匹のキツネが放し飼いにされ、人為選択も行われていない。また、放飼場内にはスタッフや観光客が日常的に出入りし、キツネとヒトが頻繁に交渉している。したがって、北きつね牧場では、よりヒトに友好的なキツネが自然選択され、キツネの自己家畜化が起こっている可能性がある。
2023年4月に、北きつね牧場のキツネの糞28サンプル(28個体分。2021年10月から2022年1月と2022年11月から2023年1月の2期間に採取)から抽出したDNAを対象に、ロシアにおけるキツネの家畜化実験で変異が生じたとされるcalcium voltage-gated channel subunit alpha1 C(以下CACNA1C)というゲノム領域の2か所のSNPを調べるため、シーケンス解析を実施した。結果、CACNA1Cの2か所のSNPには、いずれも多型が見られなかった。
また、2023年11月から12月にかけて、再度北きつね牧場で行動観察および糞の採取を行った。行動観察では、個体追跡を行い、放飼場内のスタッフや観光客に対するキツネの反応(友好的:接触・接近・2m近接・10m近接など、非友好的:逃げる・隠れる・威嚇・攻撃など)を記録した。糞は12サンプル(8個体分)を採取することができた。
2024年2月から3月にかけては、追加の糞サンプルから抽出したDNAを対象に加え、アンドロゲン受容体のマイクロサテライト解析を実施するとともに、CACNA1Cのシーケンス解析を再度実施した。結果、アンドロゲン受容体のマイクロサテライト解析では3種類の多型が見つかったが、CACNA1Cの2か所のSNPには、やはり多型が見られなかった。

2023-A-04
代表者 五百部裕
トカラ列島・口之島に生息する野生化ウシと野生化ヤ ギの社会生態学的調査

五百部裕(椙山女学園大学)、木村大治(京都大学)

 鹿児島県トカラ列島口之島では,過去に逸出した飼育牛が山林中に100年以上にわたって生息している。このウシは日本在来牛の遺伝的形質を残し,野生状態で生活するウシとして注目されてきた。代表者らは1980年代前半にその調査を行い,その後,他の研究者の調査も行われてきたが,近年の社会生態学的状況については不明な点が多かった。そこで2022年度よりWRCの共同研究の補助を得て調査を再開した。
 2022年度は分担者の木村が調査を行った。島の概況を見るとともに,野生化ウシの生息する島の南部において観察を実施した。その結果,島一周道路近辺および近年ウシが確認できていなかったいくつかの地域において,9頭の野生化ウシを識別することができた。なお、印牧(2021)による最近の推定個体数は35頭である。同時に,野生状態で生活しているトカラヤギも多数観察した。またドローンによる地形の撮影を行った。
 2023年度は8月22日から27日まで,前年に引き続いて木村が調査を行った。今回はカメラトラップ4台を持参して,ウシとヤギの撮影を試みた。前年に行けなかった地域を含む広域の踏査によって,総計20頭前後のウシ個体を識別することができた。またカメラトラップにより各地域でウシおよびヤギの個体を撮影することに成功した。アカヤマと呼ばれる地域において,5頭の集団(写真1)を継続して記録できたのは特筆に値する。また,ドローンによる地形の撮影も行い,踏査では観察が難しいウシとヤギ生息地域の地形の変化を記録することができた(写真2)。
 2024年度より,トカラ野生化家畜をテーマとした科研費基盤(C)(研究代表者・木村)が採択され,本助成によってスタートしたこの研究を継続していくことになった。今後は新たにDNA分析,GPS首輪を用いた行動域調査,「野生性」をめぐる人類学的な研究なども展開していく予定である。

写真1 カメラトラップに写った5頭の野生化牛の集団

写真2 ドローンによって捉えられた地形の変化

2023-A-05
代表者 村山 夏紀
背びれ形状に基づく陸奥湾に来遊するカマイルカの群れ構成および性比に関する研究

村山夏紀(三重大学大学院),五十嵐健志(Mutsu Bay Dolphin Research),森阪匡通(三重大学大学院・鯨類研究センター)

 青森県の陸奥湾に来遊するカマイルカを対象として,乗船調査をおこないドローンを用いた体長推定を試みた.本種は日本沿岸を季節に合わせて南北に回遊し,夏から秋に繁殖のピークを迎える.青森県陸奥湾において,来遊時期による成熟オス割合の変化を捉え,時期に性差が生じる可能性があるか検証することが目的であった.背ビレ形状から成熟オスを判別し,同時に同一個体をドローンで観察,体長推定を行った.
 観察の結果,来遊前期の5月と来遊後期の6月を比較しても,成熟オスの割合に変化が見られなかった.時期ごとの違いよりも,群間のばらつきが大きく,時期以外の要因が成熟オス割合において重要であったことが推測される.体長推定では,推定精度に課題はあるが,小型個体の観察が少ない傾向がみられた.今後は陸奥湾での観察を続けるとともに,他地点との比較も行っていきたい.

2023-A-07
代表者 辻井浩希
小笠原群島周辺海域におけるハシナガイルカの生息個体数と個体群構造の把握

辻井浩希(一般社団法人小笠原ホエールウォッチング協会)、篠原正典(帝京科学大学)

 東京都小笠原群島の沿岸域には、ハシナガイルカStenella longirostrisが通年生息しており、長年観光利用されてきたものの、「どのくらい」「どのような社会をもって」くらしているかは不明である。そのため、本研究では、背ビレに見られる欠損等の自然標識を利用した個体識別調査により、小笠原群島周辺海域に生息する本種の個体群構造と生息個体数を明らかにすることを目的とした。
 2023年4月から12月までの間、小笠原群島(聟島列島、父島列島および母島列島)周辺海域において、約30回の洋上調査を実施した。各列島の沿岸部を探索し、船上から一眼カメラを用いて背ビレの写真を撮影した。得られた写真に一般人からの提供写真も加え、これまでに取得された背ビレ写真と照合した。整理された発見履歴を基に各個体の利用海域を調べ、また、近接係数(Half-Weight Index)を算出して個体同士の関係を調べた。さらに、標識再捕獲法により、生息個体数の推定を行った。近接係数の算出および個体数推定においては、2019年から2023年の5年間におけるデータを使用した。
 本研究により、新たに51個体が識別され、累計識別頭数は計266個体となった。これまでの調査から、父島–母島列島間を移動している個体がいることが確認されていたが、今回、聟島列島も含めてすべての列島を利用している個体がいることが初めて明らかとなった。また、母島では、他の個体との関係が薄い個体と、関係がとても濃い個体がおり、父島や聟島列島にも訪れていることが示された。その中でも、全列島を共に移動する個体は、一緒にいる傾向が強いことがわかった。標識再捕獲法による計算の結果、小笠原群島における推定個体数は266.7頭(95%信頼区間:264.0–271.1頭)と算出された。今回、聟島列島でのデータ取得により、小笠原群島に生息する本種の生態解明が進んだが、データ数は依然十分でないことから、今後も母島・聟島列島におけるデータ拡充を行い、各解析の精度向上を目指す。

海面に浮上するハシナガイルカの群れ ©一般社団法人小笠原ホエールウォッチング協会

2023-A-08
代表者 今村公紀
動物園等で飼養されている哺乳動物種・個体のiPS細 胞バンク化

今村公紀・京都大学ヒト行動進化研究センター

 熊本サンクチュアリにて健康診断時に採取・凍結保存されていたボノボ(2個体)およびチンパンジー(1個体)の末梢血単核球に対し、SRVベクターを用いてヒト初期化4因子(OCT3/4、KLF4、SOX2、c-MYC)または6因子(OCT3/4、KLF4、SOX2、c-MYC、NANOG、LIN28)を導入することで、ボノボのiPS細胞を9株、比較対象となるチンパンジーのiPS細胞を1株作製した。得られたiPS細胞について多能性マーカー遺伝子、染色体、SRVベクター残存の確認を行った後、神経幹細胞(外胚葉)、肢芽細胞(中胚葉)、肝芽細胞(内胚葉)への直接的分化誘導を実施した。また、作製したボノボ/チンパンジーiPS細胞のRNA-seqを行い、幾つかの既報の公開トランスクリプトームデータとの照らし合わせを行うことで、HomoとPanを分ける遺伝子発現やボノボとチンパンジーを分ける遺伝子発現を特定した。
 一方、動物園との共同研究に関しては、主に豊橋総合動植物公園との個別共同研究を通じて、アムールトラ、サーバルキャット、ダイアナモンキー、アボットハイイロテナガザル、パルマワラビー等の皮膚片から線維芽細胞や腫瘍細胞の初代培養を行った。特にアムールトラに関しては、腫瘍細胞の染色体解析に加えて、腫瘍細胞と正常皮膚由来の線維芽細胞のRNA-seqを行った。

2023-A-09
代表者 金子武人
野生動物配偶子バンクの構築および保存配偶子の人 工繁殖への応用

金子武人 岩手大学

本研究では、野生下や動物園で飼育されている希少な哺乳類および鳥類の精巣、卵巣組織から精子および卵子を採取し、フリーズドライ法および凍結保存法による配偶子保存法を開発することで、配偶子バンクの構築および保存配偶子を用いた人工繁殖技術の開発を行うことを目的とした。
精子は、フリーズドライ保存および凍結保存を実施した。精子のフリーズドライについては、回収した精子を10mM トリス + 1mM EDTA溶液に懸濁した。精子懸濁液をガラスアンプルに充填後、フリーズドライ処理を行った。フリーズドライアンプルは密閉し、冷蔵庫(4℃)で保存した。凍結精子は、運動性や膜正常性を解析することで品質を評価した。
本年度は、国内の絶滅危惧種であるツシマヤマネコ、ヤンバルクイナからの精子採取、保存および品質解析を重点的に行った。さらにニホンイヌワシなどの希少猛禽類の配偶子保存にも着手し順調に保存種の拡大を進めている。保存した精子の一部を解析した結果、形態学的に正常であり、品質の良い状態であった。凍結保存した精子においても、品質評価を行った結果、一部の精子で融解後運動性を確認しており、良好な状態で保存されていることが確認された。
共同利用・共同研究の継続的な支援により、国内種も含め保存動物種の数は順調に増えている。また、保存配偶子の品質も極めて良好であることから配偶子バンクの構築に向けて順調に実施されている。

2023-A-10
代表者 中込 大河
北海道枝幸町におけるオジロワシがウミネコに及ぼす 捕食以外の間接的影響の解明

中込大河

 希少生物種の保全において、保全対象種の個体数回復と在来の生態系のバランス維持との両立は課題とされており、猛禽類の保全と餌となる鳥類においてもその影響が懸念されている。日本では、保護活動によって個体数を増やしているオジロワシHaliaeetus albicillaが餌となるウミネコLarus crassirostrisの繁殖に影響を及ぼすことが懸念されている。捕食などの直接影響と比較して、撹乱にともなう親鳥の急な飛び立ちによる卵やヒナの落下、他の捕食者の誘引などの間接影響の評価はほとんどされていない。本研究では、北海道枝幸郡枝幸町の目梨泊において、オジロワシの飛来にともなう繁殖中のウミネコの逃避のためのエネルギーコスト(以下「付加的エネルギーコスト」)とそれを増減させる要因、付加的エネルギーコストの増大にともなうウミネコの行動時間配分の変化、撹乱による卵温度と孵化率の低下について、複合的に評価した。
 調査は2023年4月から8月まで行った。2021年から2023年までの調査から、 天気などの環境要因によるオジロワシの飛来の傾向の変化が明らかになった。これに伴い、ウミネコのオジロワシに対する反応にも変化がみられ、負荷的エネルギーコストを増減させる要因の一部が明らかになった。また、推定された付加的エネルギーコストは、親鳥の生存率に直結する値であることが示唆された。加えて、ウミネコはオジロワシの飛来時には平常時よりも早く羽ばたいていることがわかった。一方で、付加的エネルギーコストの増大にともなう行動時間配分の変化は見られなかった。また、撹乱時の卵温度は、孵化率への影響は見られなかったが、卵やヒナの生存率に影響を及ぼす可能性が示唆された。

2023-A-11
代表者 西村大我
飼育イルカ成獣における隊列遊泳時の抵抗軽減効果

西村 大我(近畿大学大学院)酒井麻衣(近畿大学)神田 幸司(名古屋港水族館 )森 朋子(名古屋港水族館 ) 大島 由貴 (名古屋港水族館) 山本 啓人 (近畿大学大学院) 足立 樹莉 (近畿大学)

【研究概要】
イルカは水中で生涯を過ごす生物であり、その遊泳能力の研究は生物学的な理解だけでなく、水中ロボットの開発にも影響を与える重要な工学的課題である。特に、隊列遊泳は抵抗を軽減するイルカの戦略として知られており、本研究では飼育されているハンドウイルカを用いて、成獣間の隊列遊泳に関する詳細を報告し、その物理的特性を解明することを目的とした。
【実験方法】
名古屋港水族館で飼育されているハンドウイルカとカマイルカを対象に、目視観察とビデオ撮影を組み合わせて行った。隊列遊泳やその他の行動を撮影し、特定の条件下でのイルカの動きを詳細に記録した。さらに、北館メインプールでの実験では、異なる条件で撮影を行い、画像解析によって3D位置座標を算出し、遊泳速度や加速度などのパラメータを評価した。
【結果と考察】
本研究では、飼育ハンドウイルカの成獣が隊列遊泳を行う様子を観察した。個体間の距離や体サイズに関わらず、すべての個体が隊列遊泳に参加し、前後の位置を交代することが明らかになった。さらに、後ろの個体は尾ビレを振らずとも前の個体の加速度に連動して進むことが観察され、これは先行研究で報告されている母子間の行動と一致している。また、後ろの個体が前の個体の背側に位置することが多く、この位置関係が推進力を最大化する可能性があることが示唆された。
【総括】
本研究では、飼育ハンドウイルカを用いて成獣間の隊列遊泳に関する新たな洞察を得ることができた。今後の研究では、これらの結果を活かして水中ロボットの設計や制御に応用することが期待される。

図1,算出した8点のイルカの位置座標(X・Y軸の単位はcm).各座標の原点は第2章実験3のキャリブレーションに使用した画像のフレームの左下奥側.各色は図3-2-1と対応している.図では左上から右下へと移動した. 

図2,時間経過ごとの胸ビレの基部と進行方向に対する尾ビレの位置(cm;―)と0.5秒間の平均加速度(cm / s / s;●).紫が前の個体,黄色が後ろの個体を示している.黒い破線は進行方向に対する胸ビレの位置,黒い実線は加速度0 cm / s / sを示している.

2023-A-12
代表者 西川真理
農作物被害時期におけるヒヨドリ個体数の推定手法の比較

西川真理(和光大学)、持田浩治(長崎総合科学大学)

ヒヨドリは農作物に食害をもたらすため、有害鳥獣に指定されており駆除の対象になっている。しかしながら、ヒヨドリは森林生態系において主要な種子散布者であることが知られており、安易な駆除は生態系に影響を及ぼす可能性がある。本研究の調査地である鹿児島県屋久島では、ヒヨドリによる農作物(特に柑橘類)の食害が問題になっている。研究代表者らは、これまでに果樹園の多い南部集落と西部林道周辺において、ポイントセンサス法およびルートセンサス法によるヒヨドリの個体数調査によって、柑橘類への食害が始まる前の12月のデータから被害が発生する1月の集落でのヒヨドリ出現個体数を予測するモデルを構築してきた。本研究は、より簡易的な個体数調査法になりうる自動録音装置の有効性を検証することを目的としておこなった。2023年9月から自動録音装置を島内の7ヶ所に設置し、ヒヨドリ音声の定時記録をおこなった。また、9月、11月、12月、2月に自動録音装置設置場所の近くでルートセンサスによるヒヨドリ個体数調査を実施した。現在、自動録音装置で得られた音声データの解析を進めている。今後は、ルートセンサス法との比較検証をおこない、ヒヨドリ個体数を記録する簡易的な手法の確立を目指す。ルートセンサスによる調査から、ヒヨドリは屋久島に10月頃に飛来し、その後、島内を移動している可能性が示唆され、副次的な成果を得ることができた。

2023-A-13
代表者 山田研祐
飼育ハンドウイルカにおけるメタボリックシンドローム緩和治療に関する調査

山田研祐 オリックス水族館株式会社 京都水族館

2021年度から継続して、メタボリックシンドローム(以下、MetS)緩和策を行っている1頭の雄のハンドウイルカにおいてMetSの血液診断と超音波診断装置を用いたボディブラバー指数Body Blubber Index(以下、BBI)の測定を行った。また、京都水族館で餌として使用していて、前年度の研究においてヘプタデカン酸(以下、C17:0)の含有を確認している2魚種(サバ、タイセイヨウニシン)、過去にC17:0の含有が確認されなかった1魚種(シシャモ)、及び測定歴のない海獣用配合飼料(クッキングブラウニー)におけるC17:0の含有量を測定した。また、本年はC17:0との関連が疑われるパルミチン酸(以下、C16:0)とステアリン酸(以下、C18:0)の含有量測定を併せて行った。対象期間は血液検査が2023年3月~2023年8月、BBI測定は2023年3月~2024年1月とした。いずれの検査も1ヵ月に1回の頻度で実施した。
期間中に5回のMetS診断を行ったところ、血中インスリン値が正常範囲(食後2時間値:<11μIU/mL)であったことは2回、血中グルコース値については全ての結果で正常範囲(食後2時間値:>100mg/dL)を上回った。BBI・脂肪層厚の期間中の平均値は、共に昨年度の研究期間と比較して減少していた。C17:0含有量について、2021年度に含有が認められなかったシシャモにおいて少量ではあるが含有が確認された。また、クッキングブラウニーにおいても含有が確認された。タイセイヨウニシンの含有量が過去の数値と大きく変化はなく、サバにすいてはタイセイヨウニシンの4倍近くの含有が確認された。C16:0含有量についてはサバとタイセイヨウニシンで、C18:0含有量についてはサバで比較的多いことがわかった。C16:0・C17:0比はシシャモとタイセイヨウニシンで高く、C18:0・C17:0比はシシャモで高いことがわかった。

①メタボリックシンドローム診断結果

 ②BBI計測結果 

 ③魚種別各脂肪酸含有量 

2023-A-14
代表者 春日井隆
名古屋港に来遊するスナメリの周年変動

加古智哉(名古屋港水族館)、姉崎拓都(東海大学海洋学部)、柴田剛毅(東海大学海洋学部)、町田楓(東海大学海洋学部)、吉田弥生(東海大学海洋学部)、神田幸司(名古屋港水族館)、春日井隆(名古屋港水族館)

名古屋港に来遊するスナメリの周年調査において、本年度は来遊状況の把握と夜間行動の解明を目的として調査した。来遊状況については船舶による目視調査を継続することで、長期的な変動の把握を目指している。本年度の来遊は、春期(4~5月)が0.29頭/km、冬期(12~2月)が1.05頭/kmで、6月~11月は発見がなかった。1月の調査では過去最多の96頭を発見した。
夜間行動観察は岸壁から来遊の多い1-3月に6回行なった。噴気音やスナメリ由来と思われる水音が確認できたものの、姿を確認することは困難であった。暗視用双眼鏡を用いて捜索も試みたが、背鰭を欠いた形態、冬の夜に強くなる北風、工場や道路の光源の位置等複数の要因により行動の観察にはいたらなかった。日中の調査では摂餌行動が例年より多く観察され、特徴的な旋回遊泳により採餌していることや左旋回が多いこともわかった。本結果の一部は、本年度の卒業論文(東海大)としてまとめられている。

名古屋港内で魚を追いかけるスナメリ

2023-A-15
代表者 加来由津香
シワハイルカの社会行動と個体間関係に関する研究

加来由津香(近畿大学)、平松春香、稲森大樹(太地町立くじらの博物館)、酒井麻衣(近畿大学)

 2019年-2020年(第1期間)に撮られた映像と2023年6月(第2期間)、11月(第3期間)の観察から、飼育下のシワハイルカを対象に、同種および異種同居個体との間に起こるラビングおよび敵対的行動について調べた。第2・3期間では、同居個体の都合上シワハ1頭と異種の間の社会行動を観察した。1セッションを20から30分とし、合計70セッションの観察を行った。その結果、第1期間におけるラビングのエピソード数は、シワハ-異種(n=87)に比べシワハ同士(n=617)のペアで有意に多かった。また、ラビングの持続時間にも有意差があり、シワハ-異種でのペアが有意に長かった。シワハ-異種でのラビングは、全ての期間で、異種であるイルカの種によりエピソード数に差が見られた。敵対的行動はほとんど見られなかった。今回の結果から、シワハイルカが異種個体ともラビングを行うことが確認された。また、シワハイルカはラビングを行う相手に同種を選好することが示唆された。敵対的行動はラビングに比べ少なかったことから、今回の混群は飼育上の危険性はないと考えられる。

ラビングの様子

2023-A-16
代表者 山本啓人
カツオ産卵行動のマルチ・カメラシステムを用いた3次元モニタリング

山本啓人(近畿大学)、佐々木章(かごしま水族館)、漢那朝樹、光永靖、鳥澤眞介(近畿大学)

飼育条件下で発生したカツオの繁殖行動を画像解析した。カツオを含む浮性卵を産む種の多くは、複数のオスが1尾のメスを追尾して放卵・放精に至る。本研究の結果、複数のオスが追尾することは稀で、1尾のみによる追尾が大半であった。しかし、放精を確認できたケースは複数追尾の方で多かった。追尾数と先頭個体の体長との関係を見たところ、1尾のみに追尾される個体はおよそ40~70cmであった。一方、複数に追尾される個体は概ね50cm以上であった。また追尾数と先頭個体の遊泳速度との関係を見たところ、追尾数と遊泳速度に有意な正の相関があった。これらの成果を計5つの学会・シンポジウムにて発表した。さらなる解析によってカツオの繁殖戦略が解明されることを期待する。

追尾数と先頭個体の体長および遊泳速度との関係をそれぞれ示している

2023-A-17
代表者 髙橋 勇太
飼育下スローロリス類(Nycticebus spp.)の季節変化に 伴う代謝量と栄養要求量の変化

髙橋 勇太(静岡市立日本平動物園)、筈谷 友香(岐阜大学 応用生物科学部)、八代田 真人(岐阜大学 応用生物科学部)

 本研究では、静岡市立日本平動物園において飼育中のレッサースローロリスとスンダスローロリス各1頭を対象に環境温度と行動量、採食量、消化率および体重を測定し、その関連性を明らかにすることにより環境温度に応じた飼料設計をするための知見を得ることを目的とした。
 試験は2023年4月から2024年4月にかけて実施し、期間中の乾物給餌量は日本平動物園での慣行的給餌に基づき、スンダスローロリスで11.3 g/日、レッサースローロリスで8.4 g/日とした。体重は2023年4月より約1か月毎に測定した。また、採食量、消化率、行動量は4回(5、7、11、2月)測定した。
 飼育室内の温度はスンダスローロリスで6月、レッサースローロリスで4月より計測を開始した。いずれの飼育室でも、計測開始より8月中旬まで上昇後、9月下旬から下降した。 その後、スンダスローロリスの飼育室では10月中旬、レッサースローロリスの飼育室では11月中旬から温度変化がほぼ横ばいとなった。
 スンダスローロリスの体重は2023年7月~2024年1月にかけて大きく減少し、以降から4月にかけて緩やかに増加した。一方,レッサースローロリスの体重は2023年5月から2024年4月初旬にかけて減少した。
 行動量は、スンダスローロリスのactive な行動の割合は5月に多く,2月に最も少なくなった。一方、レッサースローロリスのactiveな行動は7月に最も多く,5月に最も少なかった.しかし、両種とも全計測期間でinactiveな行動が78%以上を占めた。
 5、7、11、12月の乾物摂取量はスンダスローロリスで8.5g、8.2g、11.1g、9.3g、レッサースローロリスで8.2g、5.1g、5.2g、7.3gとなり、いずれも7月に摂取量が低下した。また、乾物消化率は、スンダスローロリスで83.8%、86.7%、82.7%、85.2%、レッサースローロリスで85.2%、91.4%、87.3%、85.5%であった。
 以上からいずれのロリスにおいても夏場の高温による採食量への影響が認められた一方で、消化率や体重、行動量は環境温度の変化にともなう一貫した傾向は認められなかった。



スンダスローロリス(Nycticebus coucang)とレッサースローロリス(N.pygmaeus)の体重変化、スンダスローロリス(Nycticebus coucang)およびレッサースローロリス(N.pygmaeus)の1日の活動時間割合(%)

2023-A-18
代表者 柏木伸幸
ハンドウイルカの簡便な冷蔵、冷凍精液保存の確立(継続)

柏木伸幸(かごしま水族館)・大塚美加(かごしま水族館)・濵野剛久(かごしま水族館)・山本桂子(OMRC)・山形寛直(アクアパーク品川)・木村友美(アクアパーク品川)

昨年に引き続き、鯨類の人工授精(AI)技術の向上と普及に向けて、簡易的な手法を用いて冷凍保存した精液を使用したAIを試みた。2023年12月から2024年3月13日の間にかごしま水族館で計4回、オキナワマリンリサーチセンター(以下OMRC)で2回の計6回のAI(1回の排卵直前あるいは直後にそれぞれ1~3回精液を注入)を実施した。AIには2019年11月~2022年11月にかけて当館とOMRCで採取し、液体窒素容器を使用して-196℃で冷凍保存した精液を使用した。両施設で他施設の個体から採取した精液を使用する場合、液体窒素容器にて-196℃で保存後、ドライアイスを使用して-80℃で輸送し、輸送後に再度-196℃で保存した精液を使用した。かごしま水族館で行った4回のAIで注入した精液の生残率は49.75~78.75%(平均64.44%)、総生残精子数は44.78~81.17億個(平均64.53億個)であった。
より簡便なAI技術の開発を目的に、液状保存精液を使用した膣カテーテル法でのAIを実施した。精液は当館から宅配便と直接現地に持ち込む方法にて輸送し、アクアパーク品川のメス対象個体にカテーテルを用いて膣内に液状保存精液を注入した。
今年度は液状、冷凍精液合わせて7回のAIを実施し、3例(1例結果確認中)の受胎が確認できた。保存精液の輸送方法やAIの手技の改善が進んでいる。3例中2例は輸送の際に-80℃のドライアイスに移す方法でのAIによる受胎である。今回、昨年と合わせて3例目で本方法が輸送に有効であることが示唆された。またアクアパーク品川で液状保存精液を使用し、より簡易的なカテーテル法による受胎に成功した。今回の結果は本保存液をカテーテル法に使用した初めての受胎例である。

2023-A-19
代表者 Jackson Johnstone
Impact of red tide event (Karenia selliformis) on the benthic community and sea otter (Enhydra lutris) diet composition in Eastern Hokkaido and the Effect of kelp canopy composition and structure on sea otter feeding location distribution.

Jackson Johnstone, Natsuki Konno, Kyohei Murayama, Satsuki Ochiai (1- Hokkaido University, Graduate School of Environmental Science, Hakodate, Hokkaido, Japan) - Ippei Suzuki (2- Hokkaido University, Field Science Center for Northern Biosphere, Aquatic Research Station, Akkeshi Marine Station, Akkeshi, Hokkaido, Japan) - Yoko Mitani (3- Kyoto University, Wildlife Research Center, Kyoto, Kyoto, Japan)

In fall of 2021, a major red tide occurred along the coast of eastern Hokkaido, resulting in mass die-offs of many species, including sea urchins. One of the main goals of this research was to determine how this change impacted the benthic community at our research area, as well as to track what impact (if any) this would have on the dietary preferences of sea otters. After performing benthic organism dive surveys in 2022 and 2023, and comparing to a previous study from 2020, we could determine that the populations of sea urchins displayed a significant decline between 2020 and 2022. After performing focal feeding dive observation surveys of sea otters from 2020 through 2023, we were able to observe a decline in the percentage of feeding dives made up of sea urchins. However, due to sea urchins already not making up a majority of this population of sea otters' diets, the impact of this change was likely not as pronounced as it would have been in other areas. Prey selection for sea urchins (evaluated using a Manley-Chesson Index formula) did not show a change between 2020/2021 and 2023. We are also currently evaluating if marine plant canopy seasonal distribution and composition have an impact on sea otter feeding dive locations. I am currently in the data analysis portion of this research.


First Figure: Number (per m²) of major sea otter prey items: a (Sea Urchins), b (Chitons), c (Bivalves), d (Snails) retrieved during benthic quadrat surveys of 2020 and 2022. Error bars represent +1 SE. Brackets above the graph display a significant difference (p < 0.05) between two years.


Second Figure: Observed average proportion of major prey items: a (Sea Urchins), b (Chitons), c (Bivalves), d (Crabs), and e (Snails) per bout in the Sea Otter diets at Moyururi and Yururi Islands from 2020, 2021, and 2022. Error bars represent +1 SE. Brackets above the graph display a significant difference (p < 0.05) between two or more years. Credit: Johnstone et al. (Unpublished)

2023-A-20
代表者 Fay Taylor
Finding the Forgotten Frosted Myotis: Uncovering Ecology and Behaviour of an Endangered Species in Ashiu Forest, Japan

Fay Taylor (Kyoto University), Lina Koyama (Kyoto University)

During 2023, the main focus of the project was on gaining familiarity with the site and our target species, as well as trialling the methodology.
We conducted the first ever acoustic study for bats within Ashiu. Acoustic devices were set from May until November 2023 at 12 locations. Six sites were in conifer patches and six were in broadleaf patches. A grand total of 388, 213 recordings were collected, 203, 556 of which included bats. From trapping studies carried out in 2010, five bat species were confirmed in Ashiu. From the acoustics results from this study, we were able to confirm an additional five species to be present at the site (Table 1). It was also found that the species composition between conifer and broadleaf forest patches differed. Within broadleaf forest, there was more of a range of species, with Vespertilionidae with higher calls (e.g. Pipistrellus endoi, Miniopterus fuliginosus etc.) making up the largest proportion of calls identified. In contrast, within conifer forest, Vespertilionidae species with lower frequency calls (e.g. Nyctalus aviator, Vespertilio sinensis) were more dominant. Though we had issues with some microphones breaking and needing replacing, therefore, some sites were not monitored as much as some others during this period.
Throughout the field season, four trapping trips were conducted. We managed to capture three different species of bat during this time: Murina ussuriensis, Myotis pruinosus and Pipistrellus endoi. Following the capture of individuals, we recorded release calls which help contribute towards an Ashiu specific acoustic library which will in turn, assist with identifying calls from the acoustic data.
A large amount of insect samples have been collected for investigating M. pruinosus’ diet. However, every time we set up the insect traps, it rained heavily. We collected a lot of data but this will have had an impact, so we will continue in 2024.
Further trapping and acoustic data collection will continue throughout the 2024 season. We are also hoping to begin radio tracking to locate roost sites. As well as collect more faecal and DNA samples for dietary analysis and trialling eDNA as a monitoring method for bats.We will increase the trapping effort this season in the hope that we will capture more specimens of Myotis pruinosus.
Many thanks to all who assisted throughout the field season and with acoustic data analysis during the winter, both within the Biosphere Informatics Lab and further afield.


Table 1: A table detailing the species caught during 2010 by Fukui and Hill vs the species noted during analysis of the acoustic data.


Photograph 1: Photograph of the first Myotis pruinosus specimen caught during 2023.

2023-A-21
代表者 立山 優里子
獣舎内のアンモニア濃度が飼育下のチーターの行動と糞中コルチゾール濃度に及ぼす影響

立山優里子,中山侑,山本大河(千葉市動物公園)   井上英治(東邦大学)   平田聡 (京都大学・野生動物研究センター)

飼育動物の排泄物に由来するアンモニアガスは、動物の眼鼻や呼吸器に炎症を起こすなどの毒性をもつが、動物園動物ではアンモニア濃度の基準値や獣舎構造の規定がない。そこで本研究では尿でマーキングを行うチーターを対象に、獣舎内のアンモニア濃度の実態と、アンモニア濃度がチーターに及ぼす影響を調査した。予備調査では、通常時(コントロール)の獣舎内のアンモニア濃度の実態調査と濃度を低下させる方法の検討を行い、本調査では、メス2頭に対してアンモニア濃度が動物の糞中コルチゾール濃度と行動に及ぼす影響を調査した。その結果、獣舎内のアンモニア濃度は、朝の「放飼前」が最も高く、「清掃後」よりも夕方の「消灯前」に最も低くなった。また冬よりも夏に高くなることが明らかとなった。夏(6-9月)は高いアンモニア値(家畜の「飼養管理に関する技術的な指針」で定められている25 ppmを超える値)が検出される日もあり、獣舎内の温湿度条件が、アンモニアの揮発・拡散に影響した可能性が考えられた。また、夏季のアンモニア濃度を低下させる方法の検討では、コントロール、「換気量の増加」、「消臭材の設置」で比較しところ、換気量を増加させることで、平均アンモニア濃度を低下させることができた(コントロール:20.6±7.8ppm、換気量増加:12.0±2.0ppm、消臭材の設置:27.4±9.6ppm)。一方、アンモニア濃度の上昇がチーターに及ぼす影響のうち、糞中コルチゾールの結果は2頭中1頭においてアンモニア濃度と糞中コルチゾール濃度に正の相関がみられた(r = 0.80, df = 9, p = 0.003)。しかし、サンプル数を十分に確保できなかったことから、2024年度は測定期間および測定頭数を増加して再調査を行う予定である。また行動への影響については、夜間(16-9時)の行動を5分間隔で記録しており、休息行動への影響を現在解析中である。


2023-A-22
代表者 亀田 佳代子
鵜飼のウミウの遺伝的背景の解明

亀田佳代子(琵琶湖博物館)、北野 誉、古門裕貴(茨城大学理工学研究科)、村山美穂(京都大学・野生動物研究センター)

 本研究では、鵜飼に適したウミウの特性とその選抜過程や、飼育下のウミウの行動や生態に関する基礎情報として、鵜飼のウミウの遺伝的背景を明らかにした。当初の計画では、繁殖地の試料収集も行う予定だったが、2023年度は繁殖開始が早く、分析可能な試料を集めることができなかった。そのため、鵜捕り場での試料収集を進め、すでに得られている数年分のデータと合わせて性比と遺伝的多様性を検討した。
 性比については、鵜飼地へ輸送した32個体中4個体がメス(12.5%)で、前年度までの結果(17.5%, n=80、翌シーズンのおとりも含む)と同様オスがより多く輸送されていた。一方捕獲のためのおとりとなるウミウでは、6個体中5個体がメス(83.3%)で、過去のメス比率(92.9%, n=14)と同様高かった。2020年〜2023年の試料を使ってミトコンドリアDNAの系統解析を行ったところ、日立市を通過するウミウは、季節や年による変化はなく1つの集団から来ている可能性が高かった。また、カワウのミトコンドリアDNAをもつウミウが1個体確認され、その詳細解明のため核DNAの多様性についても今後調べる必要性が確認された。
 本研究では、今後の研究の発展のため、試料の検討や研究会開催による情報共有や議論の促進も行った。分析試料としては、羽柄(羽の根元部分)を使った遺伝解析手法を確立することができ、捕獲や採血による鳥への影響を軽減した分析が可能となった。研究会については、3月6日(水)14:00-17:00に琵琶湖博物館において『京都大学野生動物研究センター共同研究「鵜飼のウミウの遺伝的背景の解明」研究セミナー』というタイトルでハイブリッド開催を行った。ここでの質疑応答と情報交換により、ウミウ・カワウや鵜飼に関する興味深い知見を共有することができ、鵜飼研究者のネットワークを強化することができた。



「カタライ」と呼ばれる長良川鵜飼のペア 鵜捕り場のおとりのウミウ

2023-A-23
代表者 大島康平
海洋由来水銀を陸上生態系へ運ぶ「輸送者」としての海鳥の役割の解明

大島康平、庄子晶子、和田茂樹(筑波大学)、新妻靖章(名城大学)

海鳥の糞を介して運ばれた水銀が、繁殖地の生物群集へどのように波及しているかを解明することを目的とした。北海道天売島には約 80 万羽のウトウが生息しており、水銀ホットスポットが形成されると考えられる。海鳥の糞を介して運ばれた水銀は、植物の根で検出されることから、土壌や海鳥の死体、植物の根を食べる動物に水銀が波及すると予測した。
2023年に、天売島内のウトウの繁殖地 (繁殖区) と海鳥が⻑い間繁殖していないことが確認されている地点 (コントロール区) から、イネ科植物のノガリヤスや、 節足動物を採取した。採取した植物や昆虫類について、水銀濃度測定を行った。植物の根は繁殖地の方が高い水銀濃度を示したが (根:繁殖地 0.03±0.02 μg g-1 dw; 非繁殖地 0.01±0.004 μg g-1 dw; マン・ホイットニーの U 検定 p < 0.01)、葉はどちらも検出限界値以下だった。草食節足動物では水銀濃度にウトウの影響が見られなかったが、分解者(ワラジムシ類)、肉食節足動物(クモ類)などの一部の分類群では、繁殖地内の方が高い水銀濃度を示した (ワラジムシ:繁殖地 0.26 ± 0.03 μg g-1 dw; 非繁殖地 0.05 ± 0.02 μg g-1 dw, クモ類:繁殖地 1.18 ± 0.22 μg g-1 dw; 非繁殖地 0.26 ± 0.08 μg g-1 dw; マン・ホイットニーの U 検定 p < 0.01)。
植物の根や分解者、肉食節足動物において、海鳥が運ぶ水銀が検出されたことから、繁殖地の食物網へウトウが糞を介して持ち込む水銀が波及していることが示された。一方で、草食節足動物ではコントロール区と繁殖区で水銀濃度の差が見ら れなかったことから、節足動物への水銀の波及はそれぞれの食性や生活史に左右されると考えられる。

海鳥によってもたらされる水銀は、土壌や植物の根で検出され、植物の葉では検出さ れないことから、節足動物への水銀の波及は土壌や死体を食べるものには及ぶが(赤 矢印)、草食昆虫へは及ばないと予測された(⻘矢印)。

2023-A-24
代表者 北浦愛望
社会的文脈から見たシャチのコールの変異

北浦愛望(常磐大学大学院人間科学研究科)

シャチは母系社会をもち、コールと呼ばれる鳴音を主にコミュニケーションで用いる。特に、定型的なものをコールタイプと呼び、血縁関係のある群れ間で共有することが知られている。シャチの音響コミュニケーションの研究において野生下と飼育下を掛け合わせた研究例は少なく、鳴音と行動を結びつける試みにおいて詳細な行動や状況に関する情報は未だ乏しい。本研究では、シャチのコールと行動、個体間関係の観点から、コールに見られる変異が社会とどう関係しているかを明らかにすることを目的とした。
本研究は、野生下は羅臼沖に来遊する個体、飼育下は名古屋港水族館と鴨川シーワールドの個体を対象に鳴音録音と行動観察を行った。まず、野生下では、コールの発生頻度と群れ内の社会状態に着目したところ、個体が散って存在し、遊泳速度が速いときにコールの発生頻度が有意に高いことが示された(0.12 ± 0.18回/5分/頭)。また、群れの遊泳速度と密度について比較した結果、群れの密度がコールの発生に関係していることが明らかになった。よって、個体間の距離が大きいほどコールは発せられ、群れの維持に機能することが示唆された。
そして、飼育下では、コールの発音個体と行動状態に着目したところ、同じ施設内で共有されているコールタイプにおいて第一屈曲点周波数、継続時間にて個体ごとに音響特性が異なることが示唆された。これには各個体の身体発達や学習個体の違い、個体情報や情動情報の付与の可能性が考えられた。
以上より、シャチのコールは群れの維持に機能することと共有されるコールタイプの音響特性の違いは個体によることが示唆された。これらの結果から、安定した社会の中でもコールの変異には群れの情報だけでなく個体情報をもつ可能性が見いだせた。今後は、長期的モニタリング及び個体レベルのコミュニケーションを調べ、鳴音の再生実験によりどのような行動が見られるか等を調べる必要がある。

図1. 各群れ状態のコールの発生頻度を表している。縦軸はコールの発生頻度(回数/5分/頭数)を示す。群れ状態ごとで有意確率p<0.01の場合は*、p<0.001の場合は**を用いる。群れ状態はa: 密・速い、b: 密・遅い、c: 離・速い、d: 離・遅いの4つに分類した。群れ状態c、つまり個体が散在していて速度が速い状態においてコールの発生頻度が有意に高いことが分かる。

図2. 名古屋港水族館にて飼育されている個体間で共有されていたコールタイプ#06について各個体の音響特性値をまとめた箱ひげ図である。上段は周波数特性、下段は時間的特性と変曲点数である。上段は縦軸が周波数(Hz)、下段の時間的特性は縦軸が時間(s)、変曲点数は個数(個)を表す。また、各音響特性にて有意確率p<0.01の場合は*、p<0.001の場合は**で表す。第一屈曲点周波数と継続時間にて一部個体間で有意差があることが分かる。

2023-A-25
代表者 中陳遥香
海棲哺乳類のテロメア長および変化量とその要因に関 する研究

中陳遥香(京都大学大学院農学研究科)、木村里子(京都大学東南アジア地域研究研究所)、水谷友一(名古屋大学大学院環境学研究科)、神田浩司・神尾高志(名古屋港水族館)、山田硏祐・鳥山理恵子(京都水族館)、伊東隆臣(海遊館)、若林郁夫・曽根崎紗夜(鳥羽水族館)、新妻靖章(名城大学)

海棲哺乳類は、多くの水族館で飼育されるが、アニマルウェルフェアの観点から飼育環境によって被る慢性的なストレスが課題視される。本研究で着目したテロメアは、染色体の末端に存在する特定の塩基の反復配列(TTAGGG)nであり、近年生息環境や繁殖、病気といった慢性ストレスの指標として注目される。しかし、海棲哺乳類のテロメアに関する知見は少なく、121種のうち9 種しかテロメア長が測定されていない。そこで本研究では、飼育下海棲哺乳類を対象とし、1.鯨類6種および鰭脚類6種のテロメア長を把握すること、2.バンドウイルカ Tursiops truncatus において、個体のテロメア長を約2年にわたり継続的に測定し、テロメア長に影響を与える要因を検討することを目的とした。
鯨類6種、鰭脚類6種計42個体すべてにおいて、サザンブロット―ハイブリダイゼーション法(以下サザンブロット法)によってテロメア長を検出、測定することが出来た。先行研究では大型で寿命の長い哺乳類のテロメア長は20kbより短いという傾向が見られており、本研究の結果と一致した。バンドウイルカ16個体においてqPCR方により継続的にテロメア長を測定した結果、3回以上テロメア長を測定したすべての個体においてテロメア長の短縮と伸長がどちらも確認された。統計解析の結果、個体情報や飼育環境はいずれもテロメア長変化量に有意に影響しないと考えられた(GLM, すべてp>0.05)。このことから、バンドウイルカにとって飼育環境や繁殖、病気はストレスでないか、もしくはストレスであるが、テロメア長を修復させる機構が発達しており、約2年以内の期間においてこれらがテロメア長に影響しないことが示唆された。

2023-A-26
代表者 稲本 俊太
ウミネコの採食行動における性差と年変動

稲本俊太 早稲田大学人間科学研究科

分布や餌における性差は様々な動物分類群において観察される。ウミネコLarus crassirostrisにおいても採餌行動に性差が明らかになっており、性別間競争的排除仮説(以降、競争仮説)性別間の栄養要求の違い(以降、栄養仮説)が相互に排他的でない関係で性差に影響を与えている可能性がある。本研究では抱卵期における採餌行動の性差をGPSと食性分析を用いて北海道利尻島で5年間、枝幸町で3年間継続的に調査することで、競争仮説と栄養仮説がどのような環境下で性差を引き起こすかを明らかにする。結果として栄養仮説による性差はオキアミThysanessa inermisが利用可能な年に生じた。さらに栄養仮説と競争仮説によって同時に性差が引き起こされる場合もあった。また競争仮説による性差は餌が豊富で競争圧が低い場所では起こらないが競争圧がある場合には栄養仮説よりも一貫して性差を引き起こす可能性がある。

2023-A-27
代表者 角田史也
ヤクシマザルの花蜜食行動がヤブツバキの繁殖に与える影響

角田史也(京都大学)、福田澪李(東京農業大学)、亀田果夏(東京都市大学)、金原蓮太朗(京都大学)、仲渡千宙(広島大学)、佐竹まどか(宇都宮大学)、手塚詩織(東京農工大学)、半谷吾郎(京都大学)

 2024年1月25日から3月23日まで屋久島の西部林道と、大川林道終点、永田集落の3ヶ所で調査をした。
 ヤブツバキのフェノロジー調査、林床に落下した花の観察、蕾の追跡調査、開花木での定点観察とカメラトラップ調査、ヤクシマザルの追跡調査を実施した。フェノロジー調査では樹上の蕾と花を、開花段階ごとに分類して数を数えた。林床に落下した花の観察では、花を自然落下・食痕・花弁・子房の4区分に分類し、各調査域でヤブツバキの花がヤクシマザルによる食害を受けた割合を調べた。開花木での定点観察では、開花したヤブツバキに訪れた動物の種・個体数・滞在時間・吸蜜した花の数・破壊した花の数を記録した。カメラトラップ調査では、開花木の幹が写るように赤外線センサーカメラを設置し、ヤクシマザルの訪問頻度を調べた。ヤクシマザルの追跡調査では、ヤクシマザルがヤブツバキの花蜜を採食する様子をビデオカメラで撮影した。
 ヤブツバキの開花フェノロジーについて、大川林道終点よりも西部林道と永田集落で早く進んでいることがわかった。ヤクシマザルによるヤブツバキの食痕は永田集落では見つからず、大川林道で西部林道よりも高い割合で見つかった。これらの研究成果について、2024年7月の日本霊長類学会で発表する予定である。

ヤクシマザルによるヤブツバキの花蜜の食痕

2023-A-28
代表者 小澤光莉
東北地域における海鳥を利用した重要海域の推定

小澤光莉(東洋大学大学院)、伊藤元研(東洋大学大学院)

宮城県足島は新型コロナウイルスの影響により調査を実施出来なかった。そのため、当初予定していた青森県むつ市鯛島での調査でのみ調査を実施した。帰巣時に餌をくわえたウトウを捕獲し、テサテープ(防水テープ)と瞬間接着剤を用いてGPSロガーを背中に装着した。速度によって採餌と推定された位置データを用いてカーネル密度推定を行い、重要海域(UD50%)と潜在的な利用海域(UD95%)を推定した。
鯛島で繁殖するウトウの採餌場所は、育雛期においては陸奥湾内とその湾口部、また渡島半島東部沿岸(恵山周辺)であり、陸奥湾内とその湾口部、また恵山周辺が重要海域、陸奥湾から噴火湾までが育雛期における潜在的な利用海域であると推定された。この時ウトウはSST約15℃、Chl a濃度が約0.5 mg/m3、繁殖地から約40 km以上離れた場所で採餌を行う可能性が高かった。このSSTは、ウトウの繁殖に重要なカタクチイワシの好適水温(SST 12-15℃)に近く、カタクチイワシを採餌するために選択したと考えられた。繁殖終了後におけるウトウの採餌場所は、育雛期より広域であり、津軽海峡西部や噴火湾内での採餌も確認された。重要海域は恵山周辺と噴火湾湾口部であった。恵山周辺の海洋環境は、津軽暖流-親潮の海洋フロント、渡島半島東部の沿岸湧昇、津軽暖流の反転流が存在しており、これにより高い生産性を有し、ウトウにとって餌獲得可能性の高い環境が形成されていると考えられた。
育雛期および繁殖終了後における重要海域は、現在環境省によって定められているEBSAの海域と乖離しており、特に陸奥湾内において顕著であった。また陸奥湾東部は、環境省の洋上風力発電における事業実施想定区域と対象事業実施区域に指定されている。鯛島で繁殖するウトウは、育雛期において陸奥湾に強く依存しており、洋上風力発電による潜在的なリスクが極めて高いと考えられた。



育雛期および繁殖終了後におけるウトウの採餌場所と現在のEBSA。重要海域と潜在的な利用海域を濃淡、EBSAを青、繁殖地を星印で示す。

2023-A-29
代表者 小川真由
船舶の航行頻度が小型鯨類スナメリの長期的来遊に与える影響評価

小川真由 (京都大学)

近年、航行船舶によって発生する人為音が海洋生物に与える影響について懸念されており、海洋騒音問題として注目されている。特に、周囲環境の認知やコミュニケーションに音を用いる小型鯨類に多大な影響があると指摘されている。日本において、人間活動が活発な沿岸域には小型鯨類の一種であるスナメリが生息している。本種は絶滅危惧種に指定されているにもかかわらず、騒音影響評価は行われていなかった。そこで、本研究の目的は、船舶航行によって日本沿岸域に生息するスナメリの分布が変化するか明らかにすることとした。本助成金にて支援を受けた2023年度を含め、2013年から2023年までにわたって受動的音響モニタリングを実施した。2023年の観測は2023年4月から2024年3月にわたって実施した。収録した合計4,194日分の音響データを、解析労力、時間を削減して解析を行うため、機械学習によるスナメリの鳴音検出器の開発を行った。結果、88.6%の精度でスナメリの鳴音とスナメリの摂餌指標音ならびにコミュニケーション音、それ以外の音を分類できる検出器を開発できた。開発した鳴音検出器を用いて音響データを解析し、約400万もの鳴音を検出した。船舶音についても同様に検出器を開発し、89.3%の検出精度に達し、約10万もの船舶音を検出した。一般化加法モデルを使用して、スナメリの検出が船舶音を含む環境変数によってどのような影響を受けているかモデル化したところ、スナメリの分布は、船舶音数による負の影響を受けている可能性は低かった。以上のことより、本館測域におけるスナメリは、分布が変動するほどの船舶による影響が発生している可能性は低いことがわかった。しかし、短期的な影響が生じている可能性や、船舶の種類が変化すれば影響を受ける可能性も考えられるため、継続的なモニタリングが必要である。

2023-A-30
代表者 Jaock Kim
How the presence and support of a mother affects her daughter’s reproductive success in Japanese monkeys

Jaock Kim (Graduate School of Science, Kyoto University)

The above study was conducted to write a master's thesis. Originally, it was planned to investigate whether the mother's presence affects the daughter's reproductive success, but the subject was changed because it was judged that it was difficult to investigate in a short period.
The changed subject title is 'There is a difference in grooming in both genders of Japanese monkeys dependent on estrous, age, social domination, tenure, and operative sex ratio'. I investigated whether there was a difference in grooming that occurred during or for 10 minutes before and after the monkey's series mount depending on the mating partner. Since it is before the data analysis, I will briefly write about the observation impression.
First of all, mate guard males mainly groom females who are mate guards, but the possibility of receiving grooming is rare. However, sometimes they receive grooming from females toward the end of the female's estrus. Females in the early or late stages of estrus received less grooming than at the peak of estrus and were mainly groomed males. Females were mainly groomed when mating with males younger (males estimated to have a term of 7-8 years or longer) or non-troop males than the three males with high ranks (individuals with a tenure of more than 5 years).
Other results will be written in the master's thesis after going through the analysis process.

2023-A-31
代表者 村山恭平
仮想市場評価法による北海道東部沿岸のラッコが地域 経済にもたらす便益推定

村山恭平(北海道大学大学院環境科学院生物圏科学専攻),三谷曜子(京都大学野生動物研究センター)

 本研究では,ラッコ(Enhydra lutris) が再定着しつつある北海道東部沿岸の霧多布岬に着目した.本研究では,ラッコとの共存策立案と実施に向けた合意形成への寄与を目指し,地域の利活用と保全に携わるSHへの聞き取り調査,及び観光客へのアンケート調査によるラッコに対する価値観の可視化を実施した.
 地域内のSHは,ラッコを活用し,地域の魅力発信や自然に関する啓発活動を行うという将来像を持っていた.その中で,オーバーツーリズムやラッコへのハラスメント防止のための情報発信手段の検討など,様々な課題を挙げていたが,同時に,漁業者からの反発が発生することを懸念していた.特に,民間のSHはその傾向が強く,公的な機関である町役場に旗振り役としての役割を期待していた.町役場自身も,漁業者からの反発が発生する可能性を憂慮しており,公式ゆるキャラを用いた地域内の融和政策を実行しているが,人員不足や通常業務の兼ね合いもあり,そのほかの取り組みには手が回っていないという状況である.
 観光客へのアンケートについては,合計494 組の回答を得た.i) 双眼鏡の貸出しによるラッコ観察のための環境整備 ,ii) ラッコの生態に関する情報発信の拡充,iii) 漁業者に対する金銭支援 ,iv)ラッコに対するハラスメント防止のための取組み,v) 野生生物に関する啓発・教育担い手の育成に対する賛否については,いずれの設問についても「そう思う」「とてもそう思う」の割合が高く,ラッコの利用と保全に対する観光客の関心の高さが明示された明らかになった.また,支払意思額はv) 野生生物に関する啓発・教育担い手の育成が最も高かった.このことから,観光客は,ラッコを保全すべき象徴的な存在「環境アイコン」として認識しており,ラッコの利用と保全の循環を目指す取り組みにおいても協力的な態度を示す可能性が高い.

2023-A-32
代表者 池田 岳弘
ドローン映像における小型鯨類スナメリの撮影可能深度の検証

池田岳弘(京都大学大学院農学研究科), 木村里子(京都大学東南アジア地域研究研究所), 小川真由(京都大学大学院農学研究科, 海洋研究開発機構)

小型鯨類であるスナメリはアジア沿岸域に広く分布し、日本近海においても浅い沿岸に分布する。群れが小さく、小型で背びれがないことから、スナメリの目視調査は容易ではなく、行動観察が困難であった。近年、動物の調査にドローンが活用されるようになった。先行研究によって、スナメリにおいてもドローンを用いて行動を観察できることが示された。しかし、どの程度の水深にいるスナメリを観察できるかは検証されていなかった。本研究では、スナメリ色の透明度板「スナメリ板」を作成して海上で垂下してドローンで撮影し、ドローンによるスナメリの撮影可能水深を明らかにすることを目的とした。検証の結果、日によって変化する透明度のー50cm程度までスナメリを観察できることがわかった。

透明度板とラッカーで作成したスナメリ板。

2023-A-33
代表者 石徹白ほのか
ハシビロコウの繫殖成功にむけた調査ー個体間関係および営巣行動ー

石徹白ほのか(北里大学大学院)、小倉匡俊(北里大学)、井門彩織(目白大学)、楠田哲士(岐阜大学)、濱崎風亜(岐阜大学)、城みさき(千葉市動物公園)、鈴木祐太(千葉市動物公園)、水上恭男(千葉市動物公園)、髙橋宏之(千葉市動物公園)

動物園飼育下での繁殖成功が極めて少ないハシビロコウにおいて、繁殖阻害要因の解明にむけ、①日本の飼育下における繁殖期および繁殖に適した環境の明確化、②有効なペアリング手法の検討を目的に千葉市動物公園のメス1個体、オス1個体を対象に行動観察をおこなった。調査は2021年11月13日から年間を通しておこない、社会行動として行動をむけた対象とともに親和(クラッタリング・おじぎ)、敵対(攻撃・威嚇)と営巣行動の記録をおこなった。また各個体の糞中性ステロイドホルモン代謝物濃度動態と気象データとあわせて検討をおこなった。展示条件は通常展示時、雌雄の展示場入替え、個体間の物理的距離接近の3つであった。
 本調査により得られた行動データをもとに、観察1時間あたりの行動回数に換算(1日の行動回数/観察時間)し、個体ごとに月間で比較をおこなった。結果は次の通りである。目的①では5月から10月にかけて行動回数(親和・営巣)の増加がみられ、日本における繁殖期であることが示唆された。しかし親和行動をむけた対象で分けると、同種個体ではなく飼育員に対してと全体の回数の動態が一致し、同種個体に対する敵対行動に変動がみられなかったことから、個体間関係の変化はなかった。またオスにおいて特に糞中性ステロイドホルモン代謝物濃度、降水量、行動の動態の一致がみられた。目的②では、通常展示時と比較すると、展示場入替え、物理的距離接近のどちらも飼育員に対しての親和行動が多く、同種個体に対する敵対行動が変動しなかったことから、個体間関係の変化は得られなかった。しかし物理的距離接近時に同種個体に対するおじぎが発現したことから、個体間関係改善に効果があり、ペアリングの前段階として有効な取り組みであると言える。
 共同利用・研究費からは、現地調査時に利用していた宿泊施設の施設利用費のうち、6月2日から6月15日までの14日間分について助成を支出した。



月におけるクラッタリング行動回数の比較、糞中性ステロイドホルモン代謝物濃度動態(岐阜大学応用生物科学部動物繫殖学研究室提供)

2023-B-01
代表者 栗原洋介
ニホンザルの昆虫食が枯死木分解にあたえる影響

栗原洋介(静岡大学)

本研究の目的は、ニホンザルが枯死木分解にあたえるインパクトを定量することである。本年度は、屋久島・西部林道において主に枯死木分解実験の継続および昆虫群集の調査を行った。2019 年以降、屋久島・西部林道沿いに設置した枯死木調査プロット 5 箇所において、サル排除実験を継続している。対象の材を複数個に分割し、一方はそのまま放置、他方はサルが破壊できないようにネットで覆った。定期的に材の写真撮影を行い 3D モデルを作成することで、材の表面積・体積のデータを蓄積している。また、自動撮影カメラを用いて動物の訪問および枯死木とのコンタクトを調べている。サルはすべての材を訪問し、そのまま放置した材がサルによって大きく破壊された。さらに、枯死木依存性昆虫群集の調査を行った。ニホンザルにより破壊されやすい材に生息する昆虫の情報を得るために、枯死木のサイズ、腐朽タイプ、腐朽度、種名などを記録したうえで、材をくずし、内部や周辺に生息する昆虫の種と個体数を記録した。各種数個体を採集し、エタノールまたはプロピレングリコールで保存した。来年度以降も、同様の調査を継続して実施する予定である。

2023-B-02
代表者 栗田博之
野猿公園で活用できるニホンザル妊娠有無判定方法の確立

栗田博之(大分市教育委員会文化財課)

 野猿公園で活用できるニホンザル妊娠有無判定方法の確立を究極的な目的として、「毛換り(古い毛が抜け、新しい毛に置き換わる現象)の開始」に着目した方法の有効性を検証するため、大分県大分市の高崎山餌付けニホンザル群で得られた知見の追試を宮崎県串間市の幸島餌付けニホンザル群で行った。
 高崎山群で得られ、幸島群で追試した知見は、「複数の部位で同時に毛換りが始まる個体もあったが、どの個体も最初に毛換りが起こる部位には『頭部』か『左前肢』か『右前肢』が含まれていた」、である。
 幸島主群(2023年5月時点で38個体)で、2018年以前に出生した雌19個体を対象として、2023年6月16〜17日、同年7月18日~19日、同年8月20日の3時期に、高崎山群と同じく、体を頭部、背部、胸腹部、左前肢、右前肢、左後肢、右後肢の7部位に分け、毛換りの進行状況を5段階で評価を行い、高崎山群で得られた上記の知見が幸島群でも認められるか検証した。
 その結果、3時期を通じて、どの部位も毛換りの開始が認められなかった個体が4個体であり、それらは19個体の中で最も高齢の2個体(19才と17才)と2023年の出産4個体のうちの2個体であった。一方、1部位以上で開始が認められた個体が15個体で、そのうち最初に開始が認められた部位に、頭部、左前肢、右前肢のいずれかが含まれていた個体は14個体であり、残りの1個体(10才、2023年に出産)は右後肢と左後肢で最初に開始が認められた。
 以上から、15個体中14個体(93%)で高崎山群において得られた知見が幸島群においても確認された。一方で、高齢個体では毛換りの開始が遅れるのか、後肢からの毛換り開始が認められた1個体をどう評価すべきかについては、今後の課題である。

個体名「タネ」頭部と右前肢等で毛換りが始まっている、栗田博之

2023-B-03
代表者 舟川一穂
安定同位体比を用いた、ニホンザル野生群における個体レベルでの食性解析

舟川一穂(京都大学生態学研究センター)

本研究では年齢や性別などが既知であるニホンザル幸島個体群に対して、安定同位体比分析を用いた食性解析を行うことで、個体スケールでの食性を定量的に明らかにすることを目的としている。また群れ内・群れ間・はぐれオス個体同士の食性の比較も同時に行うことで、幸島内での食性に関するニッチ分化や種内競争も明らかにすることを試みた。
2021年度からの継続調査により、3年間でそれぞれ20個体、38個体、42個体の体毛試料の採取を行い、炭素・窒素・硫黄安定同位体比分析を用いた食性解析を各個体に対して行った。
その結果、ニホンザル幸島個体群は森林由来の食物資源だけでなく、餌付け由来の小麦や貝類などの海産由来の食物資源を組み合わせて採食していることが分析的に示された。そして幸島におけるもっとも主要な群れである幸島主群において、これらの食物資源の摂取割合が性別によって明確に異なり、オスは海産由来の資源に対する選好性が、メスは餌付け由来の資源に対する選好性が高いという群れ内での食性変動が示された。一方で幸島におけるもう一つの群れであるマキ群やはぐれオス個体間においては、食性の変動は小さく、似たような資源を利用していることが示された。このことから幸島という限定された環境における資源利用に対して、群れ内での変動として表れる群内競争と、群れ間での変動として表れる群間競争のいずれもが分析された。今後も継続して研究を行うことで、環境条件や社会条件が変動することで、個体の食性がどのような影響を受けるか継続的に分析を行いたい。

2023-B-04
代表者 井上漱太
ドローンを用いた空撮動画からニホンザルの視線を追跡する

Inoue S. (Institute for advanced research, Nagoya University )

本年度はニホンザルの視野を推定するために、新奇物を個体の周囲に投擲し、その物体を注視する過程をドローンによって空撮動画として記録した。実験は3日間で複数個体を対象に合計150回ほど行った。顔を動かし物体を注視する様子を記録することができた。

2023-B-05
代表者 狩野文浩
コンピュータビジョンを用いたカラスの3次元姿勢情報の推定

狩野文浩(コンスタンツ大学)Alex Chan(コンスタンツ大学)、板原彰浩(野生)

熊本サンクチュアリ付近のカラス行動認知研究施設において、カラスの姿勢をマーカーをつけることなしにトラッキングする手法をこころみた。既存のモーションキャプチャシステムに加えて4台のRGBカメラを設置し、カラスの行動をモーションキャプチャシステムとRGBで同時撮影することによって、モーションキャプチャシステムから構成された姿勢情報をコンピュータビジョンにおける訓練データとして利用し、その結果としてコンピュータビジョンのみによる姿勢情報の推定を目指した。今年度は、このようなデザインでデータを得ることができ、マーカーなしでの追跡も良い精度で可能であることを確認した。現在データをさらに分析中である。

2023-B-06
代表者 李怜柱
野生ウマの社会で母ウマの社会関係が仔ウマの社会性に及ぼす影響

李怜柱(野生動物研究センター)

 岬馬(Equus ferus caballus)は宮崎県都井岬で放牧されていた馬が野生化した在来馬で現在約100頭が生息している。主に小松ヶ丘と扇山、二つのエリアに分けて分布し、自由に群れを構成して繁殖している。調査対象は一夫多妻グループの中で母ウマと仔ウマが一緒にいる群れで、特に扇山エリアの一部の親子たち(4ペア)は二つの群れ間を移動する傾向が見えていた。2021-2022年の繁殖期の追跡調査で群れの集まりや各個体の3次元位置情報をドローンデータのGeoreferencingで獲得してより高精度の個体間距離を算出した。また2021年生まれの仔ウマに加えて2022・2023年生まれの仔ウマたちも調査対象に含められた。
 親子が群れの中でどのように社会関係を築くか検討するために、 母ウマと仔ウマの最近接距離にいた個体たち・最近接だった頻度をもとに作成されたEgo-centric networkで各個体が持つネットワーク密度、出次数中心性、 ジニ係数を算出した。この指標たちは親子間で全般的に類似した様相を見せる一方で、2022年まで当エリアに残った親子3ペアでは2021年から2022年への変化の程度には指標ごとに違いがあり、特に社会的絆の強さの分布における不均等さを表すジニ係数で変化が大きく見られた(図1)。ネットワークでの中心性も含めこのような変化が一番大きかった親子ペア35は2022年に行った移籍の影響が考えられる。
 また2021年生まれの仔ウマと2022年生まれの仔ウマが見せる社会的絆の分布をジニ係数で比較した(Welch‘s test)結果 、2021年生まれ仔ウマが翌年にジニ係数が減少する(絆の強さ分布がより均等)傾向および2022年生まれ 仔ウマたちよりジニ係数が低い傾向はあるものの、統計的に有意な違いは見られなかった(図2)。これは限られたサンプル数もあるため、他エリアも含めて追加分析を予定している。
 2023年には当エリアで成熟オスの死亡などで群れの変動がある中、2023年生まれ仔ウマはジニ係数が前年生まれの個体たちに比べて低く、2021・2022生まれの仔ウマでは全般的に減少する様相であった。


2023-B-07
代表者 PIAO YIGE
Investigation of social learning mechanisms in bonobos and chimpanzees: comparative cognitive study on social intelligence underpinning culture

YIGE PIAO (Wildlife Research Center, Kyoto Univ), Shinya Yamamoto (Kyoto Univ)

The current study aimed to investigate the mechanisms of observation during the social learning of tool-use in chimpanzees and bonobos, so as to better understand the cultural phenomenon and the social intelligence that underpins these phenomena in great apes. The study was conducted at Kumamoto Sanctuary of Kyoto University, where 19 chimpanzees and 6 bonobos that have participated in the two experiments are housed. In particular, I studied how chimpanzees and bonobos allocated their visual attention when observing the demonstration of alternate ways of using the same tool in a simple task (i.e. using the tube to dip or suck the juice) and whether their attention shifted during the social learning of the two techniques. Results indicated that low attention to human actions which are not (initially) understood may explain failures to socially learn from humans in past studies, despite the abundant report of conspecific social learning. Given that the life-history of captive apes involves a significant amount of opaque human tool-use, participants may be unmotivated to attend closely to human demonstrations. This study emphasizes the importance of detailed investigation using eye-tracking technique and conspecific models for future studies on the social learning of animals. The manuscript of this study is under preparation and hopefully will be published in 2024. And I studied the social learning process of a more complex tool-using task when chimpanzees had access to different presentation of visual information and social models. These studies could indicate what chimpanzees pay attention to and how the visual information and observed models would influence their understanding of and ability to execute tool-using behaviors. Current results showed that all 13 chimpanzees failed to obtain the peanut in both individual and social contexts when having no models to display the solution. The subjects only used their fingers and some sticks trying to manipulate the device, but they showed significantly less manipulation as tests went on. In the presence of human models, subjects still failed to obtain the peanut as they did not learn to use water at the first step. Compared with the baseline phase, they generally tried more to insert the sticks in the opaque device condition of the human model phase, but they later showed less stick-inserting in the transparent condition. Whereas human models displayed the function of pouring water, all subjects failed in learning this step, which might manifest the importance of observing the same action form. The last phase of this study (conspecific model phase) will be completed in this summer. The results of the following conspecific model phase would help to further illuminate the influence of the model on the learning process. Data analysis and manuscript writing will be completed in this year.


Experimental setup of the eye-tracking study and the social learning study

2023-B-08
代表者 James Brooks
Collaborative research on great ape group-mindedness

Brooks J (Institute for Advanced Study, Kyoto Univ)

In this research, we successfully developed a new collaborative, group-based rope-pulling task for great apes. We ran the study for 26 sessions with 50 trials in each session, and could see chimpanzees cooperate and compete around a low-cost but non-monopolizable resource. The findings are still being analyzed, but will indicate which strategies chimpanzees use to decide which individuals will and will not commit a small personal cost to ensure the availability of a group-serving benefit. The data will also be used to analyze the impact of social relationships and presence of close friends, the role of dominance, and whether pulling performance affects the subsequent food allocation distribution.
In addition to the main cooperation experiment, methods were developed to employ eye-tracking in outdoor enclosures and thus removing the constraint of caretaker time and availability. 6 chimpanzees and 6 bonobos are able to watch video stimuli while drinking juice as their gaze is measured by an eye-tracker. This method has shown strong scientific value in many past studies, and can now be employed more easily to the KS population.
Finally, observation protocols were further developed, especially with the design of a system to automatically record the whole days of outdoor chimpanzees. With GoPros and a custom apparatus, cameras can be mounted on the roof or wall of most chimpanzee and bonobo enclosures, allowing recordings that go through the mesh and therefore are not blocked, and to capture a full day resolution without manual effort. The goal will be to further develop this system to reduce manpower needed for video retrieval and storage.

2023-B-09
代表者 MAJEWSKI Maria Katherine
Latrine surveys and monitoring for predation and disease spread by invasive raccoon dogs (Nyctereutes procyonoides) on Yakushima island

Majewski K (Wildlife Research Center, Kyoto Univ), Keuk K (WRC), MacIntosh A (WRC)

This study is a continuation on the investigation of the impacts of invasive raccoon dogs on native species in the area, with a focus on the population dynamics of raccoon dogs in Seiburindo forest, dietary overlap between the raccoon dogs and the endemic weasel subspecies, predation of rare and endangered species in Seiburindo and the Inakahama regions, and parasites associated with this invasive species. We conducted two field seasons in Yakushima during fiscal year 2023: (1) June/July, (2) November/December. By summer 2023, we had identified a total of 108 latrines between the Seiburindo and Inakahama regions. During summer, we collected 28 (Inakahama) and 33 (Seiburindo) fecal samples from the latrines, increasing our two year total to over 400. We also collected 23 samples containing dung beetles (family: Scarabaeidae) from latrines in the Hanyama region of Seiburindo for DNA analysis to identify the presence of the nematode parasite Gongylonema sp. to further understand the role latrines play as transmission sites for parasites. We set ten wire cage traps in the Seiburindo region to trap live tanuki for collaring and biological sampling. In summer 2023, no tanuki were successfully trapped. We also deployed camera traps on some cage traps to record habituation to cages and reactions of tanuki to different bait types and trap covers. Some camera traps were also deployed at latrines in the Inakahama region to observe tanuki activity and interactions between native fauna and the latrine sites. In November and December 2023, we again deployed cage traps and camera traps to monitor them. We successfully trapped two individual tanuki, likely a male and female pair, during December 2023, and collected biological samples from them (blood, hair, saliva, rectal swabs). Unfortunately, these tanuki were too small to deploy our GPS collars. The same two tanuki were trapped on multiple nights over a 15 day period, but released without further processing after the first catch event. We continue to analyze samples in the molecular and parasitology laboratories, to uncover diversity in the diet of tanuki on Yakushima, diversity in the parasites that infect them, and relationships between diet, infection and patterns of latrine use.

Figure 1. (left) Kenneth Keuk taking the temperature of an anesthetized tanuki on Yakushima Island. (right) An invasive tanuki in a wire cage trap before release.

2023-B-10
代表者 林亮太
屋久島に産卵にやってくるアカウミガメ等に付着する生物の多様性調査

林亮太(日本工営株式会社)

永田集落の砂浜に産卵上陸するウミガメ類に付着する生物相の調査を実施した。フジツボ類を中心に、タナイス、ヨコエビ類、貝形虫などが採集された。特にヨコエビ類には未記載種が複数種含まれ、現在新種記載に向けて標本の作製とバーコード領域の分子西部学実験を行っている最中である。データがそろい次第、新種記載論文として査読付き英文学術誌に投稿予定である。
また、これまでの長年の調査で得られた屋久島に産卵上陸するアオウミガメを対象とした集団遺伝学的解析も行っており、その成果はHamabata et al., 2024 (Frontiers in Ecology and Evolution)に掲載された。


アカウミガメ背甲から採集された未記載のヨコエビ類(林亮太)

2023-B-11
代表者 金原蓮太朗
密度効果によるニホンザル個体数調節メカニズム検証の予備調査

金原蓮太朗 (京大・野生研), 半谷吾郎 (京大・生態研), 角田史也 (京大・生態研), 南川未来 (京大・生態研) , Muhammad Nur Fitri Suhaim (京都大学・生態研), Evan Miller (University of Texas at San Antonio)

ニホンザルは多様な地域に生息し、下北半島のように個体群が増加している地域もあれば屋久島海岸部のように比較的個体群が安定している地域もあり、個体群動態には地域差が見られる。このように地域差が見られる理由として、密度効果の強度に地域差があるからだと考えられる。すなわち、密度が高くなるほど個体間の資源競争が激しくなり個体数増加に歯止めがかかる密度効果が個体群動態の制約要因となっているが、この強度に地域差があるということである。この仮説が正しいとすれば、高密度な地域では資源をめぐる個体間の競争がより強まっている可能性が示唆される。そこで、本研究では、屋久島とより高密度な幸島を比較し、高密度であることが資源の減少速度や個体の競争関係に影響を及ぼすか、検証することを目標とした。2023年6月18日から6月21日にかけて幸島観察所に宿泊し、19,20日に幸島において野外調査を行った。19日は幸島のニホンザルの生息密度の高さが植物に対する採食圧を強めているという可能性を検討するために適当な樹木が存在するか調査した。結実している樹木は少なく、適当な樹木を見つけることはできなかった。また、鈴村技術職員と半谷准教授指導のもと、幸島における安全講習も行った。20日は半谷准教授監視のもとニホンザルを追跡し、行動観察を行った。

追跡した個体が採食を行う様子

2023-B-12
代表者 揚妻直樹
ヤクシカの個体群動態および地域個体群間の遺伝子流動について

揚妻直樹(北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター・森林圏ステーション長/教授)、揚妻-柳原芳美(Waku Dokiサイエンス工房・事務局、北海道大学・研究員)

捕獲圧がかかっていない地域に生息するニホンジカ個体群の動態を把握するため、⿅児島県・屋久島の西部地域において識別個体を長期間観察して、個体縦断的なデモグラフィックデータを収集している。2023年度は6頭のシカ(成熟オス2頭、成熟メス1頭、再捕獲オス1頭、再捕獲メス2頭)を捕獲し、首輪型発信器を装着した。この個体群のシカはオス・メスともに定住性が高く行動域も狭いことが報告されているが(揚妻ら 2021)、オス個体によっては長距離移動(2.5km以上)することが少数ではあるものの観察されてきた。2021年より観察している識別オス1頭についても、長距離の移動をしていることが確認された。また、2001年から毎年おこなっているシカの生息密度調査から、2014年から2019年にかけて生息密度が急激に低下(年率マイナス10〜20%)したことが分かり(揚妻ら 2021など)、2023年の調査においても、低密度が維持されていた。この個体群には捕獲圧がかかっていないことから、⾃然⽣態系の制御によって低密度に抑えられたと考えらえれる。このようは現象は、ニホンジカ個体群では未だ報告がないため、この個体群は学術的に希少で重要であると⾔える。今後も捕獲圧の影響が及ばないようにして、この地域のシカ個体群を保護管理することが必要であろう。

首輪発信機を装着したヤクシカ成熟メス2頭と当歳児:母・娘・孫の3世代(撮影/揚妻芳美)

2023-B-13
代表者 前田 玉青
野生化ウマの重層社会と集団行動

前田玉青(総合研究大学院大学)

都井岬にて、野生化ウマ集団(御崎馬)の観察・調査を行った。ドローンを用い、ウマの上空から写真・ビデオを撮影して、その位置や動きを記録した。申請者はいままでポルトガルのアルガ山にて同様に野生化ウマの調査を行い、ウマが重層社会をもつことを発見したが、環境の異なる都井岬で同様の社会形態が見られるのかを調べた。結果的に、都井岬ではアルガに比べてかなり空間的に個体がばらついて存在しており、一部のウマは重層社会はおろか安定なハーレムも作らないことがわかった。一方で、アルガ山によく似た重層社会集団を形成する集団もあり、環境によってウマ社会が柔軟に変化する可能性があることがわかった。

2023-B-14
代表者 澤田晶子
ニホンザルの生態学的調査ならびに菌類胞子の散布生態調査

澤田晶子(京都大)・都野展子(金沢大)・大沼明日佳(金沢大)

これまでの研究で、極めて多様なキノコを食べる屋久島のニホンザルが毒キノコを忌避しており、その背景には嗅覚情報が関与している可能性が示された。本研究では、ニホンザルが忌避するキノコの揮発性物質の特定を目的に、屋久島のニホンザルの菌食行動データの収集ならびに菌類試料採取に取り組んでいる。2023年8月から9月にかけて屋久島西部林道域にて野外調査を実施し、ニホンザルの菌食行動データ収集ならびにキノコの分布調査をおこなった。キノコの揮発性物質を捕集するにあたり、過年度の実験結果を踏まえ、乾燥器内での捕集を試みたところ、GC-MS濃縮解析に必要な濃度を得ることができた。
本年度は、胞子の散布生態を調べるため、無人航空機を用いた林内・林道上の大気試料採集も実施した。キノコの発生量や発生頻度を明らかにするため、大気試料を用いた遺伝子解析を実施している。

2023-B-15
代表者 西川完途
DNAメチル化によるオオサンショウウオ齢推定

西川完途

年齢の判明している動物園飼育・繁殖個体を用いて、メチル化の程度との相関を見ようとした。パイロットスタディーの段階で候補遺伝子の捜索に取り組み、オオサンショウウオと同じ目に属するメキシコサンショウウオのゲノム情報が公開されたり、アフリカツメガエルでメチル化と相関のある遺伝子座情報も公開されたので、それら情報を元に実験を行なったが、有用な結果は得られなかった。

2023-B-17
代表者 木下こづえ
ネパールのシェイポクスンド国立公園におけるユキヒョウの家畜襲撃について生理学的要因の解明

木下こづえ、義村弘仁、Gopal Khanal

野生ユキヒョウによる家畜襲撃状況が異なるシェイポクスンド国立公園内の5つの村の周辺で採取した糞のDNA分析からユキヒョウの糞を同定し、ストレスホルモン濃度測定により、村周辺に集まるユキヒョウの生理的ストレス状態を調べた。また、性判別により雌と判別された糞から性ホルモン(発情および妊娠ホルモン)濃度も調べ、村周辺にいる雌個体の繁殖生理状態を明らかにした。

野生ユキヒョウのものと考えられる糞(©Gopal Khanal)

2023-B-18
代表者 白澤子銘
幸島ニホンザルの情動伝染に関する予備調査

白澤子銘 (京都大学野生動物研究センター)

幸島の大泊にてニホンザルを対象に赤外線カメラを用いて調査を行った。本研究は親和的な行動がどのような温度変化をもたらすかを調査することである。顔表面の温度変化は社会行動や心理的な状態によって変化が生じることから、ニホンザルの顔に焦点を置いて赤外線カメラによって温度変化とその前後の行動を記録した。今回の調査期間はニホンザルの発情期と被っていたため、攻撃交渉が多く見られた。統計的な解析にはまだ手をつけていないが、ネガティブな心理的状態と関連深い攻撃交渉では鼻の温度が下がる傾向にあるという先行研究と同じ結果が得られるということがわかった。赤外線カメラを用いて心理的な状態にアプローチする研究はいくつか存在するが、野生下で行われた研究は少ない。本土から切り離され、個体識別が前頭行われている離島であるというメリットを活かして社会行動と温度変化の関わりのさらなる調査を行いたい。

他の個体からグルーミングを受け始めた時の顔表面の温度の様子

2023-B-19
代表者 杉浦秀樹
屋久島西部地域における中大型動物の生態調査

杉浦秀樹(京都大学野生動物研究センター)

 屋久島・西部地域でのヤクシマザル、ヤクシカの基礎的な調査を継続して行った。ヤクシマザルの個体識別をしながらの群れの識別と頭数の調査、道路を歩いてのサルとシカのセンサス、カメラトラップによる撮影を引き続き実施した。
 川原1号橋が台風によって引き起こされた土石流によって焼失したため、南部地域の調査が難しかったが、栗生の青少年旅行村を利用するなどして、何とか例年並みの調査を行うことができた。

消失した橋

2023-B-20
代表者 MACINTOSH Andrew
Parasite avoidance and hygiene among Koshima macaques revisited

Mazid KA (Wildlife Research Center, Kyoto Univ), MacIntosh AJJ (Wildlife Research Center, Kyoto Univ), Sarabian C (Toulouse School of Economics, Institute for Advanced Study in Toulouse)

In 2015, Sarabian and MacIntosh (2015, Biology Letters) published a study showing that hygienic behaviors in Koshima macaques correlate with geohelminth infection. Key findings were that macaques were sensitive to risk when given the opportunity to feed on items associated with conspecific feces, but their degree of risk-sensitivity depended on the value of the food reward: they were risk averse with wheat and risk prone with peanuts. Our study aimed to replicate the above study with a focus on what individual and environmental factors might affect sensitivity to parasite infection risk, including seasonality, kinship, dominance rank, age and sex.
During summer and winter 2023, experiments with most of the Koshima macaques belonging to the main group were conducted. Experiments included presenting macaques with three feeding stations in an experimental area. Each experiment included a control station with a small block of brown wood and two distractor stations with feces replicas simulating different types of feces. Either a grain of wheat or half a peanut was placed on each station. Feeding decisions along with additional behaviors were recorded using GoPros.
A total of 174 experiments were conducted. In experiments during summer, the consumption rate was 100% when subjects were offered peanuts, regardless of substrate. When experimented with a combination of both peanuts and wheat, we observed mixed feeding results. In contrast, when wheat was used as the food reward (N=46), most individuals fed only at the control station, avoiding wheat placed on feces replicas, as was observed in Sarabian & MacIntosh (2015). In experiments during winter, we again observed a consumption rate of 100% when subjects were offered peanuts, regardless of substrate. As with summer, most individuals refused to feed on wheat associated with feces replicas. However, there was a slight increase in the consumption rate of wheat from contaminated conditions in the winter season. Further investigation, additional observations, and statistical data analysis are ongoing for FY2024. These will provide a clearer picture of whether seasonality plays a role in risk sensitivity during foraging, particularly when it comes to low-calorie food such as wheat.


2023-B-21
代表者 鈴木滋
野生ニホンザル社会のエソグラムによる地域間比較

鈴木滋(龍谷大学国際学部)

鹿児島県熊毛郡屋久島町にある屋久島国立公園内の西部林道地域で、野生ニホンザルの野外調査を行った。特定の調査対象群の個体カウントを行い、出産消失等のメンバーのチェックした。さらに、ニホンザルにおける寛容性の地域間比較を目的として、主にオスを中心とした行動観察を行なった。また、国立公園内を通る道路での野生動物と人との接触事故を減らすための基礎調査として、道路を利用する自動車等の交通量調査を、センサーカメラを使って行なった。

屋久島の野生ニホンザルの群れワカオス同士のマウンティング オス同士の寛容性の指標として検討中(Photo by Shigeru Suzuki)

2023-B-22
代表者 小野田雄介
屋久島における森林の構造や動態に関する研究

小野田雄介

昨年度までに設置した二次林プロットにおいて毎木調査を行い、また光環境測定を行った。これにより、個体による成長速度の違いと光競争を解析できるようになった。また相対成長速度の変化の要因を探るために、樹種による繁殖開始のサイズ依存性の調査を行い、繁殖開始がサイズと光環境の両方に依存することを定量的に示した。同様の調査は屋久島だけでなく、和歌山や苫小牧でも実施しており、緯度に伴う森林構造の違いや樹木の成長戦略の違いを明らかにしている。

2023-B-23
代表者 松村秀一
チンパンジーの幼少期の生育環境と遺伝子のエピジェネティックな変異の関連

松村秀一、塩見双葉(岐阜大学応用生物科学部)

本研究では、京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリで飼育されていた個体から末梢血サンプルの提供を受け、幼少期に受けた母性行動の有無が遺伝子のメチル化に影響するかどうかを調査した。対象DNA領域はドーパミン受容体遺伝子D2(DRD2)のプロモーター領域とした。DNAメチル化状態の比較は、母親が飼育した個体(母親哺育個体)と人間が飼育した個体(人工哺育個体)との間でおこなった。提供を受けたサンプルからDNAを抽出してPCRを行い、目的領域の増幅を確認後、シーケンス解析により塩基配列を決定した。メチル化解析では、バイサルファイト処理を行い、DRD2のプロモーター領域のメチル化状態を調べた。また、提供を受けたファイルに基づき、調査個体の幼少期の飼育環境及び現在の飼育環境等の経歴をまとめた。プロモーター領域のうち、目的領域に存在する11箇所のCpGサイトについて、母親哺育個体5個体と人工哺育個体5個体のシーケンス結果を比較した結果、DNAメチル化が見られたのは11箇所のうち2箇所だけだった。母親哺育個体と人工哺育との間で、メチル化頻度に有意な差はみられなかった。提供を受けたサンプルの全てを分析できたわけではないので、今後は調査個体数をさらに増やすことを検討している。また、調査対象領域も拡大する予定である。それらを通じて、DNAメチル化と哺育形態の関連の有無をより確実に示すことができると考えられる。ストレスを含む動物の飼育環境とエピジェネティクスの関連が見つかれば、動物園などで動物を飼育する上で、飼育環境を評価する重要な指標としてDNAのメチル化状態を用いることができる可能性がある。

2023-B-24
代表者 片岡 直子
ニホンザルのワカオスにみられる群れの移出入時の社会行動とその葛藤

片岡直子(京都大学大学院理学研究科)

屋久島・西部地域に生息するヤクシマザルSora-A群を対象に調査を実施した。本調査を通じて、オスが出自群から移出し、新しい群れに移入する際のメカニズムを、出自のオスと非出自のワカオスの社会行動に着目して明らかにしたい。
本年度は、12月と2月に群れの出自のオスと群れ周辺にいる非出自のワカオスを対象に個体追跡を行い、行動データや近接に関するデータを収集した。得られたデータを簡易的に集計したところ、出自オスと群れのオトナメスとの近接時間割合は減少していたが、出自オスと周辺にいる非出自のワカオスとの近接時間割合や交渉頻度の増加は見られなかった。
今後は、2024年10月まで引き続き同様のデータ収集を行う予定。10月までの約1年間のデータを用い、群れ個体・非出自のワカオスとの社会的な距離や季節性などの観点で、移籍前後のワカオスにどのような社会行動の変化があるのか詳細な解析を行いたい。



毛づくろいを行うオスたち

2023-B-25
代表者 井上治久
健常およびダウン症のチンパンジー脳組織を用いた霊長類神経系の解析とヒト疾患解析への応用

井上治久(京都大学CiRA)、仲井理沙子(京都大学CiRA)、近藤孝之(京都大学CiRA)、今村恵子(京都大学CiRA)、永橋文子(京都大学CiRA)、月田香代子(京都大学CiRA)。

ヒトの22番トリソミー患者の中枢神経組織ではアルツハイマー病様の病態が早期に進行することが知られている。本研究では、チンパンジーの22番トリソミーによって引き起こされる中枢神経系の病態を明らかにするために、健常チンパンジーおよび22番トリソミーチンパンジーの死後脳組織を用いて、病理および遺伝子発現を解析する。2023年度は、チンパンジー死後脳の病理解析と、作製したチンパンジーiPS細胞の神経系への分化誘導を行った。今後、引き続きアルツハイマー病様の病態に着目して解析を進める。

2023-B-26
代表者 藤田志歩
口永良部島における生物多様性保全に向けた哺乳類相の基盤データ整備

藤田志歩(鹿児島大学 共通教育センター)、牧貴大(鹿児島大学 国際島嶼教育研究センター)

 口永良部島は屋久島の西方約12kmに位置する有人島である。口永良部において、地理的に隣接する屋久島から1990年代にヤクシマザルが人為的に持ち込まれ、現在も定着していることが最近わかった。ヤクシマザルは国内外来種として口永良部島の生態系に及ぼす悪影響が懸念される。なかでも、口永良部島に生息するエラブオオコオモリは、樹上をねぐらとし、果実食であるため、生息場所等をめぐる競合によって生存が脅かされるおそれがある。エラブオオコウモリはレッドデータブックにおいて絶滅危惧ⅠA類に分類されていることから、その保全は重要な課題である。本研究は、口永良部島において、ヤクシマザルの分布および生息状況を明らかにするとともに、エラブオオコウモリの生息数の変化を把握することを目的とした。
 ヤクシマザルの生息状況を調べるため、2022年12月に島内14箇所にセンサーカメラを設置し、カメラトラップ調査を開始した。2023年10月に現地調査を行い、撮影データを回収した。同時に、島内の目撃者に聞き取り調査を行った。2021年10月から2023年10月までの間でカメラトラップによる撮影回数は4回、直接観察による目撃回数(捕獲を含む)は13回であった。ヤクシマザルは島の西部と東部で確認されており、一方、島の中央部にあり人口が集中する本村集落では目撃がなかったことから、東部と西部にそれぞれ異なる群れが生息する可能性がある。しかし、東部で目撃されたサルはいずれも単独個体であったため、ハナレオスが群れの遊動域から離れて動いていた可能性もある。カメラトラップ調査は現在も継続中であり、ヤクシマザル生息の実態について今後も分析を進める予定である。
 エラブオオコウモリについては、これまでの報告と比較可能なデータを収集し、頭数や分布域に変化があるかを調べる予定である。2023年10月に行った現地調査では、本格的な調査を実施するにあたり、調査方法を検討するための事前調査を実施した。

口永良部島のカメラトラップ調査で撮影されたヤクシマザル

2023-B-27
代表者 金原蓮太朗
ヤクシマザルの凝集性と音声が凝集性維持に及ぼす影響の解明

金原蓮太朗 (京都大学・野生動物研究センター), 角田史也 (京都大学・生態学研究センター)

群れでいることの利益を得るには、群れの凝集性を維持して行動することが必要である。屋久島西武地域は金華山地域に比べて視覚範囲が狭いため、群れの凝集性を維持しにくい環境であることが知られている。また、屋久島西武地域はニホンザルの発声頻度が高いことから、群れの凝集性維持するために音声が寄与していることが示唆されている。しかし、音声が群れの凝集性の維持に本当に重要であるのか、すなわち、発声の有無によって群れの凝集性の維持に差が生じるのか、は明らかになっていない。本研究は、屋久島西武地域においてニホンザル2個体を同時個体追跡し、凝集性に関するデータと発声頻度に関するデータを収集することで、音声が実際に群れの凝集性の維持に寄与しているかを検証することを目標とする。本年度はヤクシマザルのプチ群を対象に2023年10月14日から2023年12月10日にかけて調査を行った。主な目的は観察手法の確立や観察者間でのデータの一致などであり、2人で1個体を同時に追跡することで調査を行った。最初に3週間程度個体識別を行った後、オトナメスを個体追跡することにより、発声頻度や周囲の個体など様々な行動データを収集した。また、マイクと録音機器を使用することで追跡個体の音声収集を行なった。現在、得られたデータをもとに解析を行っている。2024年は2人で異なる個体を同時に追跡し同様の調査を行うことで、仮説の検証に取り組む予定である。

林道上に広がって採食を行う様子

2023-B-28
代表者 鈴木樹
幸島の野生ニホンザルの採食葉選択

鈴木樹(京都大学ヒト行動進化研究センター)

幸島において、ニホンザルの採食行動の観察を行った。2023年11月10日から24日にかけて幸島観察所に滞在した。最初の数日間は、鈴村・技術職員から山中を歩く際に注意するべきことについて指導を受けた。その後、チェックポイントを数カ所設けて、植物種同定と定点観察を行った。葉の採食を観察することを目指したが、観察時期が秋だったことから果実の採食が多かった。アラカシ、シロダモ、シャリンバイといった植物種の果実を採食する様子が観察できた。嵐山や地獄谷といった半野生のニホンザルの観察経験しか持たなかった筆者にとって、野生下のニホンザルの採食行動について知見を深める機会となった。

2023-B-29
代表者 南川未来
ニホンザルの腸内細菌の発酵能力

南川未来、半谷吾郎(京都大学)

試験管内発酵実験はIn Vitroで腸内環境を模倣し、糞便を用いた懸濁液に葉、果実などの食物資源を基質として接種し、腸内細菌の発酵により産生されたガスの量と短鎖脂肪酸の量を発酵能力の目安として測定するものである。本手法を用い、屋久島の野生のニホンザルと、京都大学犬山キャンパスの屋内飼育および放飼場のニホンザルで腸内細菌の発酵能力に差があるかを検証した。その結果、大きな差はなかったが、ガスの産生量は6種類の基質では野生、放飼場、屋内飼育のサルの順で多く、シロツメクサ成熟葉のみ放飼場のサルで一番多かった。短鎖脂肪酸の量を反映する実験前後のpHはすべての基質で野生のサルで変化量が最も大きかった。実験を行った11月は屋久島ではシロダモ、サルナシなどの果実の採食が頻繁に観察され、糞分析の結果もほぼ100%果実だった。翌年4月の果実が少ない時期にもう一度この実験を行い、結果を比較する予定である。

ヤクシマザルとサル糞

2023-B-30
代表者 狩野文浩
類人猿における摸倣場面における注意:アイ・トラッキング研究

狩野文浩(コンスタンツ大学)平田聡(京大野生)

研究では、2通りのやり方で解決できるパズルボックスの異なる解決法を、類人猿2グループにそれぞれビデオで見せた時、その解決法をコピーするか、そのビデオを見ているときの目の動きは、その解決法をコピーするか否かということを検討した。2023年度は、熊本サンクチュアリにおいて、予備的な試験を行った。具体的には、刺激となるビデオの撮影を行い、チンパンジー6個体においてそのビデオを提示し、その解決法をコピーするか検討した。問題点として、これらのチンパンジーが一つの解決法に偏ってしまっていたことが見出されたため、デバイスを改善するなどした。その後、ドイツ・ライプチヒ動物園において試験を行い、結果は分析中である。

2023-B-31
代表者 杉浦秀樹
幸島のニホンザルの個体群動態に関する長期研究

杉浦秀樹、原澤牧子、鈴村崇文(京都大学野生動物研究センター)

幸島のニホンザルは世界でも最も長期に渡り、個体レベルの継続調査が行われている。長期調査を確実に継続すると共に、個体情報を整理し、研究者間で共有することを目的に調査を行った。個体の特徴を確認して、個体ごとに取りまとめ、幸島の研究者と共有した。また、幸島の研究者からも情報を提供してもらい、それを整理した。

個体情報の例

2023-B-32
代表者 大西絵奈
飼育チンパンジーの排尿行動の観察

大西絵奈(京都大学野生動物研究センター)

熊本サンクチュアリで飼育チンパンジーの排尿行動の観察をおこなった。以前から同調査地で収集していた野外エンクロージャーにおける直接観察のデータに加えて、ナイトルーム内での排尿の観察実験をおこなった。ナイトルーム内で別室に移動させた個体とさせない個体での排尿生起率を比較し、現在解析中である。また、野外エンクロージャーにGoProを設置することで、観察者のいない時間のチンパンジーの行動も観察し、排尿行動をビデオに収めた。GoPro利用によるチンパンジーの行動観察の更なる調査が期待される。

排尿しているオスチンパンジー

2023-B-34
代表者 鍋島 圭
コウモリにおける遺伝資源保存とウイルス叢の解明を目的とした研究

Nabeshima K.(National Institute for Environmental Studies), Fujii W.(The University of Tokyo), Okura S.(Nippon Medical School).

現在、コウモリは様々な角度から研究が求められている。コウモリは様々な人獣共通感染症の病原叢として知られているとともに、コウモリは生態系の維持者として極めて重要な役割を果たしているという両面性を有している。コウモリは病原体と強い関係性を有していること、加えて様々な病原体を保有しながら発症せずに生存できることから、その特異な免疫機能が注目されている。また、コウモリはその体格に対して極めて長寿であること、低温環境での冬眠や飛翔時の高体温等、独自の代謝機能を有していることが明らかとなり、これらの特殊な代謝機能がコウモリの免疫機能と関連しているとの指摘もある。
そこで、申請者はコウモリの保全とリスク評価を行うために、コウモリの遺伝資源を保存するとともに、ウイルス叢の解析を実施する。
申請者ら3名は京都府某所にてユビナガコウモリ15頭を捕獲し、安楽死した。そののち採材のために野生動物研究センターに移動し、細胞・生理分析施設内にて採材を実施した。作業時には個人防護衣を適切に着用し、清潔な環境を保って作業を行うことで非常に高品質な遺伝資源・細胞資源を採取することができた。
現在、ユビナガコウモリ由来iPS細胞、不死化細胞の作出、免疫コウモリ化マウスの作出、コウモリからの様々なウイルス分離、並びにウイルス叢解析が進められている。加えて、一部細胞材料は野生動物研究センター内の研究試料として保存している。




クレジット:鍋島

2023-B-35
代表者 佐竹まどか
ヤクシマザルにおけるロコモーション観察

宇都宮大学 佐竹まどか

本研究の目的はヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)を対象に各種ロコモーションレパートリーの出現頻度や身体サイズ等を調べることで、ロコモーションと身体サイズを含む生態的要因との関係を明らかにすることである.
霊長類が示す多様な形態はロコモーション様式と関連することが知られており,ロコモーションの違いには体サイズや生息地利用(支持体のサイズや場所)などの生態的要因が影響すると考えられる.しかし,野生ニホンザル個体を対象に身体サイズを含む形態や他の生態的要因との関連に着目したロコモーション観察はほとんど行われていない.
ヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)はホンドザル(Macaca fuscata fuscata)と比べ体サイズが小さい.その小ささからヤクシマザルはニホンザルとは異なるロコモーションを示す可能性がある.ホンドザルに関しては,椿野猿公苑の群れを対象としたロコモーション観察が行われている(Chatani 2003).そうした知見と比較し,ホンドザルとヤクシマザルの差異を明らかにする事でロコモーションと生態的要因との関係を解明出来る可能性がある.
結果,ホンドザルは垂直登攀,しがみつき,落下の観察頻度が低いまたは観察されないと記されていたが,ヤクシマザルでは落下以外はよく観察された.またニホンザルのオスは地上で採食を行う割合が高いとあるが,この点においてもヤクシマザルは頻繫に樹上で採食を行い,雌雄差もほとんどないと考えられる.これは屋久島が起伏の激しい地形をしており,崖や岩場が多いために急勾配な支持体を使用する事に慣れているためだと考えられる.

樹上で採食するサル

2023-B-36
代表者 王昕 (WANG, Xin)
異なる温度域に分布する樹木の相互移植実験による温度適応メカニズムの解析

X. Wang. (Graduate School of Agriculture, Kyoto Univ), Y Onoda (Graduate School of Agriculture, Kyoto Univ)r)

気温に沿って、生育する樹種が異なるが、その生理生態学的メカニズムは十分に明らかになっていない。本研究では、異なる温度域に自生する木本種(北海道産グイマツ、アカエゾマツ、東北産ミズナラ、アオダモ、鳥取産コナラ、クロモジ、九州産アラカシ、コジイ)を用いて、相互移植実験(北海道、日光、京都、屋久島)を行い、成長やフェノロジー、光合成特性などを評価する。
本年度、主要に苗木の移植実験を実施する予定である。2024年3月、研究代表者の王昕と指導教員の小野田雄介先生は屋久島観察所の西側において、8種類の樹木をそれぞれ10ポットずつ設置した。自動カメラ、光量子センターと自動灌水機も設置された。

移栽された苗木

2023-B-37
代表者 小川あゆみ
野生ウマの共同行動におけるjoint commitmentの存在の解明

Ogawa A. (Wildlife Research Center, Kyoto University)

 本研究では、ウマの共同行動における共同コミットメントの存在を明らかにすることを目的としている。ウマは非常に社会性が高い動物として知られており、相互グルーミングという形態で社会的グルーミングを行う。相互グルーミングは、2頭の個体が同時にグルーミングを行うため、一方向的なグルーミングに比べ、参加者の積極的な協力が必要となると考えられている。そのため、馬は相互グルーミングの開始段階で何らかのコミュニケーション信号を示すと予測した。また、このようなコミュニケーション・シグナルが共同コミットメントを促す機能を持つのであれば、ヒトと同様にパートナー間の社会的次元(社会的距離や社会的地位など)に影響されるはずであるという仮説のもと調査を行う。
 本研究は、2023年度の3月末から宮崎県の都井岬で調査を開始し、現在は動画の記録の段階である。2024年度の6月上旬まで調査を行い、その後、得られた動画をもとに、相互グルーミングの前後における詳細なインタラクションについての解析を進めていく予定である。

2023-C-01
代表者 杉浦秀樹
屋久島での野外調査の安全対策

杉浦秀樹(京都大学野生動物研究センター)

昨年度の屋久島での死亡事故を受け、屋久島での調査における安全講習会を実施した。講師として、屋久島での登山経験、ガイド経験の豊富な方をお迎えし、屋久島で調査を行っている研究者が参加した。1回目2023年4月16日に実施し、7名の研究者が参加した。2回目は2024年2月日に実施し、研究者4名、屋久島実習の参加者4名が参加した。

ロープワークを教わる

2023-C-02
代表者 鈴木滋
龍谷大学国際学部国際文化実践ⅡD(屋久島の人と自然)

鈴木滋

龍谷大学国際学部の専攻科目「国際文化実践ⅡD(屋久島の人と自然)」の野外実習実施のため、京都大学野生動物研究センター屋久島研修所に宿泊した。この実習では、学部学生9名と、屋久島に7日間滞在し、自然と人の暮らしをめぐる特徴や問題点を、実際に現地で確かめ学ぶことを目標とした。概要としては、ヤクスギ林帯や照葉樹林帯などの植物の垂直分布やヤクシマザル、ヤクシカ、また、森林伐採跡、樹園地、エコツアー実施状況などを観察し、屋久島における人と自然に関係、島と島外との関係を検討した。具体的には、ヤクタネゴヨウ保全活動の見学と調査協力、また、ヤクスギランド、西部林道世界遺産地域で、屋久島の生物多様性とその観光利用について実地に見学をした。また、世界遺産センター、屋久杉自然館、屋久島町歴史民俗資料館、屋久島環境文化村センターなどを見学した。屋久島の自然についての聞き取り調査を、地域住民と観光客を対象として行った。

ヤクスギランドにて、エコツアーのガイドさんによる研修を受ける学生

2023-C-04
代表者 熊井 勇介
ウナギの観察エクスカーション

熊井勇介(東京大学大学院農学生命科学研究科水産資源学研究室)

 本エクスカーションは、屋久島の住民の方々を対象に、屋久島の河川に生息するウナギ属魚類(以下、ウナギ)の生態に関して情報発信を行うことを目的に実施しました。そのために、本エクスカーションでは、一湊川下流域においてウナギの採捕調査のデモンストレーションおよび観察を行うとともに、永田の屋久島観察所においてウナギの耳石に焦点をあてた簡単な講義およびオオウナギの耳石摘出体験を行いました。当日は、大人12名、子供3名の計15名に参加いただきました。
 一湊川では、採捕調査のデモンストレーション中に3個体のオオウナギを採捕することができ、参加者に間近でオオウナギを観察していただくことができました。これにより、ウナギの生態に関する理解を深めていただくとともに、普段、我々研究者がウナギの生態調査をどのように行っているかについて知っていただくことができました。
 屋久島観察所では、著者が耳石を用いて調べた屋久島のウナギの成長に関する講義を行うことで、屋久島に生息するウナギ属2種の成長速度が大きく異なること、屋久島などの亜熱帯域の河川ではオオウナギの成長が遅いため特に大型個体の重点的な保全が重要であるということについて情報発信をすることができました。さらに、実際にオオウナギから耳石を摘出する体験を通じて、多くの参加者に研究活動を身近に感じていただくことができました。
 以上のように、本エクスカーションでは、参加者の方々に、屋久島に生息するウナギの生態に関して多くの情報発信を行うことができました。また、実際に研究活動を体験していただくとともに、その重要性をお伝えすることで、参加者の方々に、研究活動に対してさらなる興味を持っていただくことができたと考えています。今後も、より多くの方々に、研究活動の重要性や楽しさを知っていただけるよう、本エクスカーションのような体験型の教育活動を実施していきたいと考えています。
 最後に、本エクスカーションにご協力いただいたスタッフの方々、京都大学の方々に、この場を借りて御礼申し上げます。

2023-C-05
代表者 杉浦秀樹
京大ウィークス2023 幸島野生ニホンザルの観察会

鈴村崇文、杉浦秀樹(京都大学野生動物研究センター)

京都大学の遠隔地施設での公開講座、講演会、施設公開等を一定期間に集中して実施する「京大ウィークス」の一環として、幸島観察所でニホンザルの観察会とニホンザルに関する講演を行った。観察会は県内外から17名の参加があった。天候にも恵まれ、午前中は幸島に渡りニホンザル観察を行うことができた。参加者は、解説を聞きながら、文化的行動の「イモ洗い行動」を観察したり、普段ニホンザルが生活をしている林内を散策した。午後からは、観察所内で教員と職員が幸島やニホンザル生態や行動、鳴き声についての講義を行った。
なお、当日の様子は京都大学のホームページにも掲載されている。
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2023-12-18#a25

ニホンザルの体重測定のデモンストレーション

2023-C-06
代表者 赤見理恵
モンキーキャンパス 屋久島研修ツアー

赤見理恵、堀川晴喜(公益財団法人日本モンキーセンター)、都丸亜希子, 石榑玲子, 中野洋二郎, 堀部紀夫, 万野美香, 森本裕里, 上村直子(日本モンキーセンター友の会)

動物園が「自然への窓」としての役割を果たすためには、動物園内の活動もさることながら、フィールドでの観察会等も重要である。そこで連続講座「モンキーキャンパス」の受講生有志を対象に「屋久島研修ツアー」を実施した。各回講義終了後に説明会や動物園内での観察会などをおこなった上で、2023年12月9日(土)~12日(火)に参加者7名、スタッフ2名、湯本貴和先生の10名で実施した。西部林道沿いの林内でのヤクシマザルの観察や個体識別、白谷雲水峡などでの植生垂直分布の観察などを、天候に応じておこなった。事後アンケートでは、研究者の案内でサルを観察できたこと、シカや植物、屋久島の人々などとの関係を学べたこと、研究者やスタッフ、参加者同士で交流できたこと、などがよかったとする回答があった。本研修を通して①研修参加者の学び、②引率スタッフの研修機会、③参加者と引率スタッフ共同での研究会発表、などの成果があった。



公益財団法人日本モンキーセンター

2023-C-07
代表者 坂崎 貴俊
自然界に潜む規則性を探る

坂崎貴俊・小山時隆・市川正敏・松本剛・大谷真紀子・林大寿・野末陽平・仲俣翔登・眞砂海斗(京都大学理学研究科)・高岡涼・位田稜弥(京都大学理学部)

幸島においてニホンザルの行動を観察し、動物の行動形態についての理解を深めた。また島の海岸部には、タフォニ構造と呼ばれる岩石構造が見られ、その形成過程について参加者で議論した。

2023-C-08
代表者 杉浦秀樹
屋久島実習:ヤクシマザルなどの動物の観察

杉浦秀樹(京都大学野生動物研究センター)

京都大学大学院の正課としての大学院生を対象に野外実習を実習を行った。講師2名、受講生4名(修士課程1年生4名)が参加した。期間は2024年2月6日~2月12日(7日間)だった。屋久島西部林道にいる野生のヤクシマザル、ヤクシカを観察した。また、屋久島西部地域での過去の人の利用跡を見て、この地域の歴史について学んだ。

ヤクシカの観察

2023-C-09
代表者 杉浦秀樹
幸島実習

杉浦秀樹(京都大学野生動物研究センター)

2023 年 5 ⽉15 ⽇〜5 ⽉ 21 ⽇の⽇程で、京都大学の大学院の実習「野⽣動物・行動⽣態野外実習」(通称、幸島実習)を実施した。京都大学・野⽣動物研究センターの修⼠課程 1 年の大学院⽣ 5 名、博士課程 1 年の大学院⽣1名が実習⽣として参加し、野⽣動物研究センターの 2 名の教職員が指導した。5月16日~5月18日までの3日間、幸島でニホンザルの観察を行った。5月19日には都井岬でウマの観察を行った。研究者にウマの解説をしていただいり、研究に使っているドローンの操縦なども見せていただいた。
参加した大学院生のレポートは下記のHPに掲載している。
http://www.wildlife-science.org/ja/reports/2023.html

幸島に上陸した実習生