京都大学野生動物研究センター 共同利用・共同研究

野生動物研究センター 共同利用研究会 2016

日時 2016年11月5日(土) 10:00-18:00頃
   研究会終了後 懇親会を行います
場所 京都大学野生動物研究センター・地下1階会議室
   アクセス のページへ

多くの方のご参加ありがとうございました

これまで、野生動物研究センターの共同利用研究として行われた研究を中心に、11名の方にご発表いただきました。発表内容は多岐にわたりましたが、研究に対する熱意の伝わってくる発表ばかりで、異なる研究分野の方や、一般の方にも十分に楽しんでいただけたと思います。研究会の最後には、意見交換を行い、共同利用研究に対する要望や、疑問などを参加者から聞くことができました。
参加者同士も初対面の人も多く、交流の場としても有意義だったかと思います。担当委員や野生動物研究センターのスタッフにとっても、顔を合わせて共同利用研究の結果や、要望を聞くことができ、今後の共同利用研究のあり方を考える上でも大変有益でした。
来年もまた、11月頃に開催したいと思います。

参加者  学外30名、学内14名 計44名

はじめに

京都大学野生動物研究センターは、野生動物や動物園や水族館館の飼育下の動物を主な対象として、基礎研究や保全研究を推進しています。このような活動をより広範に進めるため、共同利用・共同研究として、当センター以外の方の研究をサポートし、共同研究を行っています。
 この研究会では、これまでの共同利用研究の成果を中心に様々な研究成果や、調査・研究の取り組みを発表していただきます。また、これまでの活動を踏まえて、よりよい共同利用研究のあり方を考えて行きたいと思います。共同利用研究に外部から参加する方、共同利用研究の計画や審査をする方、共同利用を受け入れる内部のスタッフなど、様々な立場の相互理解が進むことで、よりよいものにしていけると期待しています。
 これまでの共同利用用研への参加の有無にかかわらず、どなたでもご参加いただけます。野生動物や、動物園や水族館の動物を対象とした、調査・研究に関心のある方のご参加も歓迎します。

プログラム

主催者の挨拶 幸島司郎・杉浦秀樹(京都大学野生動物研究センター)
10:00 ~ 10:25 林亮太(琉球大学農学部)
        アカウミガメに付着するフジツボ類の生態
10:25 ~ 10:50 菊地デイル万次郎(東京都市大学)
        ヒマラヤ山脈に生息するユキヒョウの基礎生態に関する研究
10:50 ~ 11:15 伊藤健彦(鳥取大学乾燥地研究センター)
        無人航空機を用いた野生哺乳類の生息地利用調査手法の開発:鳥取砂丘での実施例
11:15 ~ 11:25 (休憩)
11:25 ~ 11:50 佐々木史織(三重大学大学院・生物資源学研究科)
        北海道東部海域に出現するシャチの鳴き声
11:50 ~ 12:15 山本知里(長崎大学水産・環境科学総合研究科、東海大学海洋学部)ほか
        ハンドウイルカにおける協力課題の実施
12:15 ~ 13:15 (昼食)
13:15 ~ 13:40 武田 浩平(総研大・先導研)
        タンチョウの鳴き合い:社会状況に応じた使い分け
13:40 ~ 14:05 風間麻未、風間健太郎(北海道大学・水産科学院)
        コウベモグラの日間エネルギー要求量
14:05 ~ 14:30 伴 和幸(大牟田市動物園)ほか
        飼育下トラにおける夜間寝室開放の評価
14:30 ~ 14:45 (休憩)
14:45 ~ 15:10 藤谷武史、谷佳明(東山動植物園)
        国内飼育種アルダブラゾウガメにおける種の再検討
15:10 ~ 15:35 塩田幸弘(京都市動物園)
        アジアゾウにおける栄養学的研究について
15:35 ~ 16:00 丸山啓志(京都大)ほか
        “うんこレ”~飼育下食肉類の糞形態標本“うんこレクション”の作成と活用~
16:00 ~ 16:15 (休憩)
16:15 ~ 17:40 意見交換


研究会終了後、研究センターの近くで懇親会を行います。18時30分頃からを予定

参加申込

できれば、事前にご連絡いただけると、準備がしやすくなって助かります。
懇親会に参加される方も、できれば事前にお知らせいただけると、予約がしやすくて助かります。
(が、申込し忘れても大丈夫です。ぜひ、ご参加ください。)

発表要旨

要旨集はこちら PDF
伊藤健彦(鳥取大学乾燥地研究センター)

無人航空機を用いた野生哺乳類の生息地利用調査手法の開発:鳥取砂丘での実施例

 無人航空機(ドローン)技術は急速に発展しており、赤外線カメラによる上空からの観測は、夜間も含む空中からの動物検出を可能にする。しかし、調査を軌道に乗せるためには、動物に影響を与えず、かつ動物が判別可能な最適飛行高度・ルートの設定が必要である。また、植生や地表面温度の違いによる検出精度への影響も評価しておく必要がある。そこで、イノシシ、ニホンジカ、キツネ、タヌキなどの生息報告例があり、海岸から内陸に向かって砂浜→草原→森林→農地と植生・土地利用が変化する鳥取砂丘周辺で、ドローンを用いた中・大型哺乳類の調査手法の開発を進めている。研究会では、研究の構想と自作で安価な空中からの赤外線観測システムを紹介する。


乾燥地研究センター上を飛行するドローン


ドローンで撮影した熱画像
林亮太(琉球大学農学部)

アカウミガメに付着するフジツボ類の生態

 ウミガメ類にはフジツボ類をはじめとしたさまざまな付着生物の存在が知られている。本研究では、屋久島に産卵のため上陸するメスのアカウミガメを対象として付着生物調査を行った。最も目立つのは、最大で長径10cmほどにもなるカメフジツボ Chelonibia testudinariaである。フジツボ類は一般的に固着生物として知られ、プランクトン幼生期を経て固着生活に入ると移動することがない。しかし、このカメフジツボは唯一着底後移動することが知られている。移動能力は報告があるものの、その進化的意義については全く研究が進められていない。講演ではまず、フジツボ類をはじめとする付着生物を紹介する。さらに、カメフジツボの移動能力の進化的意義について進行中の解析結果とともに紹介する。


菊地デイル万次郎(東京都市大学)

ヒマラヤ山脈に生息するユキヒョウの基礎生態に関する研究

 ユキヒョウ(Panthera uncia)はヒマラヤ山脈の頂点捕食者である。ユキヒョウは大型ネコ科で唯一高山に適応しているため、その行動生態は興味深い。しかしながら、“幻の動物”と言われるユキヒョウは直接観察や捕獲が難しいために、その生物情報は極めて乏しい。例えば、ユキヒョウは断崖で狩りをするために他の大型ネコ科に比べて四肢が短く、尾が長く進化したとされるが、その形態と運動に関する学術的根拠は示されていない。また、ユキヒョウが高山のどのような環境に分布するのか明確ではない。
 本研究ではインド・ラダック地方の野生個体を対象として自動撮影機を用いた分布調査と、動物園の飼育個体を対象としてステレオカメラを用いた形態と運動の解析を探索的に進めてきた。本発表では、これまでの研究の進捗と今後の展望について紹介する。



佐々木史織(三重大学大学院・生物資源学研究科)

北海道東部海域に出現するシャチの鳴き声

 シャチ(Orcinus orca)はいくつかの海域において,行動範囲や群れ構成,食性,鳴音が異なる集団が同所的に複数存在し,遺伝的にも異なる集団が存在することも知られている.また,母系を中心とする安定的な群れを形成し,群れごとに特徴的なコールと呼ばれる鳴き声を使用することでコミュニケーションをとり,血縁内ではいくつかのコールを共有していることがわかっている.日本ではシャチが北海道東部海域に季節的に出現することが知られているが,その生態についてはまだよくわかっていない.本研究では根室海峡においてホエールウォッチング船を利用し,シャチを観察中に海中音を録音,行動状態を記録し,群れ間のコールの違いを比較した.2015年と2016年の2年間で延べ38群以上579頭に遭遇し,録音データを約87時間,行動観察記録を約75時間収集した.ここでは録音データからみられたいくつかの特徴的なコールについて報告する.



山本知里(長崎大学水産・環境科学総合研究科、東海大学海洋学部)、柏木伸幸、大塚美加、西村圭織(かごしま水族館)、酒井麻衣(近畿大学農学部)、友永雅己(京都大学霊長類研究所)

ハンドウイルカにおける協力課題の実施

 集団での狩りなどの協力行動は多くの動物で報告されているが、これらの動物がパートナーの役割を理解した上で協力しているかどうかは、未だ議論が続いている。本研究ではハンドウイルカを対象に、2頭が同時に操作したときにのみ報酬が得られる装置を用いて実験を行った。2頭同時に装置の操作が可能となる条件と、1頭が遅れて操作可能になる条件を設定し、これらの条件の成功率から、ハンドウイルカがパートナーの役割を理解している可能性について検討した。



武田 浩平(総研大・先導研)

タンチョウの鳴き合い:社会状況に応じた使い分け

 親和的な状況と攻撃的な状況に共通して、同じディスプレイが行われる場合がある。この類似性は、“転移行動”として説明されてきたが、異なる状況で、ディスプレイの特徴を比較して、その機能を示した定量的な研究の例は限られている。本研究では、タンチョウ(Grus japonensis)を対象に、異なる社会状況(ダンスと餌の競争)の間で、つがいによる鳴き合いの特徴を比較し、その機能を明らかにすることを目的とする。まず、本研究に関係した自身の研究を紹介する。群れ内における鳴き合いを対象にした研究では、その機能が、餌資源に対するつがいの共同防衛であることが分かった。また、鳴き合いも行動要素の1つであるダンスの解析により、つがいが行うダンスのパフォーマンスは、繁殖成功に影響することを示した。これらの結果に基づき、本研究の計画を発表する。


風間麻未、風間健太郎(北海道大学・水産科学院)

コウベモグラの日間エネルギー要求量

 食虫性哺乳類であるモグラ類は、人目につきにくく、簡便な飼育方法も確立されていないため、そのエネルギー要求量に関する正確な知見はほとんどない。講演者らは、はじめにコウベモグラの長期飼育方法を確立し、続いて個体の摂餌量、体重、および排泄物量とそのエネルギー価を毎日測定して本種のエネルギー要求量を明らかにした。本種の日間エネルギー要求量(kJ/体重)は、他の小型食虫性陸棲哺乳類に比して高かった。一方、見かけの消化率は95%以上であり、本種のエネルギー代謝効率はきわめて高いことが示唆された。講演ではほかに、野外調査を通じて明らかとなった地下坑道内におけるモグラと他種との捕食-被食関係あるいは地下の空間資源をめぐる競争関係について紹介する。


伴 和幸1,前原詩音2,山梨裕美3,小野亮輔1,齊藤 礼1,川瀬啓祐1,森田 藍1,加瀬ちひろ2,椎原春一1
1:大牟田市動物園
2:千葉科学大学 危機管理学部 動物危機管理学科
3:京都大学野生動物研究センター

飼育下のトラにおける夜間寝室開放の評価

国内の動物園動物の多くは,1日の約2/3もの時間を屋内の寝室で過ごしている.夜間寝室を開放し屋内外の行き来を可能にすること(寝室開放)は,動物が利用できる空間の拡充および利用する空間の選択肢を増加することに繋がる.しかし,大型哺乳類においては,飼育管理者や来園者の目の行き届かない夜間の寝室開放を安全に行うための飼育設計が重要となる.今後の飼育設計を検討するうえでも,夜間の利用空間の拡大の影響の検討は重要であるが,海外の例を含めても定量的な研究はほとんどない.また,過去の大型肉食獣の研究では,行動・生理指標を併せて評価した研究は少ない.そこで本研究は,野生では夜間も活発に行動するトラPanthera tigrisの寝室を開放し,行動および血中・体毛中のコルチゾルを測定することで,短期的・長期的な影響を評価する.さらに,本研究の成果を積極的に公表し,夜間の寝室開放の議論を活発化させることで,他園館の動物園動物の福祉向上に貢献することも期待している.



藤谷武史、谷佳明(東山動植物園)

国内飼育種アルダブラゾウガメDipsochelys dussumieriにおける種の再検討

 アルダブラゾウガメ属Dipsochelysの現存種はアルダブラゾウガメDipsochelys dussumieri、セーシェルヒラセゾウガメD.arnoldi、セーシェルセマルゾウガメD.hololissaの3種が存在しているが、日本の動物園水族館ではアルダブラゾウガメD, dussumieri以外の飼育は認められたことがない。しかし、外部形態が本来のアルダブラゾウガメと異なっている形態を表している個体が飼育下で何頭か確認されている。そこで、我々は国内の園館で飼育されているアルダブラゾウガメについて、外部形態をもとに種の再調査を行った。調査頭数は19園館58個体行い、結果はセーシェルヒラセゾウガメの形態に該当する個体が5個体確認され、その他セーシェルセマルゾウガメの可能性があると思われる個体が3体確認された。今回の外部形態における種の再検討では、61個対中7個体でアルダブラゾウガメでない種が存在することが示唆された。




東山動物園のゾウガメたち

塩田幸弘(京都市動物園)
アジアゾウにおける栄養学的研究について

アジアゾウ(Elephas maximus)は,絶滅のおそれのある種として,ワシントン条約では付属書Ⅰに記載されている。京都市動物園では,平成26年に性成熟前の子ゾウ4頭(オス1頭,メス3頭)を導入した。これらを将来繁殖可能な個体に発育させることを目的とし,栄養学的研究を実施した。発育状況の栄養学的評価のため,飼料の栄養含量評価,消化試験,ボディコンディション評価,血液検査および体重測定を実施した。血液検査については,報告例のほとんどない,血漿中の微量元素の項目についても実施した。消化試験については,アルカンを使った2重マーカー法を実施した。通年での血漿中微量元素の測定結果から,個体毎に経時変動が認められ,アジアゾウにおける基準値となりうることが示唆された。消化試験では,C31アルカンを内部マーカーとして用いることで,消化率を推定しうることが示唆された。今回の調査をとおして,飼育管理に必要な基礎データを得ることができた。




丸山啓志1・森本直記2・吉澤 聡吾3・池光愛美3・角川雅俊4・水口大輔5・和田晴太郎6・安井謙介7・松岡廣繁1
1. 京都大学大学院理学研究科 地球惑星科学専攻、2. 京都大学大学院理学研究科 生物科学専攻、3. 京都水族館、4. 小樽水族館、5. 北海道区水産研究所 資源管理部 高次生産グループ、6. 京都市動物園、7.豊橋市自然史博物館
うんこレクション~食肉類ハンズ・オン標本の作成と活用にむけて~

 野生動物の糞は,これまでに食性分析等の標本を破壊・分解するような研究が主であった.その一方で,糞の化石である糞石(コプロライト)研究で比較可能な形態標本は知られていなかった.
 こうした背景は,食肉類の糞でも同様であり,食肉類固有の課題として棲息域も食性も多様であると共に,その糞は強い臭気を放つことから安定な標本作成が困難だったからである.そこで,本研究では,飼育下の食肉類の糞の形態標本を作成し,非侵襲的な検査を可能とすることにした.
 糞標本の作成は,松岡ほか(2015)を元に,消毒用エタノール・アセトンを用い,脱水・脱脂し,パラロイド樹脂を浸透させ,シアノアクリレート系接着剤で補強の流れで実施した. こうして得られた標本に対して,CTスキャンによる内部組織の3次元の位置情報の取得,形態標本による薄片作成による顕微鏡観察を行い,外部形態及び内部形態の基礎的な情報の収集を行った.
 将来的には,これらをハンズ・オン標本として用い,大型動物の保全に関するアウトリーチ活動にも活用していく.






(おまけ)懇親会
懇親会を近くの居酒屋で行いました。参加者20名。
写真は二次会の様子(研究会での集合写真を撮っておけば良かったのですが、気づいた時には、二次会になっていました。)