直接ちょくせつ見られない野生のマレーバクの行動を研究できるか?

かれらの「塩場しおば」の利用りよう手掛てがかりに

田和優子

マレーバク

学名:Tapirus indicus

バクはサイやウマに近い動物で、長くびた鼻を自由に動かして周囲しゅうい探索たんさくします。主に葉や果実かじつを食べます。東南アジアの熱帯雨林ねったいうりんに生息するマレーバクは、体長やく1.8m、体重やく300kgで、白黒のツートンカラーが特徴とくちょうです。

動画を見てみよう

一緒に塩場の水を飲むマレーバクのカップルの動画を見てみよう!

塩場に向かう道中のマレーバク

ずんぐりした体型たいけいでのんびり動くバクは、実はやく二千万年前からその姿すがたをほとんどえていない生きた化石です。人類じんるい歴史れきしでいうと、二千万年前はヒト科とテナガザル科が分岐ぶんきしたころです。バクはあまり研究されておらず、その生態せいたいなぞに包まれています。わたしの研究対象たいしょうであるマレーバクはうっそうとした熱帯雨林ねったいうりんで夜間に活動するため、直接ちょくせつかれらを観察かんさつするのは非常ひじょうむずかしいのです。そのため、かれらが野生下でどのように行動しているのか、ほとんど分かっていません。

わたしは何とかして野生のマレーバクの行動を観察かんさつしようと、「塩場しおば」に着目することにしました。塩場しおばとは、ミネラルを多くふくむ土や水が地面に出ているところで、森の中に点在てんざいしています。草食動物は、えさの植物に不足ふそくしがちなミネラルを摂取せっしゅするために、ここに集まってきます。わたしは、5ヶ所の塩場しおばに自動撮影さつえいカメラを設置せっちし、そこを利用りようしに来たマレーバクを撮影さつえいし動画を集めて、それをパソコンで再生さいせいし、「バク同士はどのようにせっしているのか」に着目してかれらの行動を観察かんさつしています。

動画を解析かいせきしたところ、マレーバクはやく2日に1回、観察かんさつしているいずれかの塩場しおばおとずれていました。ふつう、森の中のけもの道にカメラを設置せっちしてもこれほど頻繁ひんぱん撮影さつえいされることはありません。撮影さつえいされたバクの耳先の切れみやひたいきずを手がかりに個体識別こたいしきべつをしてみると、ある塩場しおばには8個体こたいものマレーバクが利用りようしに来ていることが分かりました。しかし、塩場しおば共通きょうつう資源しげんであるにもかかわらず、他個体たこたい仲良なかよならんで水をなめる、なんてことは一切ありません。それどころか他個体こたいとの遭遇そうぐうを避けており、マレーバク同士はかなり排他的はいたてき関係かんけいにあることがうかがえました。ただし、カップルだけは例外れいがいで、一緒いっしょ塩場しおばの水をなめつつおたがいに鼻先でちょんちょんとれ合い、相手に声をかけるように「ピィ~」「クカッ」と鳴きかけてかられ立って塩場しおばから出ていくという、なかむつまじい姿すがたを見せてくれます。バクはこれまで単独性たんどくせいと言われてきたので予想外でしたが、カップルがともに行動する様子は実際じっさいに何度も撮影さつえいされています。バク同士は普段ふだん直接ちょくせつ顔を合わせることすらないけれども、カップル間ではれたり鳴いたり…。このように、あまり研究されずなぞに包まれていた野生のマレーバク同士どうし関係かんけいやコミュニケーションについて、カメラを使った観察かんさつによって少しずつ明らかになってきています。

塩場。特に草食動物がミネラルを多く含む水を飲みに来る。 塩場しおばとくに草食動物がミネラルを多くふくむ水を飲みに来る。
共に塩場の水を飲むマレーバクのカップル
共に塩場しおばの水を飲むカップル
研究者に聞いてみました!あなたの研究の相棒はなんですか?
自動撮影カメラ

ボートマン

ボートでダム湖を渡って調査ポイントに向かう。


オラン・アスリ(先住民)1名

ガイドと荷物持ちをしてくれる人を、日雇い。