遺伝子から見るニホンイヌワシの多様性と保全
佐藤悠
ニホンイヌワシは日本で最大級の猛禽類です。山の奥深くにすみ、天狗の由来だとも言われています。プロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルスのシンボルにもなりました。しかし、日本に500羽ほどしか生息しておらず、絶滅危惧種に指定されています。
私はイヌワシの遺伝的な多様性や進化の歴史を研究し、保全に役立てたいと思っています。遺伝的多様性が低く、皆が同じような性質だと、病気や気候の変化により、いっせいに弱ってしまう危険があります。しかし、遺伝的多様性が高く、様々な性質を持つ個体がいれば、厳しい環境になったとしても生き残る個体の数は多くなります。遺伝的多様性がどの程度なのか、どのように保たれてきたのかを解明することは保全を考える上で非常に重要になります。

遺伝解析には血液や羽根、糞などの試料が必要です。しかし、野生のイヌワシを捕獲し、試料を得ることは非常に困難です。そこで私は、巣や止まり木に落ちている羽根や卵の殻、糞などを試料として使っています。このような試料からDNAを抽出し、塩基配列などを分析します。得られるDNAは低濃度なため、PCRという手法で100万倍以上に増幅します。その後、同じ試料を何度も繰り返し分析を行うことで配列や遺伝子の型を確定させます。そのように得られたデータを遺伝解析用のプログラムで解析することで、遺伝的多様性や個体の識別、親子関係、家系の分布など多くのことがわかります。糞の中の遺伝子を解析することで、どの季節に何を食べているかもわかります。こういった情報をまとめて考えることで、遺伝的な多様性や進化の道筋が見えるようになってきます。


イヌワシの羽根

イヌワシの卵の殻
これまでの研究で、ニホンイヌワシは「個体数が少ない」が「遺伝的多様性が高い」ことが分かってきました。個体数が少ないのになぜ多様性が高いのか、高い多様性はイヌワシが生き残っていくうえでどのように影響するのかを明らかにすることが、今後の課題です。このような仕組みを解明し、イヌワシを保全するためには何を行う必要があるのかを明らかにしたいと思っています。




実験の作業や結果を記録するノート

遺伝子のデータ解析を行います。
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