野生キリンの保育園
齋藤美保

動物園のキリンはその多くが雌雄のペアで飼育されていますが、野生のキリンは様々なタイプの集団をつくって暮らしています。例えば、雄だけで成るもの、複数の雌雄で成るものなど様々です。その中で私が注目しているのは、複数の母子から成る集団で、これは「保育園」とも呼ばれます。授乳中の母親は、いつもよりエネルギーを多く必要とするので、食料や水を求めて、時に数キロも移動します。しかし、子供は母親のように長距離を移動する体力がまだありません。そこで、母親は遠くに出かける間、子供を保育園に預けるのだと考えられています。

キリン個体識別の方法
私はアフリカ大陸東部に位置するタンザニアの、カタビ国立公園で野生キリンの調査をしています。調査で初めに行うことは個体識別です。キリンの体の独特な模様は、一頭一頭異なるため、これを手がかりに個体を見分けていきます。個体識別が出来るようになると、どの個体とどの個体がよく一緒にいるかといった、個体同士の親密さも見えてきます。またキリンの模様は一生変化しないため、キリンの一生を通じた、長期的な追跡にも役立ちます。
これまでの私の研究から、以前は一緒に観察されることがほとんどなかった雌三頭が、子供が生まれてからは、頻繁に一緒に観察されるようになりました。つまり、子育てをするようになると、特定の母親同士がよく集まって保育園をつくるようになるのです。保育園をつくることは、母親達にとって、子供を見守る役割を分担できる、見守り役の母親以外は採食のため遠出ができる、といった利点があると考えられます。また、母親が一人で遠出をしないときでも、母親同士が集団をつくることで、子供を見守る目が増え、捕食者から子供を守ることにもつながるのでは、と考えています。
実は、キリンの子供は生後一年で、その半数がライオンなどの大型肉食獣に捕食されると言われています。子供をいかにして捕食者から守るかは、母親にとってとても重要な課題なのです。今後はキリンの母親がどのように捕食者から子供を守っているのか、母親が子供を残していく場所はどのような環境なのか、といったことに着目して研究を進めていきたいと考えています。

野生のキリンが国立公園内にあるスタッフの家の目の前まで来ることも。もちろん柵などありません

国立公園のレンジャーと共に調査をしている様子


物を書くだけではなく、スケールとしても使える。これはキリンの足跡の横にペンを置いているところ。

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