口笛ハンター、ドールの会話

澤栗秀太

ドール

学名:Cuon alpinus

アカオオカミともばれる、中型ちゅうがた食肉目しょくにくもくイヌ科の動物。インドや東南アジア、ロシアなどに生息しています。生息地や餌動物の減少げんしょう家畜かちくおそ害獣がいじゅうとして駆除くじょされた結果けっか、近い将来しょうらい絶滅ぜつめつのおそれがあります。

音声を聞いてみよう

ドールの音声を聞いてみよう!

飼育ドールのホイッスルの鳴き返し(よこはま動物園ズーラシアにて)

図1: ドールのおとな
(フランス、オートトゥーシュ動物園にて)

わたしが研究しているのは「ドール」です。人形、それとも果物くだものの会社?いいえ、動物です。北海道に生息するアカギツネににたた、中型ちゅうがた犬ほどの大きさの野生のイヌの仲間なかまです(図1)。日中はやぶの中や木陰こかげで休んでいることが多いのですが、朝方や夕暮ゆうぐれ時の比較的ひかくてきすずしい時間には活動的かつどうてきになります。耳をすましていると、よく鳴き声が聞こえてきます。なんと8から11種類しゅるいもの鳴き声が報告ほうこくされています。りの時などにホイッスルという口笛のような音を発することから、「ホイッスリング・ハンター(口笛をりうど)」というあだ名があります。しかし、かれらの「会話」の内容―鳴き声にどんな意味があるのか―はよくわかっていません。

わたしかれらの会話を明らかにするため、国内外の動物園とインドのムドゥマライ国立公園でドールを研究しています。

まずは、マイクと音声レコーダーを使って鳴き声を記録きろくします(図2)。それらの鳴き声を音声を解析かいせきする専用せんようのソフトに取りむと、音の高さや強さなどが視覚化しかくかされます(図3)。この図を声紋せいもんといいます。線のように見えるのがそれぞれの鳴き声(あるいは一部)で、上にあるほど音が高く、横に長いほど音が長く、色がいほど音が強いことをしめしています。この声紋せいもんをもとに鳴き声の特徴とくちょうを調べることで、鳴き声を分類ぶんるいしたり、鳴いた個体こたい特定とくていしたりできるのです。

ムドゥマライ国立公園の遠景

ムドゥマライ国立公園の遠景えんけい

ムドゥマライ国立公園の森林内部

ムドゥマライ国立公園の森林内部

ドール調査地・ムドゥマライ国立公園
ドールの鳴き声と行動の記録(ムドゥマライ国立公園にて)

図2: 鳴き声と行動の記録きろく(ムドゥマライ国立公園にて)

ドールのホイッスルの声紋

図3: ホイッスルの声紋せいもん

次に、録音ろくおんと同時にビデオカメラで撮影さつえい(図2)しておいた行動を分析ぶんせきします。ある鳴き声を発したときに、そのドールがどのような行動をしたか、またその鳴き声を聞いたドールがどのような反応はんのうをしたかを分析ぶんせきすれば、それぞれの鳴き声にどのような意味があるのかを推定すいていすることができます。前述ぜんじゅつのホイッスルをれいに取りましょう。分析ぶんせき結果けっか、この鳴き声がすると、見えない所、あるいははなれた所にいるれの仲間なかまが立ち止まって耳をかたむけたり、鳴き返したりすることがわかりました。比較的ひかくてき遠くまで聞こえる大きな音で、「ホーホーホーホー…」と一回あたりに何度も鳴き、まるで人間の「おーい」というび声のようです。ホイッスルの音の高さや、「ホー」と次の「ホー」の間隔かんかくは個体によってちがうことが知られています。これらの知見から、このホイッスルには、他者の注意を自分に引きつけ、はなれた見えない場所にいる仲間に自分の位置いちを知らせ合うはたらきがあるのではないかと考えています。それ以外いがいの鳴き声についても、同様の分析ぶんせきを進めているところです。


がホイッスルを発した後、成獣せいじゅうが合流(2015年2月27日午前8時39分、ムドゥマライ国立公園にて)
研究者に聞いてみました!あなたの研究の相棒はなんですか?
指向性マイク
指向性マイク

髭
ひげ

おそらく9割以上わりいじょうの成人男性だんせいひげたくわえているインドでは、ひげを生やすと、心なしか待遇たいぐうくなった気がします。とくに東洋人はおさなく見られてしまうと思いますし。

もっと知りたい人のために
本『はじめてのフィールドワーク (1) アジア・アフリカの哺乳類編』
田島知之・本郷峻・松川あおい・飯田恵理子・澤栗秀太・中林雅・松本卓也・田和優子・仲澤伸子 著、 東海大学出版部
出版社のホームページで詳細を見る (京都大学野生動物研究センターHPをはなれます)