音声から探るアマゾンカワイルカの水中行動
山本友紀子
ブラジルの赤道直下、熱帯雨林の間を縫うように流れるアマゾン川には、ピンク色の体に、小さい目、長い口先を持ったアマゾンカワイルカがすんでいます。アマゾンカワイルカはアマゾン川の流れの速い本流から細い支流まで広く生息しています。体の関節がとてもやわらかく、浸水林 注1 のような浅くて障害物がたくさんあるようなところも体を曲げて自由自在に泳ぐことができます。主な食べ物はアマゾン川の魚で、数センチの小魚から50センチ以上にもなるタンバキという大きな魚まで食べていることが知られています。
アマゾンカワイルカはアマゾン川の生態系の中でも高次捕食者として重要な役割を果たしていますが、密漁や混獲、船舶騒音、ダム建設などの人間活動の影響によって、個体数が急激に減少しており、絶滅の危機に瀕しています。彼らの生態を正しく理解して保全を進めていくことが緊急に必要です。例えば、彼らがいつどこで餌を食べたり休んだりしているかを知ることは、人間活動の影響を減らしアマゾンカワイルカと人間が共生する社会をつくっていくためには欠かせません。しかし、濁ったアマゾン川では水中行動を観察することが難しく、彼らの行動についてはほとんど何もわかっていませんでした。
浸水林:
雨期になると水没する森林。魚やイルカなど多くの水生生物にとって重要な生息場所。


エコーロケーションの仕組み
イルカのおでこから発せられた超音波のクリックスが前方の物体(この場合は魚)に当たり、反射した音がイルカの方向へ 跳ね返ってくる。イルカはあごの骨で反射音を聞き、魚までの距離や大きさなどを知ることができる。
そこで、私はアマゾンカワイルカの水中行動を明らかにし、彼らの保全に役立てようとこれまで研究を行ってきました。見えない水中行動を調べるために、私はアマゾンカワイルカの音声を使うことにしました。イルカの仲間はエコーロケーションで周囲を探索するために、クリックスと呼ばれる超音波を常に発しています。この音声を複数の水中マイクに同時に録音し解析することで、水中でのイルカの位置や行動を知ることができます。これまでの研究で、アマゾンカワイルカは昼間には浸水林近くの浅い場所に、夜間には深くて流れのゆるやかな場所に集まってくることなどがわかってきました。
それでもアマゾンカワイルカの生態についてはまだまだわからないことが多く、たとえばいつどのように餌を食べているのか、親子やオスメスがどうやってお互いにコミュニケーションをとっているかなどは今後の課題として残されています。これからもアマゾンカワイルカの音声を手がかりに彼らの水中行動の解明に取り組んでいきたいと思っています。




イルカの種類や録音したい音によって何種類も使い分けます。

水の中でも接着力が弱まらないので便利。調査には必須。

ビニールテープよりも強くとめたいときに。ビニールテープと結束バンドがあればだいたい機材のセッティングはできる。
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