糞からわかるヒョウの獲物
仲澤伸子

オスヒョウ(パズー)

メスヒョウ(サン)
わたしは東アフリカのタンザニアにあるマハレ山塊国立公園というところでアフリカヒョウの調査をしています。ヒョウは肉食動物なので、近づくことは決して安全ではありません。夜の森を歩くとまれにヒョウとおぼしき動物に遭遇することがありますが、ヒョウがこちらをじっと見つめて警戒しているのに近づくことはできませんし、懐中電灯の光をあて続けることもためらわれます。そこで、ヒョウの直接観察は行わず、森の中を歩き回って、ヒョウの糞を拾って洗い、中に含まれている骨や毛、さらにDNAの分析をすることで、森林に生息しているヒョウがどんな動物を獲物とするのか、その食性を探ろうとしています。

糞の中のヤマアラシの毛

サバンナモンキーの毛

ブッシュバックの毛
ヒョウは獲物をかなりざっくりと噛み砕いて飲み込むらしく、彼らの糞からは消化しきれていない獲物の骨や毛がたくさん出てきます。ヒョウの内臓はよほど頑丈なのか、糞の中からは、20cmほどの霊長類 注1 の尾が端から端までまっすぐに埋まっていることや、霊長類の肢の手首から先がそのまま出てくることがあります。また、とても先が鋭く危険なヤマアラシの針もバキバキに割れた状態で糞の中から出てきます。ヤマアラシはこの針で捕食者から身を守っていると言われていますが、ヒョウはお構いなしに食べているようです。このように分かりやすいものもありますが、通常糞に入っているのは大量の毛や骨のかけらです。これらのすべてを同定に使えるわけではありません。骨の場合、歯、指骨、または肢の骨の関節部分であれば、その形から動物種を知ることができます。毛は、顕微鏡でキューティクルの模様と断面の形を観察し、種の同定を行います。霊長類の毛のキューティクルは波のような形で、波形と波形の間がところどころつながっています。一方、ウシ科のブッシュバックなどははしご形の模様をしています。こうした情報から、ひとつひとつの糞の中身を解析しています。
今までの調査から、マハレのヒョウはダイカーやブッシュバックといった地上性のウシ科の動物だけでなく、樹上性の霊長類も食べていることが分かってきました。ヒョウは地上で狩りをするとされています。樹上を移動する霊長類を捕食するのは至難の業でしょう。いったい彼らはどうやって霊長類を捕食しているのでしょうか。これからもいろいろな方法を模索しながら、彼らの食性を探っていきたいと考えています。
注1)霊長類:ヒトやチンパンジー、ニホンザルといったサルの仲間の総称





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