ワカケホンセイインコのねぐら集団  --飛来と飛立ちのプロセス--

大場 弘之

ワカケホンセイインコは,アフリカからアジアにかけて広く分布するセネガルホンセイインコの亜種で,インド南部スリランカ原産のオウムの仲間である.日本には,ペットとして輸入されたのだが,日本の三大都市圏で野生化していることが報告されている.この鳥は,昼間は小規模な群(採食群)に分散して採食しているが,日没直前になると,特定の樹木に何百羽と集まり大集団を形成して眠る習性を持つ(集団ねぐら).その最大のものが東工大大岡山キャンパスにある.しかし,集団ねぐらを形成する意味やその過程はほとんどわかっていない.そこで,本研究では,ねぐらに飛来する集団(飛来群)とねぐらから飛立つ集団(飛立ち群)の形成とねぐら内での行動に注目し,集団ねぐらの形成と分散のプロセスを明らかにすることを目的に調査を行った.

 

(方法)

調査は大岡山キャンパス南2号館の近くの銀杏の木をねぐらとしている集団で行った。ねぐらに使われている樹木にビデオカメラを向け,そのビデオと目視による観察をもとに,同じ飛来群や同じ飛立ち群の各個体がどうのように行動するのか追跡した.

(結果と考察)

観察によると,飛来群は採食地とねぐらの中間にあるいくつかの中継地点で、複数の採食群が次々に集合することによって形成されることがわかった.飛来群,飛立ち群,採食群の平均群サイズを示したグラフ1を見ると、飛来群は採食群の約3倍、飛立ち群は飛来群に比べると小さく,採食群の約2倍となっている。どちらの群も、複数の採食群の集合体であるようだ。

次に,同じ飛来群,同じ飛立ち群の構成員の寝場所が,ねぐら内でどのように分布しているのかを調べた.同じ飛来群,同じ飛立ち群の個体の寝場所をそれぞれプロットしてみると,どちらもかたまって寝ている.そこで,就寝時の平均個体間距離と平均最短個体間距離を見てみると(グラフ2),飛立ち群の構成員の方が,飛来群よりかたまって寝る傾向があることがわかった.これは,どちらの群も複数の小さな核となるサブグループから形成されていることを示唆しているが,それが採食群かどうかは明らかになっていない.観察では、同じ飛来群で飛来した3羽が、翌朝同じ飛立ち群で飛立った例があり、サブグループの存在を支持している。

集団ねぐらを形成する理由としては,捕食者からの防衛説のほかに,採食場の情報センター仮説がある。これは、いい採食地を知っている個体に、採食の下手な幼鳥や、前日にあまり採食できなかった個体がついて行く、というものである。この説では先導個体の存在が必要だが、その個体の有無や、飛立ちの集団行動を促す合図(鳴声など)の有無については、現在調査中である。


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