ニワトコの微細構造に関する研究

平田瑞絵   指導教官 幸島司郎 助教授

身近な植物にもまだ機能の分からない微細構造が数多く存在し、多くはその存在さえ認識されていない。近年、そのような微細構造の多くには生態的機能があるのではないかと注目されるようになったが、その実体はほとんど明らかにされていない。そこで本研究では、そのような微細構造の機能を明らかにするために、日本に自生するパイオニア植物であるスイカズラ科のニワトコ(Sumbucus racemosa L.subsp.Sieboldiana Hara)を対象に、どのような微細構造が、いつ、植物体上のどこに現れるか、また、成長や季節によってそれらがどのように変化するかを調査した。

調査の結果、ニワトコには、それぞれ形状や分布の異なる3種類の花外蜜腺(小葉蜜腺、茎蜜腺、葉軸蜜腺)と3種類の毛状微細構造(柄付き腺点、毛状構造、針状構造)が存在することが始めて明らかになった。また、複葉の葉軸には、内部に毛状微細構造が集中した深い溝状の構造(溝構造)が発達している事実も新たに判明した。

3種類の花外蜜腺では、それぞれアリ等の昆虫が分泌物をなめる行動が観察された。したがって、これらの微細構造にはアリ等を利用した対捕食者防衛機能がある可能性が高い。また、成長に伴って現れる花外蜜腺の種類が異なることから、3種の花外蜜腺間で機能する時期が異なることが示唆された。柄付き腺点は、長さ0.0050.1mmの柄の先端に、粘性分泌物を含む直径0.050.1mmの球状組織がついた毛状微細構造で、小葉表面や葉軸の溝構造内部、若い茎上に分布する。毛状構造は長さ0.10.4mm の細長い微細構造で、分布や成長による形態変化から、柄付き腺点が変化したものであることが示唆された。針状構造は直径0.04mm高さ0.080.2mmの円錐形毛状微細構造で、小葉表面や葉軸の溝構造内部、若い茎上に分布するが、茎上のものは先端が重力方向に曲がっている。これら3種類の毛状微細構造は、複葉の葉軸にある溝構造の内部、特に小葉の付け根付近の溝構造内部に集中して分布していることが明らかになった。また、この溝構造の中ではハダニやフシダニの仲間が観察された。さらに、これらの微細構造は、葉やシュート、個体の成長に伴い、数や形態、分布が変化すること、密度や形態が個体によって大きくばらつくことなどが明らかになった。

以上の結果をもとに、ニワトコの微細構造の機能について考察する。



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