サンゴジュのドマティアとその中に住むダニについての研究

 池上 宇啓

植物の中には、葉の裏の主脈と側脈の分岐点に、ドマティアと呼ばれる小さな窪みをもつ種が多く存在する。ドマティアには、入口を毛で覆われているものもあり、形態は植物の種によって様々である。ドマティアの中にはダニが住みついていることが多く、植物によって生息するダニの種も異なる。ドマティアの機能は明らかにされておらず、植物にとっての生理学的な機能はないとされている。ダニには食植性、捕食性、食菌性などがあり、植物はこのうち捕食性、食菌性のダニをドマティアに生息させることによって、その植物に害をもたらす生物から身を守っているのではないかとも考えられている。ドマティアとダニの関係を調べるために、ある特定の種の植物について、ドマティア自体の形成過程やダニの生息状況を観察することが重要であると思われる。

そこで今回は、大岡山キャンパスにあるサンゴジュ(Viburnum odoratissimum Ker)のドマティアについて観察した。

まず始めに、ドマティアがどのように形成されるのかを観察し、そしてドマティアの形成と、葉の成長との関係を調べた。サンゴジュの葉には下図のように(12〜14本)側脈があるため、ドマティアが基部から先端まで側脈と同じ数だけ分布している。ドマティアが葉のどの部位にあるかによって、そのドマティアの形態、大きさ(直径、深さ)、毛の数が、どのように異なっているかを調べた。

ドマティアに生息するダニについては、ダニを卵、幼虫、成虫、色によって分類し、季節による変化と葉の上での分布を観察した。

全長2 cm 以下の葉ではドマティアは形成されておらず(A段階)、2 cm 〜4 cm になったところで窪みができ、ドマティアの入口に毛が生え始める(B段階)。その後葉の成長に伴って毛の数が増え、窪みの直径、深さとも大きくなり先端が主脈と側脈の下にもぐりこみ完成する(C〜E段階)。葉の基部から中央部にかけては先端部に比べドマティアの形成速度が速い。そのため最終的に、中央部ではドマティアがE段階まで成長しても、先端部ではA-C段階までしか成長しないので、中央部には直径、深さ、毛の数ともに大きいドマティアができ、先端部にはサイズが小さく毛も少ないドマティアができることがわかった。

ダニの利用状況としては、卵は基部から先端まで比較的一様に分布しているが、幼虫、成虫は中央部に多く、先端部には非常に少ないことが明らかになった。これは基部から中央部にあるドマティアでは、卵から成虫まで育つ割合が高く、先端部の不完全なドマティアは、ダニが成長する割合が低い、つまりドマティアがダニの成長を保護していることを示していると考えられる。

ダニの同定はまだ確かではないが、サンゴジュのドマティアでは赤系統のダニと、白、黄色系統のダニが観察されたので、その二種に分類した。白、黄色系統は、形態から判断して主に食植性のハダニ科のダニであると思われる。赤系統の中では、食植性のヒメハダニ科と、卵捕食性のナガヒシダニ科らしいダニが主に観察された。植物の葉に住むダニの中には冬季に休眠する種としない種があり、白、黄色系統のダニが、12月以降あまりみられないのは、休眠のためだと考えられる。赤いダニのうち卵捕食性のダニは12月以降には観察されておらず、食植性のヒメハダニ科らしいダニが12月以降に増えている。捕食性のダニが冬季に休眠し、そのため捕食者のいなくなった食植性の赤いダニが増えていると考えられる。またダニの他にカイガラムシが、一年を通じて観察された。

ドマティアは、植物にとって有益なダニを葉の裏に生息させるための構造と考えられている。しかし、大岡山のサンゴジュを観察した結果、植物に有益な捕食性のダニと共に、あきらかに植物に害になる食植性のダニやカイガラムシもドマティアを利用していることが明らかになり、一概にドマティアが植物とダニとの共生に役立っているとはいえないように思われる。ドマティアの機能を明らかにするためには、生息するダニの食性や生態についてさらに調査が必要である。今後の研究の成果に期待したい。


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