Published: August 10, 2022 / Updated: September 12, 2022
[2023年10月31日まで]クラウドファンディングに挑戦します
以下の研究成果が示すように、過去にC型肝炎の医学感染実験の対象になったチンパンジーは健康状態が悪化しています。熊本サンクチュアリに、そうしたチンパンジーたちが8個体います。ヒト用に開発された治療薬の投与によってチンパンジーも治る可能性がありますが、薬が非常に高価なため、これまでは治療できずにいました。

このたび、熊本サンクチュアリでは治療薬の購入のためのクラウドファンディング(募金活動)を開始することとなりました。 以下のURLよりプロジェクト概要がご覧いただけます。

【最終章】ウイルスの医学的実験を受けたチンパンジー みんなの治療へ
https://readyfor.jp/projects/ks_kyoto-u_3
目標金額:500万円 / 終了日:2023年10月31日(火)
皆様のあたたかいご支援をたまわりますようお願い申し上げます。

以下のクラウドファンディングは終了しました。ご支援いただいた皆様、誠にありがとうございました。
「ウイルスの医学的実験を受けたチンパンジーたちに、治療薬を購入したい」
https://readyfor.jp/projects/ks_kyoto-u_2
目標金額:400万円 / 終了日:2022年10月31日(月)

研究成果

チンパンジーの肝炎感染実験の影響 ― 寿命が短くなり肝臓や腎臓に障害

Hepatitis C virus infection reduces the lifespan of chimpanzees used in biomedical research

Satoshi Hirata, Kristin Havercamp, Yumi Yamanashi, Toshifumi Udono

要約
チンパンジーは過去数十年にわたって医学感染実験の対象となってきた。主な目的のひとつはヒトの肝炎治療のための肝炎ウィルス研究だった。本研究の目的は、過去にC型肝炎ウィルスの感染実験の対象となったチンパンジーの実験後の状況について報告することである。感染実験の対象となったチンパンジーと、対象にならなかったチンパンジーを含めて、計120個体の生存と死亡の記録、および健康状態について精査した。120個体のうち22個体が、医学実験によってC型肝炎ウィルスに持続感染となった個体だった。分析の結果、C型肝炎持続感染となったチンパンジーは、そうでない個体に比べて、早く死亡する傾向にあることが確かめられた。肝臓の病気が死因となった個体はいなかったが、血液検査でガンマGTPの値が上昇していることから、肝臓の状態は悪化していることが示唆された。本研究から、医学感染実験の対象になった個体の飼育ケアについて、一層の配慮が必要であることが示された。
1. 背景
1970年代以降、日本や欧米各国で、チンパンジーをモデル動物とした肝炎研究が盛んにおこなわれた。ただ、チンパンジーは絶滅危惧種であり、また必ずしもチンパンジーでの知見がヒトの肝炎治療には活かせないということもあって、やがてチンパンジーを対象にした肝炎研究はおこなわれなくなった。日本国内で複数の研究機関が肝炎研究のためチンパンジーを保有していたが、そうした医学研究をおこなう機関は2000年代初頭になくなった。 京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリは、過去に医学研究に使われたチンパンジーが余生を安らかに暮らすことを目的にした施設である。熊本サンクチュアリのチンパンジーの飼育の記録を整理し、健康診断の結果なども加味して、C型肝炎ウィルスの感染実験がチンパンジーの健康状態に及ぼす影響について調べた。
2. 方法と結果の概要

熊本サンクチュアリおよびその前身施設で飼育の記録があるチンパンジーを分析の対象とした。肝炎の実験歴の有無について信頼できる情報があり、かつ、持続感染 (体内に肝炎ウィルスが残った状態)の有無について血液検査から明確に区別できる個体のみを分析の対象とした。最終的に120個体のチンパンジーを分析対象とした。そのうち64個体は何らかの肝炎ウィルス(B型肝炎、C型肝炎、G型肝炎)の接種を受けたチンパンジーだった。残りの56個体は肝炎ウィルスの接種は受けなかった。22個体のチンパンジーで、C型肝炎ウィルスが体内に残ったまま(持続感染)の状態となった。

これらのチンパンジーの寿命に関する分析をおこなった結果、C型肝炎ウィルスの持続感染となったチンパンジーは、そうでないチンパンジーに比べて早く亡くなることが確かめられた。C型肝炎ウィルスの持続感染個体の平均生存年齢は38.0歳だったが、そうでないチンパンジーの平均生存年齢は48.9歳だった。

C型肝炎ウィルスの持続感染の有無による生存時間の差
C型肝炎に持続感染したチンパンジーの中で既に亡くなった14個体のうち4個体は腎臓の病気が死因だった。C型肝炎ウィルスがチンパンジーにおいて腎臓に悪影響を及ぼしている可能性が考えられる。また、C型肝炎に感染したチンパンジーは血液検査のガンマGTPの値が総じて非常に高く、肝機能も低下していることが示された。熊本サンクチュアリでいまも暮らしているC型肝炎持続感染チンパンジーが8個体いるが、血液の凝固障害があるなどの問題が出ている例も複数あり、手厚い支援が必要となっている。
C型肝炎ウィルスの持続感染の有無による血液検査のガンマGTP値の差
3. 波及効果など

肝炎研究にチンパンジーがどれほど貢献したのか、その評価は研究者の間でも分かれる。C型肝炎ウィルスの解明にチンパンジー研究が役に立ち、ヒトの肝炎治療の発展に貢献したという見解がある一方、チンパンジー対象の研究から判明したことは少なく、不要だったとする意見もある。いずれにしても、チンパンジーはヒトに近く絶滅危惧種であるという点から、チンパンジーをモデル動物として医学感染実験に用いることは倫理的に不適切であるというのが現在の主流の見解であり、世界的にもそうした研究はおこなわれなくなった。ただ、医学研究は停止したが、過去に医学実験に使われたチンパンジーたちの多くは欧米や日本で今も生存している。彼らの現状を正しく把握し、できるだけ余生を安らかに暮らしていけるようにするにはどうするべきか、国際的な議論が必要だと考えられる。

4.今後の予定

C型肝炎感染チンパンジーの治療費獲得のためのクラウドファンディングを始める計画をしています。近年の医療の進歩によって、C型肝炎を治療する良い飲み薬が開発されてきました。ヒトでは、こうした治療薬の服用によって、かなり高い割合でC型肝炎は治療可能となっています。チンパンジーでも、ヒト用の治療薬の投与によって、体内のC型肝炎ウィルスを消失させることができると考えられます。そうした治療によって、8個体のC型肝炎ウィルス持続感染のチンパンジーたちのこれ以上の健康状態の悪化を防いだり、健康な状態に戻したりできることが期待できます。

ただし、治療薬が非常に高価であることから、これまでチンパンジーのC型肝炎の治療はできないでいました。ヒトであれば保険が適用されますが、チンパンジーは保険適用できないため、治療薬の購入費用を全額負担する必要があります。

このクラウドファンディングにご関心のある方は、こちらからメールアドレスの登録をお願いします。メールアドレスをご登録いただいた皆様に、クラウドファンディングを開始できる状態になった時にご案内を差し上げます。

Article Information
Hirata, S., Havercamp, K., Yamanashi, Y., & Udono, T.(2022)Hepatitis C virus infection reduces the lifespan of chimpanzees used in biomedical research Biology Letters