Published: October 16, 2021
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創始者社会性仮説は、動物が新しいニッチに進出する際の長期的な社会変化を説明する

The founder sociality hypothesis

James Brooks, Shinya Yamamoto
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創始期社会性仮説の概要図

京都大学野生動物研究センター James Brooks 博士課程学生、同高等研究院(兼:野生動物研究センター) 山本真也 同准教授らによる新しい研究では、動物集団から分かれた少数個体が未開拓の生息地に進出することによって社会性に大きな変化がみられ、そのことが社会行動の進化に重要な影響を与えるという仮説を提唱しています。これを「創始者社会性仮説」と呼んでいます。進化生物学者によく知られている創始者効果は、小さな創始者集団に生じる可能性のあるランダムな遺伝的偏りを強調するものですが、新しい仮説は、新しい生息地での個体群の確立に伴う社会的変化に焦点を当てています。集団が新しい生息地に進出する際、最初は資源が豊富で、明確な縄張りや確立された集団がない場合、見知らぬ個体と出会い、争うことなく新しい資源を利用することに長けた個体が最も成功すると考えられます。このようにして初期の社会動態が変化した結果、次の世代は新しい生息地の環境や生態に適応するだけでなく、この新しい社会動態に適合する能力を持つようになります。時間が経つにつれ、元集団と新しい創始者集団の間に大きな社会的差異が生じる可能性があります。 本研究成果は、2021年10月16日に国際学術誌「Ecology and Evolution」にオンライン掲載されました。

今回の研究では、このような影響を経験したと考えられるイヌ、ボノボ、ザンジバル島のアカコロブスの3種に焦点を当てています。これらの種でみられる各種社会動態の類似性を明らかにしたうえで、近縁種との違いを指摘し、これらの違いは生息地の拡大の結果である可能性を示唆しています。また、創始者社会性仮説から予測されるように、これらの種は近縁種に比べて、重複したテリトリー、移籍する性別個体に特異的な高い親和性、および高い社会的寛容性を持っていることを指摘しています。初期のイヌはヒトの居住地に進出してヒトからの食料資源を利用し始めました。ボノボの祖先はコンゴ川を渡って競合相手がいない生息地に入りました。ザンジバル島のアカコロブス集団は、元々の森林の生息地から離れて新たな食料資源が得られる香辛料農場に進出しました。それぞれが新たに利用可能な生息地に渡ったことで、新しい個体群を確立するための社会的力学が長期的な変化をもたらすと考えらます。

この研究は、初期の人類が経験したであろう生息域の拡大とそれに伴う社会性の変化を議論するうえでも非常に示唆に富みます。この仮説を検証するためには、今後、北米のコヨーテや島嶼部の個体群など、新しい環境に進出する際に同じ効果を経験する可能性のある現生種を対象に詳細な調査をおこなう必要があります。この創始者社会性仮説を統合的進化論の延長線上に位置づけることで、ヒトを含む動物の社会性の進化に関する新しい知見が得られることが期待できます。

参考図表
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創始者社会性仮説に適合すると考えられる3種:ボノボ、イヌ、ザンジバル島のアカコロブス
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写真左から、ボノボ(山本真也撮影・ワンバ村、コンゴ民主共和国にて)、イヌ(山本真也撮影)、ザンジバル島のアカコロブス(James Brooks撮影)
Article Information
Brooks, J., & Yamamoto, S.(2021)The founder sociality hypothesis Ecology and Evolution 10.1002/ece3.8143
京都大学ウェブサイト内「最新の研究成果を知る」で紹介されました:
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-10-29-0