Homeプロジェクト概要現在進行している研究

アマゾンマナティーの行動生態の研究

1.チームメンバー

日本

菊池 夢美 研究員 (京都大学 野生動物研究センター)

ブラジル

Diogo A de souza (INPA)
Vera da Silva 博士 (INPA)

2.研究の背景

アマゾンマナティーは海牛類マナティー科に属する草食性の水生ほ乳類で,アマゾン川の固有種です.海牛類はジュゴン科とマナティー科の2科から成り,マナティー科はアマゾン,アフリカ,アメリカマナティーの3種があり,いずれも絶滅の危惧される希少種です.特にアマゾンマナティーは過去に乱獲が続いた歴史があり,個体数が激減しました.しかし,アマゾン川の広大さや,茶褐色に濁った水質,マナティーの臆病な性質によって,その調査は非常に難しく,アマゾンマナティーの生態は未だ明らかとなっていません.

3.研究の目的・方法と期待される成果

私たちは,保護されたアマゾンマナティーを再び野生へと戻す放流事業に参加しており,放流後のマナティーを詳しく調べることで,自然環境下での摂餌を含む各種行動の研究を進めています.私たちは,動物の体に行動を記録する機器を装着して,彼らの動きを調べるバイオロギング手法を使って研究を行っています.特に,摂餌行動については,マナティーが餌植物を食べる音を記録して,その音から摂餌行動を特定する方法を開発しています.マナティーの放流では「ソフトリリーシング」を実践しており,飼育環境から半野生の環境へとマナティーを移動させて,しばらく慣れさせてからアマゾン川へと放流します.

4.フィールドミュージアム構想に対するインパクト・貢献

年々増加している保護個体への根本的な対策として,放流事業の改良が必要です.そのために,私たちは放流後のマナティーの行動を詳しく調べています.そしてこの放流事業によって,絶滅の危惧されているアマゾンマナティーの個体数回復への貢献が期待されています.また,この放流事業によって初めて自然環境下でのマナティーの行動研究が可能となっており,これまで未知であったアマゾンマナティーの生態を把握することができます.得られた情報は,フィールドミュージアムのコンテンツとしてマナウス市民への教育プログラムとして利用されます.

5.人材育成面でのインパクト・貢献

私たちの研究では,摂餌音から摂餌行動を特定する新しい手法の開発も進めています.共同研究によって,このような新しい手法を共有し,今後,他の地域や国でも応用されることが期待されます.そして,マナティーをアマゾン川に放流するときには,その地域に暮らす人々にマナティーに関する正しい知識を伝える啓発活動も行なっています.一方で,元マナティー漁師たちの協力を得て調査を行うことで,彼らの経験豊かな知識を共有し,今後の研究に役立てています.このように,お互いに情報を共有して協力し合うことで,地域の人々の保全に対する意識が高まり,それを進めてもらうことこそが,実質的な保全対策になると期待されます.

写真1. 白濁したアマゾン川の半野生湖にいるアマゾンマナティー.呼吸で水面に浮上しているが,鼻の穴あたり以外は見えにくい.

写真2.行動記録装置を吸盤で装着した様子.

写真3.アマゾン川に生える浮き草類の様子.ウォーターヒヤシンス,ウォーターレタスを始め,さまざまな浮き草類を摂餌することが知られている.