2012年5月15日,熊本サンクチュアリに3人のチンパンジーがやってきました。

- 仲間と暮らすための努力についての報告 -
2012年5月15日、熊本サンクチュアリに新しい仲間がやってきました。
ムサシ、ショウボウ、キャンディーの3人です。
彼らは、アカンボウの時に日本に連れてこられて、およそ30年間、一人で屋内の小さな檻の中で暮らしていました。 30年ぶりの青空、30年ぶりの地面、30年ぶりの大げんか。30年のブランクを取り戻すのは大変です。 これから沢山のことを学んでいかなければなりません。

そんな3人の、チンパンジーらしい暮らしを取り戻すための努力の様子を報告します。

2012.05.15 - 2012.06.30

The 2nd day3人が部屋に出ました
2012.05.16
3人は元気にしています。餌も完食しています。
今日は計画通り、朝から麻酔下で部屋備え付けのケージに移し、午後から部屋へ出しました。
キャンディーもムサシも、静かにゆっくり部屋を探索し、消防ホースや木製ベンチなどを調べていました。ショウボウはヒトへの依存心が強いのか、フェンス越しにヒトの方ばかり見て、ヒャーヒャーと甘えた声を出し続け、部屋の探索は出来ませんでした。(下写真)
キャンディーは今夜から、部屋暮らしを始めます。ショウボウとムサシは、夜間はケージ、昼間は部屋で過ごすことになります。
誰もまだフェンスや消防ホースを「登る」という行動ができていません。ハンモックもベッドも、使うのにはまだ暫くかかりそうです。
(文:鵜殿俊史)
チンパンジー キャンディー
チンパンジー ムサシ
チンパンジー ショウボウ
The 7th dayキャンディーが屋外に出ました
2012.05.21
今日の午後3時、キャンディーを屋外運動場に出しました。
しばらくは戸惑っていましたが、ゆっくり周囲をチェックしながら、前面フェンスまで出てきてくれました。野イチゴを食べる余裕は無かったようですが、地面に座り周囲の草を折り敷いてベッドメーキングをしてくれました。これはなかなか飼育下のチンパンジーでは出来ない行動で、キャンディーにしっかり野生味が残っている証拠です。
キャンディは、明日から毎日、日中は屋外で暮らします。
ムサシ、ショウボウも今日は屋外に面する窓を開放しました。植栽や有明海が見えたはずですが、毛を逆立てて見回すものの、余り大きな反応はありませんでした。 オスは見知らぬ環境に行くと、気配を消して先住者に存在を知られないようにします。ムサシ、ショウボウは、息を殺し、足音を立てずに歩いています。まだ緊張感が強いようですね。
ムサシとショウボウの同居をそろそろ始めようと思っています。
(文:鵜殿俊史)
チンパンジー キャンディー屋外に出る
チンパンジー とまどうキャンディー
チンパンジー キャンディーのベッドメーキング
チンパンジー ムサシ外を見る
チンパンジー ショウボウ外を見る
The 15th day
2012.05.29
ムサシ、ショウボウは昨日からお見合いをしています。
ショウボウはムサシが好きでどんどん近寄っていくのですが、ムサシは緊張し戸惑っているようです。神経質なムサシと脳天気なショウボウでうまくかみ合いません。
キャンディは、時々高いところまで登ることがあるようですが無理な冒険はしません。インドア派なのか涼しい屋内の方が好きなようです。まだまだ肌が真っ白ですね。
3人とも、肉体的にも精神的にもまだリハビリが必要です。
これからどの様に変わっていくか、見るのがとても楽しみです。
(文:鵜殿俊史)

チンパンジー ムサシ、ショウボウ見合い(05/28)
チンパンジー ショウボウを威嚇するムサシ(05/29)
チンパンジー 駆け寄るキャンディ(05/29)
The 22nd dayショウボウ、ムサシ、外に出て同居しました
2012.06.05
今日の午後、ムサシ・ショウボウを初めて屋外運動場へ出し、同時に二人の同居を行いました。不慣れな環境では、顔見知りを頼り合う心理を利用した同居方法です。
チンパンジー ムサシ初めての一歩
初めてムサシが屋外に出た瞬間です。恐る恐る周囲を見回し、ゆっくり周りを調べ始めました。
チンパンジー 空を見るムサシ
驚いたのか口が開いています。
チンパンジー やっと出てきたショウボウ
雨が嫌だったのか、ミカンで誘導し、やっとショウボウが出てきました。よたよた歩いた後、座り込んでキャーキャー鳴き始めました。
チンパンジー ムサシ、ショウボウ初接触
ショウボウに気付いたムサシがショウボウに接近。
チンパンジー 威嚇するムサシ
ムサシは肩をいからせ立ち上がり、ショウボウを威嚇しました。この威嚇はこけおどしにすぎず、普通なら直後に抱き合ったり、お尻をチェックし合ったりするのですが・・・
チンパンジー 威嚇し返すショウボウ
なぜかショウボウは威嚇し返しました。面食らったムサシは走り去り、
チンパンジー とまどうムサシ
なんだあいつは?という表情。
チンパンジー 全くかみ合わない二人
二人はお互いに自分の方が偉いと思っているようで、歩み寄りが全くありません。敵意はないのですが、ムサシは警戒心を解きません。
チンパンジー ディスプレイしあう二人
目を合わせず虚勢を張り合い、何度か同時にディスプレイ(誇示行動)しました。
チンパンジー 帰りを急ぐ二人
二人が距離を取ったまま動きがないので、同居練習は終了しました。扉を開くとムサシはショウボウを押しのけ帰って行きました。最も二人が接近した瞬間でした。
ムサシは神経質で他個体との付き合い方がやや不器用なようです。ショウボウはトンチンカンで、まるで子供です。残念ながら今日の所は、大きな進展はありませんでした。彼らには仲人役の第3者が必要かもしれません。
(文:鵜殿俊史)
The 23rd dayムサシ、ショウボウの同居練習
2012.06.06
再度ムサシ、ショウボウを屋外放飼場へ出して、同居の練習をしました。
やはりムサシはショウボウが気に入らないらしく、出会うといきなり追いかけ始めました。鳴きながら、涎を垂らしながらの追跡なので迫力に欠け、ショウボウは余裕で逃げ続けました。暫く追いかけ回し、息切れして一休み、また追いかける。これを何度か繰り返した後、ショウボウが振り返りざま「いい加減にしろ!」と一発お見舞いししました。それでムサシは戦意喪失しました。
オスのチンパンジーのもめ事で、相手を捕まえ損なう事、鳴いてしまう事は、負けと同じ意味があります。今回はショウボウの完全勝利でした。
その後一度、ショウボウがムサシに後ろから抱きつき、和解しようとしたのですが、ムサシは怖かったようで、受け入れませんでした。
その後はお互いに少し距離を取りながら、日光浴やフィーダーのチェックをしていました。
(文:鵜殿俊史)

チンパンジー 必死なムサシ
チンパンジー いい加減にしろ!の一撃
チンパンジー 仲直りのハグは失敗
チンパンジー 日に当たるムサシ
チンパンジー フィーダーをチェックするショウボウ
The 29th dayムサシ、ショウボウの同居: 共通の敵作戦1日目
2012.06.12
少し間が空きましたが、今日のムサシ、ショウボウの同居の結果をお知らせ致します。
実は先週末、我が儘なムサシがショウボウにちょっかいを出して、怒ったショウボウに背中を咬まれるという事件がありました。毛が少し抜けただけですが、これでムサシはショウボウに近づかなくなり、それ以来二人の交渉が無くなってしまいました。
そこで今日は隣の運動場に、性格の穏やかなシロウと無害なジョージを出して、二人を刺激してみました。「共通の敵作戦」と呼んでいる群れ作りでよくやる手法です。
放飼直後、少し牽制し合っていたムサシとショウボウですが、隣にシロウ、ジョージの姿が見えた途端、悲鳴を上げながら抱き合いました。特にムサシは、ショウボウの足にしがみつき悲鳴をあげていました。お互いにお尻をチェックする姿も確認できました。思惑通りでした。
やっと距離が縮まり、安心しました。
時間がたつと、ショウボウは隣のシロウに対し友好的な態度を示していましたが、ムサシはシロウから距離を取ったままでした。二人の社会性の違いは明らかで、ショウボウはシロウとすぐにでも同居できそうですが、ムサシには無理そうです。ムサシはなかなか難しい個体だということが判りました。
(文:鵜殿俊史)

チンパンジー 牽制し合う二人
チンパンジー フェンス越しの対面
チンパンジー 抱き合う二人
チンパンジー お尻をチェックし合う二人
The 30th day共通の敵作戦2日目
2012.06.13
今日も共通の敵作戦を行いました。経過は昨日と全く同じでした。
二人が鳴きながら励まし合う姿が、連続写真(下写真)で撮れました。
順に見ていくとパラパラ漫画のように動きが見えてきます。二人は一緒に居ることに全く抵抗がなくなったようです。
お楽しみ下さい。
明日は、ショウボウとシロウの同居を試してみます。
(文:鵜殿俊史)

チンパンジー チンパンジー チンパンジー チンパンジー チンパンジー チンパンジー チンパンジー チンパンジー チンパンジー チンパンジー チンパンジー チンパンジー チンパンジー チンパンジー チンパンジー
The 31st dayショウボウとシロウ、ジョージを同居させました
2012.06.14
これまでのフェンス越しの対面の様子から、シロウはショウボウに友好的だと思われましたので木曜日(14日)、
この二人の同居に踏み切りました。
シロウは見知らぬ個体にも非常に寛容で、過去の群れ作りで重要な役割を演じてきました。非常に小柄ですが、自分の2倍の体格の相手に脅されても、怯まず立ち向かう勇敢さも持っています。万一ショウボウが攻撃的に振舞っても、シロウなら大丈夫という確信がありました。
チンパンジー 突然の取っ組み合い
格子越しにしばらく対面し落ち着いたころ、ショウボウがいる運動場にシロウを出しました。するといきなりショウボウはシロウにとびかかり、一瞬取っ組み合いになりました。シロウは耳をかじられ皮が少し剥けていました。ショウボウは鉄パイプの角にぶつけた後頭部が真っ赤になりました。幸いどちらにも犬歯傷はありませんでした。
チンパンジー ペニスを見せるのは和平のしるし(左シロウ)
その後ショウボウは、興奮した面持ちでうろうろ歩き回っていましたが、シロウはショウボウの攻撃を全く気にする様子を見せず、ショウボウの前に回り、うなずき、歯を見せ、勃起したペニスを見せ、手で呼び寄せ続けました。言葉に置き換えれば、「僕は敵じゃないからおいで、仲良くしようよ」という意味です。
チンパンジー ついに座り込みごめんなさい(右ショウボウ)
ショウボウはやはりシロウが怖かったのでしょう。シロウを避け歩き回っていましたが、シロウは諦めず、しつこく、しつこくショウボウを宥め続けました。そしてついに、ショウボウは座り込み口を大きく開けて歯を見せました。ショウボウの降参です。
チンパンジー ヒシと抱き合う二人
この瞬間を待っていました。説明は不要でしょう。
チンパンジー チンパンジー チンパンジー
一旦顔を見合わせ(左写真)再度抱き合う(中央写真)グルーミングで友達宣言(右写真)
できれば、新入りのショウボウからシロウにグルーミングしてほしかったのですが、その辺の社会経験がショウボウにはまだ足りません。ショウボウにとっては、おそらく29年ぶりのグルーミングだったでしょう。
チンパンジー ジョージ(左)と気が合うショウボウ(中央)
二人が落ち着いたころ、さらにジョージを加えました。ジョージは、絶対他者には危害を加えない平和主義者で、初対面でも相手を緊張させない特異なキャラクターを持っています。群れ作りでは、もめごとを起こさない安牌です。驚いたことに、ショウボウとは気が合ったようで、すぐに遊び始めました。上の歯を見せず口を開けるのがチンパンジーの笑い顔です。
チンパンジー 笑いながら叩き合い
あはは、と笑いながらお互いをポカポカ叩き合う、変な二人です。
チンパンジー 似た者同士?
口の締りの無さやトンチンカンな行動など、この二人には共通点が多いようです。今後同居数を増やしていく時に、ショウボウにはかばってくれる仲間が必要です。ジョージは一番の親友になってくれるかもしれません。
今回の群れ作りでは、いきなり取っ組み合いをさせてしまいました。事前に考えたほどショウボウは平和主義者ではありませんでした。最終的にうまく収まってくれたのは一重にシロウのお陰です。

当面はこのショウボウ、シロウ、ジョージの同居を続けます。
神経質なムサシには、格子越しに彼らの行動を見学させて、恐怖心が薄れるのを待つ予定です。
(文:鵜殿俊史)
The 36th day6月19日のムサシ、ショウボウ、キャンディー
2012.06.19
ショウボウは、先日のシロウたちとの同居以来、夕方の1時間だけ同じ組み合わせで同居訓練を続けています。
一旦は抱き合ったり遊んだりしたものの、ショウボウには警戒心が残っているのか、遊び方が判らないのか、シロウとジョージとは余り接触したがりません。シロウたちが熱心に1時間働きかけ続けて、一回だけグルーミングがあるという感じです。それ以外は距離を取って歩き回っています。
見ていてじれったいのですが、焦らずゆっくり慣れて行ってくれれば良いと考えています。
群れ作り以外の時間、ムサシとショウボウは屋内で同居しています。これも距離を取ったままですが、お互いにそばに居ることには慣れてきています。もめ事は減り、遊ぶそぶり(顔を突き合わせ足をトントン踏みならす)も時々見られます。
キャンディ-は、昨日から格子越しにオスのブラックとお見合いを始めています。初めはしきりにパント(ハッハッと息を吐く様な挨拶)して友好的な雰囲気でしたが、後ではブラックに唾を吐きかけていました。なかなかのお転婆ですね。
今日改めて、3人の写真を1ヶ月前と見比べましたが、ムサシ、ショウボウは少し肉付きが良くなったようです。お腹も出てきました。キャンディーは少し黒くなった気がします。シェイプアップの効果は出ているでしょうか?
(文:鵜殿俊史)

チンパンジー ムサシとショウボウ(06/18)
チンパンジー キャンディー(06/19)
チンパンジー ショウボウがジョージとぐるぐる回り(06/19)
チンパンジー ショウボウがシロウとグルーミング(06/19)
The 45th dayムサシとジョージが同居しました
2012.06.28
今日、ムサシとジョージを同居させました。
このところ雨続きで、群れ作りも思うように進められませんでした。
ムサシとショウボウは、毎日屋内で同居していますが、相変わらず喧嘩を繰り返しています。餌を取られたと思い込んだり、調子に乗って投げたポリタンクが相手に当たったりと、原因は様々ですが、いつも決まって怒ったムサシが泣きながらショウボウを追いかけ、逆に背中を咬まれて負けるというパターンです。
そんなムサシなので、「超」がつくほど平和主義のジョージしか相手は出来ないだろうと判断し、格子越しのお見合いの後運動場で同居に踏み切りました。
チンパンジー 泣きながらジョージを追うムサシ
予想通り、ムサシはいきなりジョージを泣きながら追いかけ始めました。ジョージは驚き逃げながら泣き声を上げます。まるで子供の喧嘩です。チンパンジーのオスの闘争を見ると私たちでも青ざめるものですが、彼らの喧嘩にはつい笑ってしまいました。
チンパンジー 息が上がり疲れ果てたムサシ
3分ほど追いかけると、息が上がり疲れ果てて座り込みます。
チンパンジー またジョージを追うムサシ
しばらく休憩し、体力が回復したらまた泣きながら追いかけ始めます。体力に勝るジョージは、徐々に余裕が出てきたようです。
そんな追いかけ合いを4~5回繰り返した時、ついに温和なジョージも怒りました。
チンパンジー 怒ったジョージに組み伏せられるムサシ
ジョージが、追ってきたムサシを組み伏せ、背中に強く歯を当てました。「もう許さん!」と怒ったジョージは逃げ出したムサシにずんずん迫っていきました。
チンパンジー 迫るジョージについに降参のパント
何度かジョージにお仕置きされたムサシが、ついに歯を見せ「ハッハッ」とあえぐような息を吐きました。パントと呼ばれるチンパンジーの挨拶で、降参の意思表示です。
チンパンジー アハハと笑いレスリング
ジョージもこの瞬間を待っていたのでしょう。雰囲気は一転し、すぐにもつれ合ってレスリングを始めました。「ガハハハ」という笑い声が聞こえます。
チンパンジー ムサシの笑顔(ちょっと引きつっている?)
やっと撮れたムサシの笑い顔ですが、ちょっと引きつっているように見えます。楽しさ半分、怖さも少しあるかもしれません。
チンパンジー 擦りむき傷だらけのムサシ
(お尻の傷はショウボウによるものです。)最初から遊んでくれればいいのに、とつい思ってしまいます。ムサシも今日は疲れたことでしょう。
やっとムサシが遊んでくれました。しばらくはジョージとの同居を繰り返し、友情を深めてもらおうと思います。今日の様子なら、ムサシ、ショウボウ、ジョージの同居は早い時期に実現できるかもしれません。
(文:鵜殿俊史)