雪氷微生物の雪氷面アルベド改変効果
氷河,雪渓を覆う汚れ物質は,なぜ黒い色をしているのか?
○竹内望,幸島司郎(東工大)

Biotic albedo reduction of glacier surface by microbes
Dark coloring process of mud-like material covering glacier surface
Nozomu TAKEUCHI, Shiro KOHSHIMA

氷河や雪渓の表面を覆う黒い汚れ物質は,氷河のアルベドを低下させ,氷河の融解を促進する効果があることが明らかになっている.この汚れ物質には藻類やバクテリアなどの雪氷上で繁殖する微生物が多量に含まれていることから,この汚れ物質は生物活動によって生産,形成されている物質であると考えられている.この汚れ物質は,真っ黒な色をしている.この黒い色は,アルベド低下に大きく貢献している.ではなぜ汚れ物質はこのような黒い色をしているのだろうか?本研究では,汚れ物質が暗色化する機構を明らかにするために,ネパールヒマラヤ,ヤラ氷河上の汚れ物質の光学的特性の分析と暗色有機成分の分析を行った.

汚れ物質と,有機物を取り除いた汚れ物質(すなわち鉱物粒子)のスペクトルアルベドを比較した結果,有機物を含む汚れ物質のほうが,アルベドが0.11 - 0.15低いことが明らかになった.このことは,汚れ物質の暗色の原因は有機物であることを示している.汚れ物質中の有機物には,土壌の暗色の原因物質である腐植物質が含まれていることが明らかになった.このことから,氷河の汚れ物質は,この腐植物質によって暗色化しているものと考えられる.この汚れ物質と,汚れ物質の主な供給源と考えられる大気降下物とで,スペクトルアルベド,腐植物質の量,特性を比較した結果,汚れ物質は大気降下物に比べて暗色でアルベドが低いこと,汚れ物質に含まれる腐植物質は,大気降下物よりも量が多く,腐植化が進んでいることが明らかになった.これらの事実は,汚れ物質は,氷河上で腐植物質が形成されることによって黒い色になったことを示唆している.腐植物質は,有機物がバクテリアに分解された際に残る非分解性の高分子化合物とされている.汚れ物質には,氷河上の藻類の光合成によって生産された有機物が大量に含まれていること,汚れ物質中の粘液状の有機物や藻類とともにバクテリアが存在していることが明らかになっている.したがって,以上の結果は,氷河の汚れ物質が暗色化は,氷河上での藻類生産物などの有機物が,バクテリアの活動によって腐植物質に変換されることにより引き起こされていることを強く示唆している.

ヤラ氷河以外のヒマラヤ氷河,北極,チベット,日本アルプスなどの氷河,雪渓の汚れ物質の特性を分析,比較した結果,汚れ物質のスペルトルアルベドは,氷河によって異なることが明らかになった.この汚れ物質のアルベドは,汚れ物質に含まれる腐植物質量と相関があった.このことは,汚れ物質の暗色の程度は腐植物質形成量に依存することを示めしている.この結果は,氷河上での腐植物質の形成量が,氷河表面のアルベドに大きく影響する可能性を示している.


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