ワカケホンセイインコのねぐら集団の警戒行動について

99/3卒 滝本知宏

 東工大大岡山キャンパス南2号館東側にあるイチョウの木に、およそ600羽のワカケホンセイインコなど数種のインコが集団でねぐらを形成している。昼間は数羽という採食群にわかれて行動し、夕方になると、一斉にねぐらへと帰ってくる。しかし、なぜこのように毎日夕方になるとねぐらを形成するのかに関しては、集団防衛のため、情報交換をするためといった説はあるものの、はっきりとした理由ははまだ明らかになっていない。そこで本研究では、ワカケホンセイインコのねぐら集団形成の意味を探ることを目的として、金属棟・南2号館屋上において、ビデオ撮影・音声録音・目視による観察を行った。
 まず、観察の結果、ねぐらを形成する過程において、ねぐらに入る前に必ずねぐら近くの場所に一度待機する、という待機行動をすることがわかった。そして、この待機行動には、5月から10月中旬までは金属工学棟東側の住宅街にある電線が利用され、10月中旬以降は主にねぐら周辺のイチョウの木が利用された。また、この待機場所を移動した時期は、ねぐらとなるイチョウの木の落葉の始まった時期とほぼ一致した。
 これらの観察結果から私は、この待機行動はねぐらの安全を確認するための警戒行動ではないか、ねぐらに葉がある時期はねぐらから遠い電線で警戒をし、ねぐらの葉の紅葉が始まってからは、ねぐら内の見通しが比較的よいため、ねぐらに近いイチョウの木で警戒するのではないかと推測した。そこで、この行動を詳しく調べてみると、待機場所が電線である時期は、待機場所がねぐら周辺のイチョウの木である時期よりも、そこでの待機時間が長いこと、電線を待機場所としているときには、ねぐら周辺を待機場所としているときにはほとんど見られない、ねぐら上空を旋回する、一度数羽がねぐら或いはねぐら周辺にとまり、その後もう一度待機場所に戻るといった行動が見られること、待機場所にいるときには、ねぐらにいるときに比べて、静かで、また動きも少ない、といったことがわかった。
 現在のところ、この行動を警戒行動と確定することはできないが、今後は、この待機行動の他に観察されている、カラスなどの捕食者が現れたり、大きな物音がしたときの、ねぐら全体が静まり、動きがほとんどなくなる、或いはモビングをする、といった行動にも注目し、この2つの行動で共通してみられる特徴を分析し、実際にねぐら付近に警戒対象となるものを置き、プレイバック実験を行なうことで、ワカケホンセイインコのねぐら集団形成の意味を、警戒という観点からさらに深く掘り下げていきたいと思う。


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