キリ植物体上の微細構造に関する研究

小林 左和   98.3

はじめに

我々にとってなじみ深い植物にも,その機能が未だに知られていない微細構造が数多くあり,多くはその存在すら認識されていない。本研究では,ゴマノハグサ科のキリを対象に,このような微細構造の機能を明らかにする手掛かりを得るために,どのような微細構造が植物体上のどこに,いつ現われるかを明らかにすることを目的に調査を行った。

微細構造

調査の結果,キリには皿状器官,樹枝状毛,腺毛の3種の微細構造が存在することが明らかになった。皿形器官は今回その存在が初めて明らかになった微細構造である。直径0.3mmほどの皿状の器官で,葉の両面,茎やガクの表面に分布する。この皿形器官は無色透明な糖を含む液体を分泌する分泌器官であることが明らかになった。皿状器官の分泌液には糖が含まれており,アリ等の昆虫が分泌液をなめる行動が観察された。したがって,アリ等を利用した捕食者対策と関係した機能が考えられる。樹枝状毛は,長さ0.3mmほどの半透明または黄色の毛状組織で,葉の両面,ガクおよび花芽の表面に密生する。腺毛は,長さ0.2-0.6mmほどの透明な中空毛状組織で,先端から高粘度の液体を分泌する。腺毛は,葉の表側や茎,花びらや実の表面に存在する。樹枝状毛や腺毛にトラップされたアブラムシ等の昆虫が観察されることから,植物体上での捕食者の活動を妨害する機能を持つ可能性がある。 

葉の成長や種類による微細構造の変化

 葉に存在する微細構造は葉の展開前から既に形成されているが,その数や活性は葉の成長段階によって変化することが明らかになった。葉の展開時には葉の両面は樹枝状毛に密に覆われているが,成長と共に表側の樹枝状毛のみ脱落する。表側では,樹枝状毛の脱落により腺毛と皿状器官が表面に露出するが,腺毛の分泌物の生産はこのころ最も盛んになる。さらに成長が進んで成葉になると,腺毛は脱落し,かわりに皿状器官の分泌が盛んになる。皿状器官は葉の展開後も形成・脱落をくりかえし,その数は成葉になるまで増えることが明らかになった。またキリでは,その年に新たに伸長した枝(シュート)の成長段階により展開する葉の大きさや形が異なり,皿状器官の分布や密度にも違いが見られることなども明らかになった。

これらの結果から,キリ植物体上の微細構造の機能について考察する。


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