音楽聴取が瞳孔面積および瞬きにおよぼす影響について

99/3卒 小倉祥史

研究の目的

ヒトは、例えば音楽や美術など他の生物には見られない行動をする。このような高度な精神活動を伴う行動にも生物学的な意味があるのだろうか。そもそも、音楽とはいったい何であり、ヒトは音楽から何を得ているのだろうか。このような根源的な問題への手がかりを得るために、音楽がヒトの体にどのような変化を引き起こすかについて、主に心理学者による様々な研究がなされてきた。音楽聴取によって脳波や心拍、皮膚電気抵抗、血圧、ホルモンなどにどのような変化があるかが検討されてきたが、はっきりした変化が検出された例は少ない。比較的はっきりした生理的変化としては、被験者が好む音楽を聞いた時にだけテストステロンレベルが低下するという報告(福井、1996)があり、音楽活動がストレス緩和のための行動であるとする説の根拠となっている。そこで本研究では、ストレスや好悪の感情などの精神的変化を敏感に反映することが知られているが、これまでに音楽行動との関係については未だ調べられていない瞬目や瞳孔面積について、音楽聴取による変化が見られるかどうかを検討した。

方法

被験者(現在18名)それぞれに、5種類の音刺激:@無音(つまり刺激なし)A単音 Bノイズ C新奇な音楽(ガムラン)D被験者の好きな音楽(あらかじめ被験者に用意しておいてもらう)を与え、瞬目頻度と瞳孔面積の測定を行なった。1回の測定につき1種類の刺激とし、次の測定までには5分以上の休憩を取ってもらった。1回の測定は150秒間で、コントロール区間(30秒)、刺激区間(90秒)、刺激後区間(30秒)の3つの区間によって構成されている。測定は外界からの音を遮断した暗室内で行い、視覚刺激は、実験中コンピューターディスプレイ上の同一図形を注視してもらうことによって統一した。

結果

 被験者が好きな音楽を聴取した際の瞬目および瞳孔面積の結果(18人の平均値)を図に示す。まだ十分な統計的検討が可能な被験者数に達していないが、現在のところ平均値の比較では、瞬きに関しては音楽刺激による有意な変化は検出されていない。瞳孔面積に関しては、音楽聴取後に若干縮小する有意な傾向が検出されたが、被験者によりその反応に大きな違いが見られ、一貫した傾向とは見なされなかった。現在、被験者数をさらに増やして、個人差の程度、その原因等を分析中である。


要旨リストに戻る