待ち合わせ場面における人間の行動

西村裕介

 日常の極めてありふれた場面において、人間が無意識に行っているしぐさや行動の中には、人間の動物としての性差や行動パターンが隠されていることが、人間行動の動物学的研究によって、最近明らかになりつつある。本研究では、駅周辺の待ち合わせによく利用される場所で観察を行い、待ち合わせ場面に見られる一連の行動について調査を行った。

【方法】

 渋谷ハチ公前、有楽町マリオン、新橋SL広場、京浜急行横浜駅改札口などで、比較的待ち合わせの多い時間帯(主に17:00〜20:00)に観察を行った。一連の待ち合わせ行動の中で特に、一方が相手を発見してからその場を共に立ち去るまでの、腕の動作や声を伴った行動や、その他の合図や接触行動について観察し、観察例ごとに被験者の性、推定世代、推定関係について記録した。

【結果・考察】

 約500組、1000例以上を観察した結果、待ち合わせ場面で起こる行動は、以下の6段階に分けられることが明らかになった。

1)第一発見:まずWAITER(待っている人)かCOMER(来た人)のどちらか一方が、相手を発見する。表情の変化や特徴的な発声が見られる。

2)アピール:未だ気が付いていない相手に対して、呼掛け、腕の動作、接触などによって、自分の存在を知らせる行動。

3)第二発見:WAITERとCOMER両者が互いを認識する。第一発見時と同様の表情の変化や発声が見られると同時に、発声や腕の動作によるコミュニケーションが始まる。

4)アプローチ:止って待つ、歩み寄る、駆け寄るという三種のパターンがある。第一発見段階から既にアプローチを始めている場合も多い。

5)最接近:WAITERとCOMERが最も接近した状態。ここで、身体接触や会話などのコミュニケーションが行なわれる。

6)移動:WAITERとCOMERが共に、待ち合わせ場所を立ち去る。最接近とほぼ同時に移動を始める場合も見られる。

 以上の各段階における行動を分析した結果、腕の動作を伴う行動に有意な性差があることなど、興味深い事実が明らかになった(グラフ参照)。腕の動作とは、2)3)4)の段階に見られる手を上げたり手を振る行動である。手の高さによってそれぞれ、1.頭より上 2.顔の横 3.肩、胸付近 4.腰付近に分類できる。腕の動作を伴う行動、特に手振りを行う頻度が男性より女性の方が有意に高いこと、また、腕の動作が行なわれる高さは、男性では肩より上(1.2.)が多いのに対して、女性では肩より下(3.4.)が多い傾向があることなどが明らかになった。

 これらの傾向が、果たして生物学的なものなのか文化的なものなのか、現段階において判断することは難しいが、今後の異文化間比較などの更なる研究に期待したい。


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