ワカケホンセイインコの音声に関する研究

杉山 歩武

<はじめに>

ワカケホンセイインコはインドやスリランカが原産の帰化鳥である.昼間は数羽の採食集団を形成して行動しているが,日没の直前になると数十羽単位の群れを形成してうるさく鳴き騒ぎながらねぐらに帰って来る.大岡山キャンパス南2号館近くのイチョウ並木には国内最大規模のねぐらがあり,500羽ほどのインコが利用している.当研究室のこれまでの調査により,ねぐら内でのインコの行動や集団ねぐらの形成と分散のプロセスは明らかになってきたが,鳴き声に関しては詳しい分析がまだなされていない.そこで本研究では,夕方のねぐらへの飛来から朝の飛び立ちまでに発せられる鳴き声のバリエーションを明らかにし,それがいつどのような行動に伴って発せられるかを知るための調査を行った.

<方法>

 大岡山キャンパス南2号館屋上から飛来から飛び立ちまでの行動をビデオ撮影し,同時に目視による行動観察と音声の録音を行った.記録した音声サンプルをコンピューターに取込み,サウンド編集ソフト(SoundEdit 16 Ver.2j)を使用して分析した.

<結果>

当研究室のこれまでの調査で,夕方ねぐらへ飛来してきた個体は,うるさく鳴き騒ぎながら特定のスリーピングエリアへの移動を行っていること,飛来集団には血縁集団と思われる小集団が多数あり,ねぐら内での移動はこの小集団単位で行なわれること,鳴き声がうるさい時間帯には寝場所確保のためと思われる喧嘩が多く見られること,また朝は夕方と同じように鳴き騒いでいるが行動は異なり,喧嘩はあまり観察されず羽繕いやディスプレイ,交尾などの性的な行動が見られ,飛び立つ際にはいくつかの小集団に分かれて一斉に飛び立つことなどがわかっている.

この間に発せられる音声は従来5種類の音声に分類されていたが,今回の調査によって少なくとも以下の9つのタイプがあることが分った.それぞれをkyo鳴き1,kyo鳴き2,kyo鳴き3,garg鳴き,qua鳴き,quu鳴き,pulse音1,pulse音2,click音と呼ぶことにする.kyo鳴き1〜3は,従来一種類の音声であると考えられていたが,kyo鳴き1とkyo鳴き3は,一つのSyllable(句)が二つのNote(素音)で構成されているのに対して,kyo鳴き2は一つのSylablleが単独のNoteで構成されていることなど,周波数スペクトルに明らかな違いが見られた.kyo鳴き1は夕方の飛来時と朝の飛び立ち時,つまり飛翔中に発せられることが多く,kyo鳴き2はねぐら内で,またkyo鳴き3は朝の飛び立ち直前に多く発せられるなどの事実から,異なった機能を持つ音声であると考えられる.これら9タイプの音声と行動との対応関係から,それぞれの音声の機能について考察する.


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