動物研究の倫理に関するガイドライン

京都大学野生動物研究センター
〔平成23年3月7日 専任教員会議制定〕
〔平成24年11月13日 専任教員会議修正〕
〔平成24年11月22日 協議員会決定〕
〔平成27年4月10日 協議員会改正〕

基本方針

 京都大学野生動物研究センターは、野生動物に関する教育研究をおこない、地球社会の調和ある共存に貢献することを目的として設立された。その具体的な課題は次の3点に要約される。第1に、絶滅の危惧される野生動物を対象とした基礎研究を通じて、その自然の生息地でのくらしを守り、飼育下での健康と長寿をはかるとともに、人間の本性についての理解を深める研究をおこなうこと。第2に、フィールドワークとライフサイエンス等の多様な研究を統合して新たな学問領域を創生し、人間とそれ以外の生命の共生のための国際的研究を推進すること。第3に、地域動物園や水族館等との協力により、実感を基盤とした環境教育を通じて、人間を含めた自然のあり方についての深い理解を次世代に伝えることである。上記の目的のために、野生動物研究センターにおいては、侵襲的な医学・薬学・生理学的実験、及び野生状態に比して著しく行動変容をもたらす可能性のある全ての行為は、理由の如何にかかわらず一切行わないことを原則とする。本指針は、以上の精神に従った上で、動物を対象とした非侵襲的な実験研究をおこなう者が遵守すべき指針として、本指針を定める。
 平成17年に改正された(平成18年6月1日から施行)「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物の愛護管理法)に新たに盛り込まれた、飼育下における動物研究の国際原則である3Rの原則を遵守した研究活動を行う必要がある。3Rとは、実験動物そのものを用いることに代わる研究方法、あるいは他の動物種を用いる方法、すなわち代替法の検討(Replacement)、科学的な信頼を損なわない範囲で使用頭数を削減すること(Reduction)、実験動物の受ける苦痛を最大限に軽減すること(Refinement)である。さらに、研究者側の責任(Responsibility)を加え、4Rを考える態度が求められる。本指針はこのために必要な基本的知識や規則等を記す。
 また、本指針は「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」(日本学術会議、平成18年6月1日)、「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」(厚生労働省、平成18年6月1日施行)、「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本方針」(文部科学省告示第七十一号、平成18年6月1日施行)及び「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」(環境省、平成18年4月28日告示)の規程を踏まえたものである。
 本指針は主として野生動物研究センター(以下、センター)の構成員または共同利用研究者が実施する、放飼場や動物園など飼育下の動物を対象とした非侵襲的な研究の方法について記述する。この章では、飼育下における動物研究に関する野生動物研究センターの基本方針について述べる。なお、チンパンジー及びボノボを飼養するセンターの附属施設である熊本サンクチュアリ(以下、KS)に関しては、チンパンジー及びボノボの飼養と研究利用に関して独自のガイドラインを設けており、KSでおこなう研究については、本指針に加えてKSのガイドラインに従う必要がある。また、動物園や水族館等で行う研究に関しては、当該施設における規則及び、世界動物園水族館協会(WAZA)による「動物園・水族館による動物研究の実施に関する倫理指針」に準拠しておこなうことが求められる。また動物の取り扱いについては分類群によって大きく異なるため、対象となる分類群に関する指針・ガイドラインなどがある場合は、そうしたものも十分に考慮に入れることが望ましい(例えば、霊長類については京都大学霊長類研究所の「サル類の飼育管理及び使用に関する指針」など)。

1. 機関等の長の責務

 京都大学の長である京都大学総長(以下、「総長」という)は、京都大学で実施されるすべての動物を対象とした実験研究等の実施に関して最終的な責任を負う。総長は絶滅が危惧される野生動物の保全に関する基礎研究を行う施設として野生動物研究センターを整備し、その管理者として野生動物研究センター長(以下、「センター長」という)を任命する。センターの構成員または共同利用研究者が実施する、放飼場や動物園など飼育下の動物を対象とした非侵襲的な研究に関しては、センター長が総長より一任され、その責務を代行する。センター長は、関連指針等を踏まえて、機関長の権限と責任をはじめ、飼育下における動物研究等を実施する場合の手続き、ならびに実験対象となる動物の適正な飼養・管理、施設等の整備及び管理の方法を定めた規定等を策定しなければならない。

2. 倫理委員会の設置

 研究倫理に関するガイドライン(本指針)を効果的に実行するために、実験計画の妥当性を評価し、その実施を監督する役割を有する野生動物研究センター研究倫理委員会(以下、倫理委員会)を設置する。倫理委員会はセンターの教員6名によって構成される。なお、倫理委員会が必要と認めた場合、倫理委員以外の者から意見を求める場合もある。
 センター長は、申請された実験計画が、本指針及び関連法規に即しているかを倫理委員会に諮問し、倫理委員会の審議結果に基づき適切な実験計画に関して承認し、不十分な実験計画に関しては指導・助言を行う。なお、実験の進め方については細則で扱う。

<研究・教育のための実験計画書の妥当性の審議及び助言>
 倫理委員会は、研究者から提出された実験計画書の内容を、本指針をもとに倫理的な観点から審議する。その結果をセンター長に報告する。センター長はその結果に基づき適正な実験計画書は承認し、不十分な実験計画については指導・助言を行う。

<実験の現状評価、場合によってはセンター長を通じて改善勧告さらには停止命令>
 定期的にセンター教職員によって実験状況の査察と評価を実施する。査察と評価の結果は、担当者から倫理委員会へ報告することとする。倫理委員長は倫理委員会に諮り、必要に応じてセンター長へ報告することとする。センター長は実験者に改善点を指導・助言を行い、改善が認められない場合には実験を停止させることができる。

<実験の報告書の評価>
 研究終了時に提出された実験終了報告書に基づき実験の評価を実施し、結果をセンター長に報告する。センター長はその評価に基づき必要に応じ実験者に指導・助言を行う。

3. 人道的取り扱いの原則と倫理委員会の権限

 病原体や毒物などを用いた実験、ストレスや苦痛を与える実験、手術を何度も繰り返す必要のある実験、拘束器具への長期の拘束を伴う実験、給餌や給水を制限する実験、幼若個体を親から分離して用いる実験等は、野生動物研究センターでは原則として実施しない。動物の苦痛や健康を考慮し、実験責任者及び実験実施者に対して実験スケジュールや実験手技の変更などを含めた指導や助言を実験倫理審査委員会が行うこともある。採血やバイオプシー等の詳細は、細則で扱う。倫理委員会が、動物の取り扱いが不適切であると判断した場合、迅速に実験責任者へ取り扱いの改善を求める。倫理委員会は、必要に応じてセンター長に報告し、改善が認められない場合には、センター長が実験中止の勧告などの罰則を科すことができる。

4. 野生動物研究センターの研究者のセンター外での研究について

 主たる身分が野生動物研究センターに属する研究者は、動物を対象とした研究を他機関で行う場合であっても、原則として、その実施前に倫理委員会に実験計画を提出し、審議をうけた後にセンター長の承認を得る必要がある。また、他機関において倫理審査を受けた場合には、承認された結果のコピーを倫理委員会に提出することが求められる。実施に際しては、野生動物研究センターの定める本指針に従わねばならない。

5. 情報公開の原則

 本指針、および実験計画書、実験終了報告書、共同利用・共同研究申請書、共同利用・共同研究報告書などは、情報公開の原則に基づいて、個人のプライバシーと研究上の利益を侵さない範囲で、求めに応じて公開する義務がある。

6. 関連法規、指針の遵守

 動物の飼育管理に関し以下の法規、指針を遵守する。
  • 「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物の愛護管理法)(昭和48年10月1日、法律第105号)
  • 「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」(平成18年10月31日、環境省告示第140号)
  • 「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(文部科学省告示第七十一号)
  • 「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(平成4年6月5日、法律第75号)
  • 「動物実験に関する指針」(昭和62年5月22日、日本実験動物学会)
  • 「京都大学における動物実験の実施に関する規程」(平成19年2月5日、達示第72号制定)
 霊長類に関しては以下の指針も遵守する。
  • 「サル類を用いる実験遂行のための基本原則」(昭和61年6月14日、日本霊長類学会)
  • 「サル類の飼育管理及び使用に関する指針第3版」(平成22年、京都大学霊長類研究所)
  • 「野生霊長類を研究するときおよび野生由来の霊長類を導入して研究するときのガイドライン」(平成20年6月27日、京都大学霊長類研究所)
  • 「チンパンジー・ボノボの飼育管理及び使用に関する指針」(平成27年4月10日、熊本サンクチュアリ)
 動物園で行われる研究については、世界動物園水族館協会が定めた「動物園・水族館による動物研究に関する倫理指針」(日本語翻訳:佐藤義明・友永雅己(2010)「動物心理学研究」第60巻2号、139-146)を遵守する。また、諸外国における指針等についてもその主旨をよく知り、取り入れていくことが望ましい。(米国NRCガイドライン等)

特記事項

2011年 共同利用・共同研究募集に際し制定
2012年 京都大学野生動物研究センターにおける動物を対象とする研究の実施要項制定に伴い、修正