海の中で歌うアゴヒゲアザラシ

水口大輔

アゴヒゲアザラシ

学名:Erignathus barbatus

その名の通り長いヒゲが特徴的とくちょうてきな、鰭脚類ききゃくるいの1しゅです。3-5月にオホーツク海やベーリング海、北極海ほっきょくかい周辺しゅうへんの氷上で出産しゅっさんし、離乳りにゅう後に水中で交尾こうびをします

アゴヒゲアザラシ

アザラシと聞いて最初さいしょに思いうかかぶのは、陸上りくじょうでゴロゴロと寝転ねころんでいる姿すがたではないでしょうか。たしかに、アザラシは陸上りくじょうで動くのはすごく苦手で、イモムシみたいにうねうねとしか動くことができません。しかし、実はこのアザラシたち、海の中では非常ひじょう機敏きびんに泳いでおり、陸上りくじょうでの姿すがたからは想像そうぞうもつかないような興味きょうみ深い行動を見せてくれます。とくにアゴヒゲアザラシは、水の中で不思議ふしぎな音を出すことが知られています。実際じっさいいてみたい方は、インターネットで「アゴヒゲアザラシ 鳴き声」と検索けんさくしてみてください。「ひゅ~どろどろ」と、お化けでも出てきそうな音をくことができます。

では、アゴヒゲアザラシは一体なんのために水中でこんな音を出すのでしょうか?野生のアザラシはりくから遠くはなれた海でらしており、かれらの水中での行動を人間の目で直接観察ちょくせつかんさつすることは困難こんなんです。そのため、野生のアザラシたちがいつ、どのように、そして何のために音を出すのかは、ほとんどわかっていません。そこでわたしは、じっくりと行動を見ることのできる水族館で、アザラシの観察かんさつと水中マイクでの録音ろくおんを行い、かれらがどのように音を使っているのかを調べています。

音声を聞いてみよう

アゴヒゲアザラシの音声を聞いてみよう!

野外でのアゴヒゲアザラシ調査風景
野外での調査風景
野外でのアゴヒゲアザラシ調査風景
野外でのアゴヒゲアザラシ調査風景
動画を見てみよう

アゴヒゲアザラシの動画を見てみよう!

水族館での観察かんさつ結果けっか、アゴヒゲアザラシのオスは交尾こうびを行う時期にだけ、のどを風船のようにふくらませて音を出すことがわかりました。また、オスの鳴き声は全部で3種類しゅるいあり、これらの音を決まった順番じゅんばんで出すことがわかりました。人間の歌に「ド・レ・ミ、ド・レ・ミ」と決まった順番じゅんばんがあるように、アザラシもまた水中で歌っていたのです。一方メスはというと、鳴いているオスの方へゆっくりと近付ちかづいていき、自分の鼻をオスの鼻やのどし当てました。どうやら、オスの歌はメスへ求愛きゅうあいするために使われており、歌にけられたメスが鼻をし当てて返事をしにくるようです。視界しかいの悪い海の中で、遠くにいる交尾こうび相手を見つけるためには、このような歌を使ったやり取りが重要じゅうよう役割やくわりを持つのだと考えています。

少しずつですが、アザラシがどんな風に音を出すのかがわかってきました。今後も観察かんさつつづけて、かれらの不思議ふしぎな音の秘密ひみつき明かしていきたいと考えています。

研究者に聞いてみました!あなたの研究の相棒はなんですか?
水中マイク
水中マイク

マイクを海中に沈めると、水中の音を録音できる。レコーダーに記録された音は、ソフトで解析する。


偏光グラス
偏光グラス

水面で乱反射した光から目を守るためだけでなく、氷上などにいるアザラシを探すための必須アイテム。

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